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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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アルテリア・リコード

作者: はこ
掲載日:2026/02/19

「スラッシュ!……からのもう一発!!……んでこれでフィニッシュ!!!」

「あっ!おいノクト!俺にも経験値分けてくれよ……」

「ははっ、おこぼれ狙おうったってそうはいかないぜ」

「お前、今日が初プレイの新人を育てようという人情はねぇのか?」

「俺だってまだ始めてから3日だっての!」


 俺は剣を背中の鞘にしまうと、指でジェスチャーしメニューを操作する。


「んー、レアドロップ落ちねーなー。今のモンスター、新しい剣の素材落とすはずなんだけど……」

「お前が俺に優しくしないからだ。お天道様(てんとさま)はすべてを見てるのさ」

「バカ言え。ただの確率だろこんなもん」

 

 2075年、人々はフルダイブ型VRゲームに熱狂していた。

 フルダイブとは、脳と機械を直接接続し、視覚や聴覚だけでなく、触覚や運動感覚までも仮想世界に置き換える技術のことだ。

 肉体は現実にありながら、意識だけが別の世界へと潜る。

 フルダイブ型VRゲームはもはや”もう一つの現実”だ、と主張する人間も今では少なくない。


 この技術自体は2060年代にはほぼ完成していたらしいが、現実の意識を完全に遮断するという危険性が問題視され、安全性の確保や法整備を整えるために10年近くの歳月を要したという。

 現在ではそれらの問題を乗り越えたニューロゲート社の「ネクスフィア」というBMIブレインマシンインターフェースが一般に流通しており、その首まで覆われるフルフェイスヘルメットのようなマシンを頭に被ることでゲームの世界にフルダイブすることができる。


 俺のような庶民が気軽に遊べるようになったのはここ1,2年の話で、技術の完成から10年もの間待たされ焦らされ続けてきた人々の期待は一気に爆発し、フルダイブVRゲームのプレイヤー人口は現在、国内だけでも数百万人いるらしい。


 そしてこの俺、雨宮夜斗(あまみやのくと)が今ハマっているのが、数日前にリリースされたばかりのVRMMORPG「アルテリア・リコード」だ。

 MMORPGというジャンルは俺が生まれる何十年も前に流行していたことがあったらしいが、その後ずっと衰退の一途だったという。

 しかしフルダイブ型VRとの相性が抜群に良かったこともあり、今では圧倒的ナンバーワン人気ジャンルとなっているのだ。

 

「はー……でもやっぱりなんだかんだでフルダイブなら王道の剣士が一番爽快感あると思うんだよな……。自分の身体を動かして敵を倒す。やっぱり時代は運動だろ」


 俺は草原に大の字で寝転がり、晴れ渡る空を見上げながら呟いた。


「はは、現実の身体はピクリとも動いてないだろうからむしろ現在進行形で運動不足になってるぞ」

「……その通りすぎるな。そう考えるとなんか損してる気分だわ」

「でも確かに変な感じだよなー。顔も身体も感じるものも、こうしてじっとしてると現実と変わらないのに、これがゲームの中だなんてよ……」


 俺はこのアルテリア・リコードをリリース初日からプレイしており、この3日間は時間の許す限りプレイを続けてきた。

 現実世界での俺は22歳のフリーター……という名のほぼ無職だ。

 俺はゲームをする時間が極端に減ってしまうから、という超絶ダメ人間な理由で、大学卒業後は就職しなかった。

 だが人生は一度きりだ。このゲームが一番盛り上がるリリース直後のタイミングで思う存分プレイできないというのは、言ってみれば人生の損失である。

 どうせ俺の能力では大したところに就職はできないだろうし何も結果を残せないだろう。 だったらこの世界で上位のランカーにでもなったほうが人生の満足度はきっと高い。

 ま、現実から逃げるための言い訳かもしれないけどな。


 ちなみに今一緒にプレイしているのは現実世界の親友である朝比奈彼方(あさひなかなた)だ。明るい茶色のショートヘアーをしているコイツは大学時代の同級生であり、俺の唯一の友人とも言える。

