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3話 相愛 by拓海




「仁とは別れたよ」



突然の事に俺は驚いた。


いつも、相思相愛だった、恋と仁先輩が別れた。


信じられなかった。


仁先輩が東京に行くとは知っていたけど、遠距離になっても、あの2人なら大丈夫だと思っていた。


だけど、まさか別れるなんて。


恋は今にも泣きそうな顔で俺に言った。


「ごめん…ごめんなさい…」


溢れ出てくる涙を恋は必死に我慢している。


何で、こいつはこう、何でも一人で抱え込もうとするんだ。


俺は溜息をつき、恋を抱き寄せた。


「泣いて良いって。」


俺がそう呟くと恋は、声をつまらせながら泣いた。


「仁…うっ……ひっく…」


必死に仁に呼びかけている。


そんな姿を俺は見に耐えなかった。


強く抱きしめて、このまま俺のものにしてやりたかった。


こんな風に恋を泣かせる仁先輩を俺は許せない。



仁先輩は、いつも逞しくて、俺としても尊敬できる先輩だった。


サッカー部の先輩でもあったし、とても信頼していた。


けれど、これだけは許せない。








恋は小さい頃からの幼馴染で、いつも隣にいた。


恋は知らないだろうけど、俺はずっと邪な気持ちで恋を見ていた。


好きだった。


けれど、思いを伝えることもできずに、高校生になった。


同じ高校で、これからもずっと、一緒だと思っていた。


だけど高校一年生になったばかりのある日。



「鈴野恋!!!」


活気溢れた声が朝会で体育館全体に広がった。


朝礼台に堂々と仁王立ちしている仁先輩は何もかも見据えているような顔で、叫んだ。


「お前を副会長に任命する!!放課後生徒会室に来い!!!」


女子からうるさい喚き声が響く。


どうやら仁先輩は、女子から人気のある男子だったらしい。


当然だ。


綺麗な顔立ちに、真っ直ぐな瞳。


鍛えられた体に、低く優しい声。


恋は顔を真っ赤にして、仁先輩を見つめていた。






放課後、教室で恋を待っていると、恋が、喜びの感情を表しながら入ってきた。


「どうだった?生徒会」


「仁先輩、すごく良い人なの…。会計の人も、書記の人も皆男だって言うから心配だったけど…みんな良い人だったよ」


俺にとって恋の初めての表情を見た。


その瞳は夢に向かって歩く人そのものだった。


きっと物凄く良い事なのだろうけど、俺は少しやりきれない気持ちだった。





恋が生徒会に入って2ヶ月程度たったある日。


「ねえ、拓海」


「何?」


「あのね…これから登下校一緒に行けない…」


いきなり恥ずかしそうに言う恋に俺は呆気のない声を出した。


「は?」


「あの…だから…その…」


「何だよ」


しばらく沈黙が続き、恋は気まずそうに話した。


「仁先輩…と付き合うことになったの」


「はぁ?」


恋の表情から見ると本気らしい。


まあ、俺もお世話になってる人だし文句は言えない。


俺は暗黙した。







それから、いつも恋の家の前で恋を待つ仁先輩と合った。


「おはようございます」


「はよっ」


俺は毎日、そう言い、通り過ぎていった。


本当は、凄く複雑だし、恋とも気まずかった。


それに、仁先輩が羨ましかった。





ある日、昼食を屋上で摂っていると、仁先輩が現れた。


「よっ」


「こんにちは…あれ、恋はどうしたんですか?いつも一緒に食べてるのに」


「今日はダチと食べるんだとよ~。まあ、ダチも大切だしなっ」


俺の隣に座って、仁先輩は購買のパンを頬張った。


俺は、そんな仁先輩を見て、口を開いた。


「何で、恋を生徒会に誘ったんですか」


「ん?そりゃあ、あれだよ。容姿端麗、成績優秀、増して性格良しと来たら、入れるしかないだろ」


「まさか、恋と付き合うために入れたんですか!?」


俺は仁先輩に向かって怒りの声を上げた。


だけど仁先輩は余裕の表情で喋る。


「ちげぇよ。本当に、ああゆう人材は今の生徒会には必要だった。皆からの信頼も、厚いからな」


「そう…ですか」


「ん。それに、俺が生徒会長になるまでは、この高校には生徒会なかったんだぜ?俺が作り上げたんだ。この学校をもっと繁栄させるためにも生徒会は必要だ。会計、書記は集めれたものの、副会長はいなかったしなぁ。男ばっかりの生徒会も暑苦しいし」


熱く語る仁先輩は、心から恨めなかった。


「先輩…恋をお願いします」


仁先輩は、少し驚いた表情を見せ、すぐに笑った。


「まかせろっ!拓海!」


俺の肩を寄せて叩いた。


人情に溢れた逞しく優しい人だと思った。


こんな人に俺が勝てるわけもない。


俺の役目は終わったわけだ。










高校三年生になり、新しい朝を迎えたある日。


俺の携帯に1通のメールが届いていた。


見ると”仁先輩”と書いてある。


俺は怒りに震えながら、本文を見た。


本文には一言。



”恋を守り抜けなくてすまない、お前にまかせた”



俺は携帯を投げ捨てた。


「ふざけるなっっ!!!」


何で、こんな勝手なんだ。


恋をまかせろって言ったのはお前だ。


俺が、あいつにまかせたのが悪いのか?


俺は悔し涙を滲ませ呟いた。


「もう俺は引かない」



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