1話 憎愛 by恋
きっと、これは夢なんだ
ただ
一人で歩いて
一人で考えて
一人で悩んで
一人で焦って
一人で迷い
一人で泣いた
一人は辛い
いや、これは
『現実だ』
私は一人呟いた。
生徒会室でパソコンに向かい文字を打つ。
”生徒会 鈴野 恋の日記”
高校新三年生であり生徒会長である私、鈴野 恋。
ただ、学校の為に働くと誓った。
もう日は沈み8時を過ぎようとしている。
私は最後の仕事である”日記”を書く。
生徒会では、パソコンに生徒会一人一人の日記を作る。
私は今日の日記はこう綴った。
『今日もみんな、生徒会のために力を尽くした。
これからも未来を見据えて頑張って行きたい』
書き綴った後、私はすぐにパソコンをシャットダウンする。
一つ溜息をつき、生徒会室を後にした。
きっと毎日の日記を振り返り見ても同じようなことしか書いていないであろう。
これも、前生徒会長への強い意志のおかげだ。
そして私が初めて本気で好きになった人への感謝の気持ちの表れだ。
いや、感謝というより憎悪に満ち溢れたこの心を隠すためのものかもしれない。
一ヶ月前、卒業した前生徒会長。
私は副会長を務めていた。
私が副会長に任命され、仕事に励んでいるうちに自然に付き合う事になっていた。
生徒会長であった速水 仁はとても素晴らしい方だった。
いつもの口癖は『俺はお前達を信頼している』
とても嬉しかった。
いつも意気揚々であり、好奇心旺盛であった。
短気だけど優しくて、適当だけどいつも私達の事を考えていてくれた。
そんな仁を私は心から愛していた。
仁も私をとても愛してくれた。
こんな頼もしい人と付き合えていた事に私は誇りを持っていた。
初めて体を重ねたときも、私を大事に優しくしてくれた。
『大丈夫?』っていつも声を掛けてくれた。
言葉では表しきれない程に、好きだった――
なのに。
仁は大学に合格した。
その大学は東京にあるという。
私と仁は遠距離恋愛になるという事だ。
そんなのは絶対に嫌だった。
仁がいなくなる日々を耐えられるはずがない。
怖かった。
だけど、後一週間で卒業というところで
仁は私に告げた。
『別れよう』
何で?なんて聞き返せなかった。
私は何もかも恋愛では分からないことだらけだ。
嫌われるのが何よりも怖かった。
どこかで見たことがある。
”別れるときにしつこい女は嫌われる”
目が潤み視界がぼやけた。
仁がどんな顔して言ったのか分からなかった。
そう告げた後、仁はすぐに立ち去って行った。
私は立ち竦み、ただ仁の背中を見つめていた。
仁は一週間後に卒業した。
とても逞しい姿だった。
私が卒業するわけでもないのに、在校生の代表として祝辞を捧げるとき号泣してしまった。
卒業式の後、残った感情は”憎悪”ただ一つだった。
私は生徒会長となり、仁を越えた学校を作るのに励んだ。
せめて、『私だって、これだけできるんだ』と見せ付けたかった。
私の成果を仁が見るわけもないというのに。