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誰にも言わないで!  作者: 山吹カオル
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おはよう

 

 「私との事、誰にも言わないで!」

校舎のはずれの非常口の前でキタガワに言う私。

 まさか私がキタガワに、『誰にも言うな』って言う事になるなんて。


   *    *    *    *    *



 小学生の時にビーズで作ったネックレスをもらって、すごく好きになってしまったキタガワカナエ。

 小学生の頃のキタガワは、私よりも背が低くてどちらかというと可愛い感じの、それでも意志のしっかりした男子だったが、中学に上がる前くらいから急に背が伸びはじめ、顔つきも変わって女子にモテ始め、中学では何人かの女子と付き合っているという噂まで流れて、私はキタガワを好きなのを止めた。 

 すごく好きだった分、余計に嫌だなと思っていたら高校でまた同じクラス。

 高校でも女子に調子の良いキタガワをさらに嫌に思って、それでもつい気になってチラチラ見ていたら、キタガワも実は私の事を小学生の時から、中学の間も、そして高校でまた同じクラスになった今でもずっと気にしてくれていて、私が友達に男の子を紹介されそうになっているのを邪魔して来たりなんかして、なんだかんだでお互いまだ好きだと思っていたのを認め合ったのがほんの一昨日の事だ。

 実際まだ信じられない。



 

 そしてキタガワの朝練がない月曜の今朝、私の家まで迎えに来るからと一昨日言ってくれていたけれど、昨日も丸1日何の連絡もなかったので、やっぱりアレはウソだったんじゃないかと夕べから思い始めて、目覚めた直後からイライラしている。

 私からラインしてみようかとも思ったけれど、向こうからは連絡ない上にスルーされたらとてつもなく凹んで考えられないくらいイラつきそうな気がしたので怖くて出来ず、本当にうちまで迎えに来てくれるのかどうか、もう迎えに来てくれないんじゃないかとほぼ思いながら眠ったから、「本当はお前の事なんかなんとも思ってねえよ」って、キタガワに真顔で言われる夢を見てうなされ気味で起きた今朝だ。



 クソッ!、と夢の中のキタガワに悪態をつきながら起き上がる。

 ずっと気にしてたって言ったくせに。また手作りの綺麗なネックレスまでくれたくせに!



 そう。小学5年の時に同級生だったキタガワから手作りのビーズのネックレスをもらって、それがきっかけでキタガワを好きになってしまった私は、あんまりうれしかったもんだからそれをキーホルダーに作り変えて、ずっと通学用の補助バッグに付けていた。性懲りもなく中学になっても付けていたのだけれど、キタガワが学年でも派手な感じの女子と付き合い始めたという噂が流れて、そして別の女子とも、しかも複数の女子との噂も流れてキーホルダーははずしてしまったのだった。

 けれどその、キタガワには気付かれていなかったと思っていたキーホルダーの事を実はキタガワは気付いていて、私がそれをはずした後、また渡してくれようと思って、天然石を組み合わせたネックレスを3本も作って持っていてくれたのだ。 

 それで同じ高校に入学してまた同じクラスになり、中学の延長で女子に調子の良いキタガワが許せずに、それでも余計に気になっていたところに、私が友達のアイちゃんの彼氏の友達を紹介されそうになっているのをキタガワが邪魔して来て、さらには小学の時のクラス会があるとウソをつかれて小学校の校庭に行ってみたらキタガワしかいなくて、それで結局キタガワの家まで連れていかれてそのネックレスを渡され「ずっと気になってた」って、「オレも好きだから」って言われたウソのような、夢のような一昨日の話…


 やっぱウソで夢だったのかも!

 その時に月曜日は家まで迎えに行くって言ってくれたけれど、その夜にも何の連絡もなかったし、昨日もだ。何の連絡もなかった。明日の朝行くから、みたいな簡単なラインさえも無く…

 だからと言って自分からも、『明日来てくれるんだよね?待ってる!』みたいな可愛い言葉を送る事も出来ずに、消沈しながら昨日私は自分の部屋の押入れを漁り、奥深くに仕舞いこんでいた小学生の時のキタガワからもらったネックレスを作り替えて作ったキーホルダーを取り出し、手の平に置いてじっくりと見つめた。

 新しく貰った3本のネックレスに比べたら格段に子供じみた作りだけれど、私は新しい綺麗なネックレスよりこの、キタガワが初めて私に作ってくれたネックレスが方が好き。



 やっぱり小学生の頃のキタガワの方がカッコいいよ。女の子に慣れてさぁ、簡単にさぁ、うまい受け答えしてさぁ、ネックレスなんか渡して来て好きだなんて言ってさぁ、中学の時に噂のあった子とも本当は何にもなかったんだって言ってたけど、それも都合がいいように言っただけじゃないの?許せんな、ほんと許せん絶対許せんもう…

 そんな悪態をつきながらなかなか眠れず、やっと眠れたと思ったら寝覚めの悪い夢を見たせいで、起きても全く晴れない重い頭で、心を不安でいっぱいにして起き上がったのだ。

 もう知らない、キタガワなんか知らない、と思いながら着替えているところへラインが鳴った。

 『7時20分に行く』というだけの嘘みたいに素っ気無いキタガワからのライン。

 もう!今頃!バカじゃん!と思うのに、『うん』とだけ返事を打ちながら、ぱあっと一挙に心が晴れた。


 良かった!ウソじゃなかった。

 朝ごはんを食べながらもずっとソワソワドキドキして落ち着かず、早めに準備を終えて玄関の外で待とうとしたが、キタガワがうちに向かって歩いて来る時にどんな顔で待ったらいいんだろうと考えたら恥ずかしくなって、それでも家のチャイムを鳴らされて母が騒ぎ出したら恥ずかしいし、30秒くらい前にそっと外に出ようと思う私。いつもよりちゃんと身支度をする私だ。いつもより入念に髪もブラッシングする私。



 

 「はよ」というキタガワ。

 「おはよ」という私。

 わ~~なんか目を合わすのが恥ずかしい。でも良かった本当に来てくれた。

「すげえピッタリのタイミングじゃん」とキタガワ。

「…うん」

タイミングを狙って外に出てたのが、待ちきれなくて外に出た、みたいに思われたら恥ずかしいな。実際待ち切れなかったけど。中でぎりぎりまで待っている間も落ち着けなかった。

 あんな夢見た後だから、ちゃんと約束通りに来てくれた事が余計にすごく嬉しい。

 あんなに悪態ついてたのに、こんなに喜んでる自分が恥ずかしい。落ち着こう。


 



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