 カナタは大学卒業後、個人事業主として自分で事業を始めた。

 同じ”就職しなかった組”とはいえ、金が無くなったら日雇いでその場を凌ぐだけの俺とは違い、優秀なやつだ。


「ノクト、俺にはここのモンスターは多分強すぎるわ。デスペナルティ食らったら折角の休日がパァだしな。俺は街の出口のあたりに戻るわ」

「そうだな。ここに連れてきたのは俺が華麗に戦う勇姿を見てもらいたかっただけだし、お前にメリットないしな」

「いい性格してんなぁお前(笑)」


 こうやって軽口叩ける相手もカナタだけだ。大学時代にコイツと出会えていなかったら俺はエターナルぼっちとしてこの世を歩いていただろう。


 ちなみにカナタの言っていた「デスペナルティ」というのは、このゲーム内で死ぬ、つまりHPがゼロになったときに与えられるペナルティのことだが、アルテリア・リコードのデスペナルティはかなり重い。

 プレイヤーが死ぬと、そのプレイヤーは強制的にゲームからログアウトさせられ、現実に戻される。そしてなんと翌日まで再ログインできなくなるのだ。

 このシステムによりゲーム内の死というものに重みが与えられ、より緊張感のあるゲーム体験が可能になっている。

 他のゲームでよくありがちな”死ぬことを前提とした戦い方”、つまり"ゾンビ特攻”のようなことはできないということだ。


「じゃあノクト、また後で合流しようぜ。レベル上げて戻ってくるわ」

「その頃には俺もレベル上がって次の狩場に行っちまうかもな」

「進んでぼっちになろうとすんじゃねぇよ。ゆっくり茶でも飲んどけ!」


 そう言うと、カナタははじまりの街のほうへ駆けていった。


 ちなみに俺の今のレベルは5で、カナタは2だ。

 レベルが上がると全てのステータスが少しずつ上昇する。

 しかしこのゲームは序盤であってもレベルを上げるのは簡単ではない。半日狩りを続けてようやく1レベル上がるような感覚だ。当然レベルを上げていけばもっと上がりづらくなるだろう。

 だが、簡単ではないからこそ価値もあるというもの。

 みんながみんなすぐにレベルカンストできるようなゲームに俺は価値を感じない。レベルはある種の勲章だ。


 アルテリア・リコードでは、自分の選んだスキルを育てることで、自動的に職業が与えられる。

 俺が今育てているのは「剣技」というスキルで、このスキルが一番高いスキルレベルを持っているため職業は「剣士」になっている。

 もし俺が今から「神聖魔法」のスキルを育て始め、「剣技」のスキルレベルを追い抜いた場合、職業は自動的に「神聖魔導士」になるというわけだ。


 だが、この手のゲームにおいて複数のスキルを同時に育てようとするのは基本的に悪手だ。なんでもできるがなんにもできない器用貧乏になる。

 1つのスキルを徹底的に磨いて突き抜けたほうが強くなれる。これはある種、現実世界でも同じことが言えるかもしれない。


 ちなみにカナタはまだ何を育てるか迷っているようで、いろんな武器を試しているようだ。1日目はそんなもんだろう。

 

