9話 先輩 by恋
それは夏休み前の急な出来事だった。
「失礼しまーっす」
見覚えのある男性2人が、突然生徒会室に現れた。
「せ、先輩ッッ」
私は思わず席を立つ。
拓海や、和樹くんや梨乃ちゃんは不思議そうに2人を見つめる。
「あ、えっと、前の生徒会の書記と会計をしてた人たちです」
私は軽く紹介すると、皆は驚きの様子だった。
「久しぶりだなぁ!恋チャン」
「久しぶり。恋」
軽い感じの陽気な方が、山下隆樹先輩に、
少し落ち着いた感じな方が、佐々原洵先輩だ。
2人は、自分の名前をみんなに自己紹介する。
「えっと、今日は何の用事で?」
隆樹先輩はそうだ!と拳を手のひらに乗せた。
「んーと、実はさぁ、夏休みで現生徒会と旧生徒会で旅行でもしようかなって」
「「りょ、旅行!?」」
皆は口を合わせて叫んだ。
「先輩方…旅行って…」
拓海は呟く。
「隆樹が提案したんだ。山奥で隆樹んちの別荘がある。海もあるし。」
洵先輩は、どうでもいいような口調で淡々と話す。
私は少し戸惑いながらも質問する。
「あの…、もしかして、それって仁も…?」
隆樹先輩は笑顔で頷いた。
「もちろん。仁も来るよ。仁から承認済み」
そんな…!!!
せっかく、落ち着いてきたとこなのに…
「でも、安心して。仁には、もう新しい彼女がいるみたいだし、君に手出しすることはないと思うから」
隆樹先輩は椅子に座り頬杖をつき話す。
「新しい彼女!?」
「あぁ。この前なぁ、一回、仁に電話したんだよ。この事伝えるために。そしたら、電話の奥でさぁ…」
「女の声が聞こえたんだよ」
隆樹先輩が言おうとするところを洵先輩が遮った。
「そうなんだよ。んで、俺は、彼女も連れて来いよって冷やかしてみたんだ。もしかしたら、まじで一緒に来るかもな」
彼女ってどんな人なんだろう…?
少し複雑な気分のまま困惑していると、拓海は私の頭を軽く撫でた。
私の気持ちを察してくれたかのように、拓海は先輩たちに言った。
「すみません。それには行けません。恋と俺は」
隆樹先輩は、すぐに私達の関係が分かったのか余裕の表情を見せた。
しかし、すぐに首を横に振った。
「ごめんね。君たちに拒否権ないんだ。もう新幹線のチケット取っちゃってて。キャンセル料払うのもあれだし、どうせなら行こうよ?」
私達は暗黙するしかなかった。