8話 冷感 by梨乃
何だか、あの2人を見ていると腹が立つ。
才色兼備である鈴野先輩と学園の高嶺の花、白高先輩。
鈴野先輩を好きであろう仲内先輩も。
生徒会に恋愛事を持ち込まないでほしい。
私はただ有名大学への推薦を取るためだけに入っているというのに。
迷惑極まりない。
少し不機嫌で顔を歪めていると、白高先輩が私に飴を差し出した。
「ストレス溜まってるんじゃない?眉間にしわ寄ってるよ」
そう言って、飴を私の手に乗せた。
私は即座に白高先輩の手に乗せ返した。
「結構です。少し休憩させて頂くので」
私は席を立ち、生徒会室を出た。
ああいう風に優しくされるのは苦手だ。
男の人に話しかけられるのも苦手だ。
白高先輩は、いつも私に話し掛けてくる。
「調子狂う…」
一人呟き自動販売機でコーヒーを買う。
すると廊下から走り歩きしている鈴野先輩がいた。
「あ、梨乃ちゃん」
私は軽くお辞儀する。
「宿泊研修はお疲れさまでした。しおりとか作ってくれて助かったよ」
「いえ、役に立てて何よりです」
「ふふ。じゃあ、ゆっくり休憩してね」
そう言い、鈴野先輩は去っていく。
鈴野先輩、いつにも増して笑顔だったな。
きっと、私が見てしまったことが元だろう。
この前の宿泊研修で、私は偶然見てしまった。
鈴野先輩と白高先輩が口付けをしているところを。
そこだけ雰囲気が違うような、不思議な感じだった。
思わず、見惚れてしまった。
少しだけ羨ましく思う自分がいた。
生徒会室に戻ると、仲良さげに話している2人がいた。
笑いあっている。
私は静かに席に着いた。
机の上に散らばった資料を片付ける。
「あ、すいません。先生に用事があるので行って来ます」
鈴野先輩は慌しく出て行った。
また白高先輩と2人っきりだ。
「あいつ、よく働くよな」
白高先輩は幸せそうに呟く。
「そうですね」
「忙しすぎて体調悪くしないか心配だよ」
「…」
そんなに大好きなんですか。
私は白高先輩をじっと見つめた。
「ん?」
「白高先輩、鈴野先輩とお付き合いなされてるんですか?」
問うと、白高先輩は驚いた表情をする。
そして少し頬を赤らめた。
「何で分かったの?」
「この前、キスしてるとこ見ました」
「あ…あぁー…。やっちゃったなー。秘密な」
気まずそうに頭を掻く。
「でも、鈴野先輩、前の生徒会長とラブラブだったらしいですよね?」
痛いとこ突いてしまったのか、白高先輩の表情が一変する。
「そうだな。だけど急に別れて、あいつ傷ついてたんだ」
「…そうなんですか」
「うん」
「いつでも相談なら乗りますよ」
私は咄嗟に口出していた。
私はハッと発言した言葉に恥を描く。
だけど、白高先輩は、優しい微笑みを浮かべた。
「ありがとう」
少し、胸が痛んだ。