「さて、リポップしたしもう1回狩りますか……」


 俺は初期装備の剣を未だに使っているが、レベル5にもなるとそろそろもう少し性能のいい剣が欲しくなってくる。

 そこでさっき街の鍛冶屋で次の相棒に良さそうな剣の必要素材を見たところ、「ガルムトードのツノ」と書いてあった。

 ガルムトードというのはこの草原にたくさんいる雑魚ガエル「グラストード」の親玉、言わば小ボスのような存在だろうか。

 決まった場所に10分に1回程度のペースで湧いてくる。攻撃を受ければダメージはそこそこ食らうが、まぁ正直今の俺なら死ぬような相手ではない。


「よし、運動開始だ! スラッシュ!!」


 ちなみに技は叫ばなくても念じるだけで発動するが、なんとなく気合が入るので叫んでいる。

 もし近くに人がいたらなんとなく恥ずかしくなりそうで叫べない気もする……。




「おおおおお!!!でたあああああ!!!!!」


 カナタと別れてから、ガルムトードを倒しては空き時間にグラストードを狩り続けるというカエルまみれの数時間を過ごし、ついに「ガルムトードのツノ」がドロップした。

 これで新しい剣の素材は揃った。カエル討伐のクエストも何回かクリアしたため、その報酬があれば鍛冶屋に新しい剣を作ってもらえるだろう。


「ノクトー! どうだ調子はー!?」


 街のほうからカナタが歩いてきた。……隣に女を連れて。


「ノクトくん、久しぶりー! 本当にリアルと同じ顔なんだね」

「白石さん、リアルと同じ顔なのは隣にいる人間を見ればわかるでしょ」


 カナタと一緒に歩いてきたこの黒髪ロングストレートヘアーの女性は、白石琴葉(しらいしことは)さん。カナタの彼女だ。

 2人は大学時代に付き合い始め、白石さんには俺もリアルで何度か会っている。

 ただ、この3人で会うとどうにも俺がお邪魔虫なような気がして気が引けてしまう。2人はそんなことまったく感じてないだろうけど。


「白石さんもようやくアルテデビューか。ようこそ、この素晴らしき世界へ」

「そりゃ運営のセリフだろうが(笑)。3日遊んだだけのヤツが先輩ぶるなって」


 まぁ、俺がずっとこの世界に潜って遊んでいる間、この2人は現実世界でキッチリ働いてたわけだしなぁ……。

 社会的な立場で言えば、俺はこの2人に偉そうに振舞える身分ではない。


「で、どうよ。例のレアドロップとやらは手に入ったのか?」

「あぁ、ちょうど今さっきドロップしたとこ。これで新しい剣が作れるかな」

「俺はレベル3が中々遠いわ……。途中から琴葉に色々と指南してたしな」


「ノクトくんも色々教えてね♪」

「全部彼氏に聞いてくれよ。俺は色々と忙しいんだ」

「何言ってんだよ、一番暇だろーが」

「あー良くない、無職イジり良くないよ君たち!!!」


 こうやって他愛のない会話をしていると、ここは本当に現実世界なのではないかと錯覚してしまう。それほどにこのバーチャル世界はリアルだ。


「ノクト、それじゃあ俺たちはそろそろ落ちるわ。家のこともやらないといけないしな」

「私もまだ少ししか遊べてないけど、晩御飯の準備しなきゃいけないから……あ、晩御飯何がいい? 彼方くん」


 そんなイチャついた会話はログアウトしてからやってくれと言いたくなる。

 ちなみに2人は現実世界で同棲している。もしかして2人はベッドで並んだ状態でログインしているのだろうか……非常にけしからんな。


「俺は一旦新しい剣を作りに行って、その後もうちょいこの辺で狩りしていこうかな。性能とか使い勝手を試したいし、レベルもあと少しで上がりそうだから」

「すっかりハマってんなぁ……。ま、これだけの体験だ、気持ちはわかるけどよ」


「じゃあねノクトくん、また今度」

「はいよ、お幸せにー」

「なにそれー!」


 軽口を叩けるのはカナタだけ、と言ったが、最近もう1人増えつつあるような気もする。

 

 2人はメニューを操作すると、ログアウトしてシュンッと霧のように姿を消した。

 さて、俺はもう一仕事しなきゃな。これが文字通りの仕事になったらいいのに……。


 

 俺は街にいるNPCの鍛冶屋に素材と金を渡し、無事に新しい剣を入手した。

 ガルムソード。ガルムトードの身体と同じ赤い色の刀身で、今まで使っていたアイアンソードに比べると少し禍々しい。

 だがやっぱりこういう強化イベントというのは気分が高揚するな。

 新しい武器、新しい防具、新しい技……俺はこういう"自分が強くなる瞬間”を求めてゲームをやっている部分もある。


 俺は草原に戻ると、辺りはすっかり暗くなりかけていた。

 この世界では現実世界と同様に時間が流れ、現実が夜になればここも夜に、朝になればここも朝になる。


「もう18時か……あと少ししたら落ちないとな」


 俺はほぼ無職の身分のため、当然1人暮らしができる経済力はない。

 所持金はこの前ネクスフィアとアルテリア・リコードを買うために突っ込んでほぼ無一文。つまり親のスネを齧って生きている。

 19時には晩御飯が用意されるため、その時間には一度ログアウトして、ついでに風呂とかも済ませておきたいところだ。

 そしたらまたログインして、寝るまでアルテ漬けか……。そう考えると1日22時間以上はベッドに転がっていそうな生活だな俺。流石にマズいか?


