やっぱり私の事なんて
夕飯前にアイちゃんからラインが来た。「もしかしてキタガワ?」って。ユウミちゃんと3人で喋るためのグループラインだ。でも部活から帰ったキタガワからかと思って、とたんにがっくり来る私だった。アイちゃんに申し訳ない!
そしてその後すぐ、全く同じ「もしかしてキタガワ?」というラインがユウミちゃんから。それもキタガワからだと思って再びがっくり来る私だ。ユウミちゃんにも申し訳ない!
「クラス会で好きだった的な事言われたのって、まさかのキタガワ?」とアイちゃん。
「おかしいと思ったんだよね」とユウミちゃん。
アイちゃんが続ける。「先週もナカちゃんを昼休みに連れ出すタイミング。彼氏の友達を紹介しようとしてた時だったし。今日も」
二人には教えたいな、キタガワとの事をちゃんと。でも話すとしたら小学の、私が小4の時にもらったヘアピンの話から始めないといけないし…
キタガワとは小学では3年から5年まで同じクラスで、ビーズのネックレスをもらったのが直接のきっかけだったけれど、そもそも小4の時に一番女子に影響力のあったキムラさんとたまたま同じヘアピンを付けていて、その事で女子の何人かにキムラさんのまねをしたんじゃないのかと責められた事があって、それを見ていたキタガワが『中田の方が先に付けてた』って言ってくれた事があったのだ。でもその頃のキタガワは、背も低いしあまり目立たない普通の男子だったので女子に猛攻撃を食らってしまった。もうそれは私が逆にかばいたくなるくらいに。いろいろ面倒くさいなと思った私はそのヘアピンを2度と学校では付けなかったのだけれど、その少し後にキタガワが私にヘアピンをくれたのだ。きれいな水色と紫のビーズで花の形が作ってある可愛いヘアピンだった。『オレからもらったって言うなよ』って言われたけれど嬉しくて、それで小5の誕生日の前日にビーズのネックレスをもらってすごく好きになったっていう話。
かいつまんでこんな感じだし、アイちゃんとユウミちゃんに私の気持ちをわかってもらうためにじっくり説明するとなると、そんな長い話、ラインじゃとても無理。それはまた今度ちゃんとゆっくりするとして、取りあえず差しさわりがないように二人には教える。
「小学の時から気になってたって言われた」
「「やっぱね!!」」とアイちゃんとユウミちゃん。
『好きだ』とも最後には言ってくれたけど、よくよく思い出したらあれは、あのキタガワに呼び出された小学校の校庭でその時遊んでいた小学生たちに、『告ったのか』『好きなのか』ってはやし立てられた挙句に、私がキタガワの事を好きだって言った事への返事みたいな感じで笑いながら言われたのだ。しかも私のほっぺたを思い切り引っ張りながら。
あの時はあれがものすごく嬉しかったけれど、今日下校の時に考えた事も相まって、あの、『オレも好きだから』って言うのも、小学生たちに乗せられて仕方なく言ったんじゃないかってちょっと思えてきたどうしょう…
「気になってたって事は好きって事でしょ?」とユウミちゃん。
「ナカちゃんも好き?」とアイちゃん。
「うん」と答える。
「きゃ~~~」とユウミちゃん。
「うお~~~」とアイちゃん。
ユウミちゃんが白眼をむいたクマのスタンプを送って来た。「キタガワ、モテるから大変だね!」
アイちゃんに聞かれる。「そっかそっか。じゃあうちの彼氏の友達と一緒にどこか行くってもう無理な感じだね」
「うん」
「あれ?でも付き合うようにはまだならなかったって言わなかったっけ昼ご飯の時」とユウミちゃん。
私ではなくアイちゃんが答える。「そうそう!付き合う事にはなってないって言ってた」
「なんかソレ、腹立たない?」とユウミちゃん。
え?
アイちゃんが答える。「うん。イラっとする!」
え?
「キタガワ、モテるからナカちゃん一人にしぼりたくない、みたいな話だったらすんごい腹立つ!」とユウミちゃん。
いや私のために腹を立ててくれるのはすごく嬉しいけど、キタガワはそんなヤツじゃない。でも…
「そんな事はないよ」という私の答えは、字面にしたら普通に否定しているけれど、これが口に出して言っていたら私の不安が二人にバレてしまったかもしれない。
やっぱり普通はお互い好きだってなったら、即付き合おう!みたいな感じになるのかな…
「まだやっとね」と私は二人に説明する。「お互いそういう感じなんだって二人で確認しただけだから」
「確認てどういう感じ?」とアイちゃん。
それも説明すると長くなるよね…電話でも長くなる。
「今度時間がある時にゆっくり話したいんだけど」と私。
「お互いって事はナカちゃんもキタガワにずっと気にしてた、みたいな事を言ったって事だよね?」とユウミちゃん。
恥ずかしいな。「まあそうなんだけど」
「そっか~~~」とアイちゃん。「たまにキタガワを睨んでる事があったから、ああいう誰にでも優しい感じの子嫌いなのかと思ってた」
「でもそれで付き合うわけじゃないんでしょ?」とユウミちゃん。
「だんだん仲良くなっていくのがいいよね、みたいな話になって」と私。
「キタガワがそう言ってんの?」とアイちゃん。
「いや私もなんだけど」と答える。「一緒にいろいろ話したり、遊びに行ったりしてるうちにもっと仲良くなって行こうって…」
「何それ」とユウミちゃん。
「そういう事する事がもう付き合ってるって事でしょ?」とアイちゃん。
「なんかそれズルくない?」とユウミちゃん。
ずるい?
ベ~~と、アイちゃんからベロを出した可愛くない犬のスタンプが送られてきた。そしてほぼ同時にユウミちゃんから「納得いかない」みたいな顔をした猫のスタンプ。
「じゃあいいじゃんうちらの方にも誘っちゃえば。なんかその方が面白そう」とアイちゃん。
面白そう?
「今日だってキタガワ、私たちの話に反応してナカちゃん連れ出したし」とユウミちゃん。
「キタガワ、モテるしさ、カレカノにならない方が楽だとか思ってるんじゃないかと、私はナカちゃんの事をちょっと心配してる」とアイちゃん。
「取りあえずナカちゃんキープみたいな感じ。ムカつく!」とユウミちゃん。
いやぁ…キタガワはそんなヤツじゃないんだよね。今は確かにそう思われそうな感じなんだけど、本当のキタガワはそんなヤツじゃないんだよ。私のためにキタガワに腹を立ててくれる二人の事はとても嬉しいけど。
実際フルカワさん達が面倒くさくて、一昨日の事を黙っておいてって頼んだのは私の方だったし。それに…私をとりあえずキープして何になるんだろう…
「ありがとう」と私は二人に送る。「小学校からいろいろあって、そんなたいした事じゃないんだけど、話すと結構長いからまた今度ゆっくり話したい。二人には全部聞いて欲しい。でもゴメン昼ご飯の時はキタガワがそばにいるからちょっとダメだけど」
「わかった!うれしい。じゃあ今度の土曜日!」とアイちゃん。
「うん土曜日!」とユウミちゃんも。「3人で遊ぼう」
食事を終えてお風呂にも入って部屋に戻ると、今はあんまり連絡を頻繁にはしなくなった同中の子から3人、そして中学で一番仲良くしてくれてたけれど今は別の高校に通っているスギタトモミちゃんからラインが来ていた。キタガワからは無しだ。
信じらんない!わざわざ帰り戻って来てまで気を付けて帰れって言ってくれて、ラインもするって言ったくせに!やっぱり私の事なんて本当はあんまり気になんてしてないのかも…




