おかしい
渡してくれたプリントをタダ君も一緒に覗き込みながら教えてくれる。
「計画表の日付が間違ってるらしくて、ココとココ、訂正してって、オレがもう赤で書き直しといたからハイこれ」
「ありがと!」
「なあ、」と、そこで急に話に割り込んできたのは、さっきもう行ってしまったと思っていたキタガワだった。
「何のプリント?」
聞かれて、「委員会の」と答える。どうしたんだろ…忘れ物かな。
「中田」タダ君がわざとらしい真面目顔で言う。「オレは訂正自分で書き込んだにも関わらず絶対ぇ忘れそうだから、来週の委員会の時声かけてよ?」
「うん。…でも私も忘れそう」
「「ハハハハ…」」と緩く笑う私とタダ君。
この前の委員会も二人して遅れたんだよね…もう机に書いとこうかな。
「オレ、もう机に書いとくわ」と言うタダ君。
「私も今それ思った!」
「もう~~」と自分の事は棚に上げて呆れるタダ君だ。「中田~~しっかりしてくれ~~」
「キタガワ?」私はまだそこにいるキタガワに聞く。「なんか忘れ物?」
「いや」とキタガワ。
「じゃあな、中田。キタガワもお疲れ」
言われてタダ君に手を振る私だ。「うん、ありがと。バイバイ」
タダ君が行ってしまうと私をじっと見るキタガワ。
え、何、じっと見られたら赤くなるよ私…そりゃ好きな人に見つめられたら赤くなるよダメだな。
「どうしたの?」と、それをごまかすために普通に聞いてみると、「お前今日部活ない日よな?」とキタガワが言った。
「うん」
「じゃあ気を付けて帰れよ」
…もしかしてキタガワ…これを言ってくれるためにわざわざ戻って来てくれたの?
嬉しい!!
でも恥ずかしい。嬉しい恥ずかしい嬉しい恥ずかしい嬉しい…
「って言う意味でさっき教室で目え合わしたんだけど…」とキタガワ。「なんかお前、うなずいたけどほんとわかってんのかなって思って」
そっか、そういう意味だったのか…嬉しいな。
「私、『また明日な』って言ってくれてんのかと思った。だから、『部活頑張って』って言う意味でうなずいたんだけど」
「マジか…」と言ってちょっと目を反らすキタガワ。「サンキュ」
「うん」
「じゃあな、帰ったらラインする」
「うん!」
帰り、一人でバスに乗りながら今日一日の事を考える。
やっぱり…やっぱりいろいろ嬉しかった!いろいろ途中でモヤっとする事があっても全体的に浮かれているのだ。今朝連絡をもらうまでは不安であんなにイライラしていたのに。
そしてそもそも先週末までイライラしながら見ていたキタガワも、ずっと私の事を気にしててくれてたんだなと思うと、授業中でも顔がひとりでに赤くなりそうで、意識してキタガワをあまり見ないようにはしているつもりでもやっぱり見ていた。担任の水本にも指摘されるくらいに。
キタガワと何年ものブランクの後お互い好きなのがわかったけれど、それは『嬉しい』と同じくらい『恥ずかしい』という気持ちも大きい。
小学の時キタガワを好きになったきっかけの、キタガワからもらったビーズのネックレスを、いつでも持っていたくて、キーホルダーに作り変えて通学用の補助かばんに付けていたのを、しかもそれをはずした時期までを全部、キタガワにバレていたからだ。
「好き」「好き」「好き」ってずっと言ってるようなもんだもんだったよね。キタガワも恥ずかしかったって言ってた。『オレからもらった事、誰にも言うなよ』って言って渡してくれたのに。
それでも嫌には思わずに、私がそのキーホルダーをはずした後、また別の、もっと綺麗なネックレスを作って渡そうと思ってくれていたのだ。
…って思ったらまたニヤついてきた。バスの中で一人でニヤつくなんて気持ち悪い。それも恥ずかしい。
…でも…あれ?
…あれ…
私の何をもってキタガワはそこまでずっと好きだと思ってくれていたんだろう。
…ずっとしつこく、もらったネックレスで作ったキーホルダーを付けてたせい?
もしかして、いやもしかしなくても、ちょっと仕方ない、的な気持ちが入っているんじゃないかな。もう~~オレの作ったのいつまでも持ってやがって~~仕方ねえな~、って。オレの事そんなに好きなのかよ仕方ねえな~、って。
でもあの最初のネックレスをくれたのが私の誕生日の前日で、それで余計に私は嬉しくて、キタガワの事を野放しで好きになってしまったんだけど、実は誕生日だって知ってて、当日に渡すのが恥ずかしかったから前日にくれたんだってキタガワは一昨日教えてくれた。しかもくれたのは手作りのネックレスだ。
さっきだってわざわざ戻って来て、『気をつけて帰れ』って言ってくれた。
どうなんだろ…キタガワは本当のところ、私の事をどんな風に見ていてくれたんだろう。そして今、私の事をどんな風にどれくらい好きでいてくれるんだろう…
…うわ…もう~~~こんな事考えるの気持ち悪…キモ恥ずかしい…
キタガワが女子にモテて、女子に調子よく相手してるのを見て嫌だなって思っていた私は、結局キタガワが小学の時みたいに私にだけ優しくしてくれたらいいのにって思っていたわけだから…
それってすごく独占欲強くない!?重くない?私…
重いよね!
私が男子だとして、女子にちょろっとあげたものを、その女子がいつまでもこれ見よがしに持ってて、それでずっと気にしながらチラチラ見てたら…結構気持ち悪いと思うのに…え、じゃあキタガワはなんで今私の事を好きだって言ってくれたんだろう…あんなにモテるようになったのに。
おかしいじゃん!
おかしいおかしい。
今までニヤついて嬉し恥ずかしがって考えていたいろいろな事が全く譜に落ちなくなってきた。
今ならキタガワ、女子選び放題のはずじゃん。なのになんで私?
おかしいよね?絶対おかしい。
最終的にそういう思考回路で家にたどり着いたので、イライラしていつもよりガツガツおやつを食べる私。
聞きたいな。キタガワに何で私を今好きだと思ってくれてるのかって聞きたい。なんで一昨日聞かなかったんだろう…
浮かれてたからだよね。目の前の嬉しい言葉をそっくり鵜呑みにして…
それで今さら聞けない。『私のどこが好き?』とか、そんなのカップルがイチャつく時にする質問じゃん。一昨日の、『オレも好きだから』って言われたタイミングだったら聞けたのに!あの時聞けば良かった…あの時は超浮かれててただただ喜んじゃってた。