 まぁ楽しいんだから仕方ないということで、今はとにかくこの世界を存分に堪能したい。

 俺は新しい相棒を右手に、目に見えるモンスターに片っ端から切りかかっていった。



 18時40分。モンスターを切り続け流石に疲れてきた。

 この世界でも疲れや息切れというものはあり、それはステータスのスタミナ値に依存している。

 現実で体力オバケな人間も、ここでのスタミナ値が低ければすぐバテ始める。逆もまた然りだ。


「流石にそろそろ落ちるか。7時間以上ログインしっぱなしだったな」


 ちなみに前回はトイレと軽食のためにログアウトしている。

 一定以上の尿意や便意、そして脱水状態などの身体の異常を検知するとシステムが警告を出してくれるため、ログインしている間に漏らしたり干からびたりする心配はない。


「またすぐ帰ってくるぜ、愛しのアルテリア・リコードよ」


 俺は右手でジェスチャーしメニューを開くと、ログアウトボタンを押した。

 すると、ブブッという警告音のようなものが鳴り、画面にエラーという文字が表示された。


「……ん? なんだこれ」


 俺はもう一度ログアウトボタンを押す。

 ……しかし、再度同じように警告音と共にエラーが表示され、ログアウトすることができない。


「不具合か……? 運営からは何のメッセージも来てないけどな……」


 俺の心に少し不安が芽生え始める。

 ゲームの世界からログアウトできない。そういう設定の作品は何度か見たり読んだりしたことがある。

 だがまさか自分が……? いや、考えすぎだな。

 

 そもそも、こういう事態が起こることを懸念したからこそ、フルダイブVRというものが普及するまでに10年近くの時間がかかり、起こりえないと判断されたからこうやってリリースされているはずなのだ。


 ……一旦冷静になろう。

 最悪、現実世界でネクスフィアを他人に脱がせてもらえば強制的にログアウトはできる仕様になっている。

 神経に負担がかかるため推奨はされていないが、緊急時の対応策だ。

 それに、カナタや白石さんはさっき、俺の目の前でログアウトした。そのときはログアウトは機能していたということだ。


「……そうだ」


 俺は一度、はじまりの街のほうへ向かうことにした。

 これがサーバーの問題ならば、自分以外のプレイヤーが同じ状況に陥って困っているはずだ。


 街の出入口に近づくと、何やら右手を動かしてメニューを操作しているであろうプレイヤーを見つけた。自分より少し年齢が上のお兄さんという見た目だ。


「すみません!」


「……ん? 何でしょうか?」


「いや、あの、今さっきログアウトしようとしたんですけど、なんかエラーが出てログアウトできなかったんですよ……」


「えっ! 本当ですか? 何かサーバーに不具合でも出てるのかな……。でもだとしたら大問題だぞ……。今ちょうど僕もログアウトしようとしてたんですよ。試してみます」


「はい……」


 お兄さんは改めて右手でジェスチャーをすると、指を止めてこちらを向いた


「一応、ログアウト確認のポップアップは出てきましたが、この後にエラーが出たってことですかね?」


 確認のポップアップ……? いや、俺の場合はそれが出る前にエラーが表示されたはずだ。

 お兄さんは再度自分の手元のほうを向くと、ボタンをタップするような仕草をした。

 すると、途端にお兄さんの身体はシュンッと消えてしまった。


「ログアウトした……?」


 どういうことだ? 他の人にはログアウトできるのか……?

 いや待て、ここへ来るまでの間に不具合が直った可能性も高い。

 こんな重大な不具合、即刻直らなければサービス継続に支障が出るだろうしな。


 俺は再度メニューを出し、ログアウトボタンを押そうとする。大丈夫だ、何も問題はないはずだ……。

 そして俺はログアウトをボタンをタップした。


ブブッ


 心臓の鼓動が早くなる。

 ……俺だけ? 俺だけがログアウトできなくなってるのか……?


 俺は街に入り、そこにいるたくさんのプレイヤーたちを眺める。

 現在の時刻は19時前、ログアウトする人は多い時間帯だ。

 すると、シュンッ、シュンッ、と、そこら中で人が消えていくのが視界に入った。


 ……確定だ。

 俺だけ。……俺だけがログアウトできない状態にある。

 ふと、近くにいた女の子2人組の会話が耳に入ってきた。


「大きい事故があったらしいよ」

「えー怖すぎない?」


 事故? このログアウトできない事象と何か関係があるのか? 


