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誤爆

 すみちゃんといると安心する。頭の中が可愛いで埋め尽くされて、まともな思考回路が停止する。


「すみちゃん、好き」


 昨日沙雪さんと話したことによって色々と考えさせられたのもあって、膨れ上がった不安を抑え込む為にも、好きを言わずにはいられなかった。


「私もいぶの事好き」


 膝に座らせたすみちゃんが振り返る。とても良い雰囲気。このままキスでもするのが定説だけれど、そんな上手くはいかないものだ。


「──ろ。おい、起きろアホ」


 簡単に言うと夢オチだ。目を覚ますと、良いところでぶった斬った憎たらしい兄の顔が目には入る。


「野郎が来るからさっさと出てけ」

「うるさいな」

「昨日から言ってんだろアホ」

「ほんと迷惑。家で酒盛りしないでよ」

「そんなんお前が決める事じゃない。いいからさっさと出てけ」


 せっかくの日曜だというのに、朝っぱらから家を追い出されるなんて。どうせ友達来るの昼からのくせに。ママ達出かけたから、一人の時間欲しくて厄介払いしたな。


 仕方ないので、すみちゃんの家に向かいながら、家追い出されたからどっかいかない? と送った。


「あ⁉︎ 間違えた!」


 グループの方に。いじめ問題で昨日帰った後グループ通話したせいで間違えた。

 すみちゃんとは基本メッセージじゃなくて電話でやりとりするから、まんまと電話アイコンに引っかかった。


 取り消すにももう既読付いてるし、デートはお預けかな。


 それにしても皆早起きだな……。あ、もう返事きた。

 小夏と沙雪さんはまだ寝ているからか返事がないが、二人以外からは了承の返事がきた。

 すみちゃんからは個別で暑いから家おいでと連絡も。


「お邪魔します」


 すみちゃんのお父さんに家に入れてもらい、入ると同時に頭を下げる。


「はいいらっしゃい。久しぶりだね依吹ちゃん」

「こちらこそお久しぶりです。すみません、手ぶらで」

「そんなこと気にしないでいいさ。純蓮の部屋で待っているといいよ」

「ありがとうございます」


 前回来た時とは様変わりした、ぬいぐるみがたくさんベッドに乗っている、昔の記憶の方が近いすみちゃんの部屋に入ってしばらく待っていると、寝巻きのすみちゃんが入ってきた。


「おはようすみちゃん」

「おはよういぶ。ごめんねこんな格好で」


 すみちゃんは恥ずかしそうに照れた顔を見せる。


「そんなことないよ、可愛い」


 すみちゃんは頬を染めて、必死にニヤけるのを耐えているのかぎこちない顔になっていた。


「ごめんね。すぐ支度終わらせるから」

「ゆっくりでいいよ」


 すみちゃんはクローゼットを開けて、あれじゃないこれじゃないとぶつぶつ言いながら服を見ている。

 そんなすみちゃんの様子を見守っていると、グループ通話がかかってきた。

 すみちゃんの声が入らないように、お互い少し離れて通話に出る。

 すみちゃんはクローゼットに頭を突っ込んでより厳重に対策している。


「ねえねえ〜どこ行くの? 行く場所によってスカートかズボンか変わるんだけど」

「ごめん、決めてなくて」

「適当にショッピング?」

「うち暑くないとこがいい」


 大澤さんの通話口の奥から、ツリーいんじゃね? ツリー。食いたいのあると言っている男性の声が入る。


「ツリーってスカイツリー?」

「そうだと思う。まあそこでいいんじゃない? 水族館とか色々あるし」

「じゃあ行ってから適当に行く場所考えよう」

「沙雪と小夏どうする? ほっとく?」


 さらっとほっとくという考えが出てくるすみちゃん。うーん、新鮮。そういうところも好き。


「こなっちゃんはあたし家知ってるから今起こしにいってる。日南は誰か家知ってる人が迎えにいけば?」

「わたし知らな〜い」

「うちも」

「沙雪家呼ばないからね」

「じゃあ私知ってるから行くよ」


 そういうわけで、グループ通話が終了する。


「沙雪の家、私も一緒に行く」

「うん、一緒に行こうね。それはそれとして、これはちょっと、刺激が強い気がするので……」


 すみちゃんが手に持っていた短パンを回収する。


「いぶもそういうの気にするんだね」

「彼女ですから」


 すみちゃんは短パンを受け取ると、また服を選び直す。


「仕方ないからこれは二人きりの時にしますよ」

「そんなに履きたかったなら別に大丈夫だよ。あんまり私の言うこと気にしないで」


 すみちゃんはそうじゃないと言いたげな顔を向けて、もう決め直しましたとツンと言った。


「着替えるから壁見てて」

「はい」


 すみちゃんの着替える音が聞こえてから、部屋出れば良かったのではと思い始めた。もう遅いけど。


「着替え終わったよ」


 振り返ると、どう? と聞いてくる。

 ブラウスとキャロットスカートの組み合わせがふわっとして可愛らしく、色も夏の爽やかさがあってグッド。


「超可愛い」

「良かった」

「よしじゃあ──」

「化粧するからちょっと待ってて」

「あ、うん」


 そっか、すみちゃんも化粧するんだ。いつから? いつの間に? というかそれなりに近くで顔見ているはずなのに、全っ然気付かなかった。

 彼女の変化に気づいていなかったなんて、いくら化粧に疎いからって、勝手に自信無くしていく……。


 こてっと床に転げると、ベッドの下に目が入る。


「ねえすみちゃん、前も思ったんだけど、このベッド下の大量の籠って何?」

「その中身を見たら私はしばらくいぶと口聞けない」

「見ません」


 すみちゃんも良い年頃。恥ずかしい物の一つや二つ、隠し持っていてもおかしくない。

 そっか、気付かなかったよ。思えば中学の時は仮の恋人だったとはいえ、すみちゃんとほとんど関わっていなかったし、知らなくて当然だよね。すみちゃんの、黒歴史ノート諸々の暗黒時代の象徴。


 すみちゃんが化粧ポーチを片付けたので、ようやくと思って立ち上がる。そして髪を整え始めたので大人しく再度床に座る。

 女の子の準備って、長い……。なんか、さっさと準備終わらせている私が恥ずかしいとすら思える。


 髪は化粧ほど時間がかからず終わったっぽいので、そろそろかと立ち上がると、アクセサリーを選び始めたのでそっと座る。


「いぶ、お待たせ。どうかな?」


 三つ編みにしてハーフアップでお団子にした髪も、化粧で大人っぽくなった顔も、さりげなく存在をアピールするイヤリングも指輪もよく似合っている。うん、待ったかいあった。


「最高に可愛い」


 だから今日はすみちゃんの頭にも顔にも触れるのやめとこう。崩れたら大変だし。


「良かった〜」

「じゃあ、行こうか」

「あ、ちょっと待って! 持ち物準備するから」


 小さな鞄に立体パズルのように物を上手く詰め込んでいって、案外早く終わるかとおもったけれど、下に行ってお父さんに小遣いを強請りに行ったので、そんなに早くは終わらなかった。

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