「すみません、今事故がどうのって話してましたけど、それってこのゲームの……」

「えっ? あっ、ゲームは全然関係ないやつなんですけど……」


 なんだ、関係ないリアルの話か。事故った人間には申し訳ないが今はそれどころではない。

 一旦落ち着こう。神経が過敏になりすぎている。こういう場合はとりあえず運営にメッセージを送るべきだろう。

 俺はメッセージを送るためにメニューを開くと、フレンド欄のカナタの名前が明るく表示され、名前の横に緑のランプが点灯していることに気付いた。

 これはオンライン状態の証であり、つまりゲームの中にいる。オフラインの状態であれば名前の文字が薄暗くなる。


「カナタ、またログインしてきたのか……?」


 フレンドになると、プレイヤーがどこにいるのか位置情報をお互いに把握できるシステムになっている。

 カナタは先程ログアウトした草原にいるようだ。先に今の状況を共有して相談すべきかもしれない。

 カナタが現実世界で俺の家族に連絡してくれれば、ネクスフィアを脱がせてもらうこともできる。いつ対応してもらえるかわからない運営に連絡するより確実だ。

 この距離ならカナタにメッセージを打っている間に走ったほうが早い。

 俺はメニューを閉じると、街を出てカナタのいる草原へ駆けだした。



 街と草原を繋ぐ道中、向こうから自分と同じように走ってくる人影に気が付いた。

 あれは――――カナタだ。

 こっちに向かってきていたということは、おそらくカナタも俺の位置情報を見て同じように走ってきてくれたということだろう。


「カナタ! おい、俺なんだかマジで大変な事態に巻き込まれてるっぽいんだけどさ」


 俺はそう言いながらカナタの顔を見ると、カナタは返事をすることなく俺の顔を見つめている。


「おい、聞いてんのか?」

「あ、あぁ……」


 どうも様子がおかしい。明らかにいつものカナタではない。

 その様子は例えるなら、なにかおぞましいものを見てビビッているような……そんな感じだ。

 カナタは俺から目を逸らし軽く上を向くと、なぜか一度深呼吸をした。


「おいカナタ、マジでどうした? なんかあったのか? 俺は俺で今大変な事態の真っ只中なんだが……」

「……悪い、俺もちょっと今混乱してるんだ。……ノクト……お前、身体はなんともないのか……?」

「身体? 至って普通だぞ? まぁリアルの身体はお前の言う通り絶賛運動不足だけどな」

「……」


 カナタは再び黙った。

 最初は様子のおかしいカナタを心配していた俺だったが、いつまでも煮え切らない態度をとるカナタに苛立ちを覚え始める。


「おい、お前が今何を心配して何を考えてるのかさっぱりわかんねぇ。なんかあるならストレートになんでも言ってくれ。今更何かを遠慮するような仲じゃないだろーが」


 カナタは目を瞑り軽く頷くと、ようやく口を開いて喋り始めた。


「……俺がここに再ログインしたのは、ゲートシンクでお前がこの世界にログインしてる状態になってるのを確認したからだ……」


 ゲートシンクというのは腕につけるスマートデバイスだ。

 通話にチャットにSNS、カメラから軽いゲームまでこなせ、ネクスフィアと連携させればこのアルテリア・リコードにフレンドがログインしているかどうかもすぐ確認できる。


「それが何だ? 俺に会いたくなったって話か?」

「……今、現実世界ではデカいニュースが世間を騒がせてる。……大きな事故があったんだ」


 さっきの女の子2人組が話していたやつだろうか。話の繋がりが見えてこない。


「……ヘリが墜落したんだよ、数時間前に。それも、民家に直撃したんだ……」

「……」


 それは大変な事故だが……。

 ……この焦燥っぷり、まさかカナタの知り合いや近しい人間の家に落ちたって話か……?


「いいか、直撃したのは……ノクト、お前の家だ」


「……え?」


 俺の家にヘリが墜落した?

 ……このカナタの様子、明らかに冗談を言っている感じではない。そもそもそんな不謹慎な冗談を言うヤツでもない。


「ま、待ってくれ。ちょっと待ってくれ。じゃあ俺の家はどうなってるんだよ今? ヘリの直撃なんてとんでもない衝撃だろ? いや、そんな言葉じゃ済まないくらいのレベルか……。か、家族はどうなったんだ……? そんで……俺は? 奇跡的に回避できてたのか……」


 いや、だが"その事故"と"俺だけこのゲームからログアウトできない状況"は明らかに関連性があるだろう。何が起きているのかはわからないが、もうそれ以外考えられない。


「ノクト、落ち着いて聞け……。俺が混乱しているのはこの先だ……」

「……?」


「さっきニュースで報道された情報によると……ヘリの墜落事故で……()()()()()、家にいた人間全員の死亡が……確認された、らしい……」


「…………は?」


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