放課後の待ち時間
ホームルームが始まり、大して聞かずにいつ終わるのかなと時計を気にしながら見ていると、最後に今日は特殊な連絡事項を口にし、思わず意識が引っ張られた。
「最後に、入雲さん、宇河さん、大澤さん、小森さん、七木さん、橋野さん、日南さんは放課後教室で待機して下さい。他の皆さんは速やかに退出して下さい。以上です。ホームルームは終わります」
皆が一斉に動き始めると、あゆちゃんは真っ先に先生に向かっていく。
「ちょっと島ちゃん、放課後すぐ終わるの? わたし部活あるんですけど。そもそも何で呼び出されないといけないの? わたし達悪い事しました?」
「放課後話すので、今はね。他の人も聞いているから」
「別にいいよわたしは。だって困ることしてないもん」
先生は困惑を隠すように笑みを作って、着々とクラスから出る準備をしている。
「橋野さんだけの事情じゃないからね」
「ねえ! 皆別に今ここで話してもらってもいいよね⁉︎」
あゆちゃんは振り返って、皆に聞こえる声量を出す。
さっき呼び出しを受けた皆は、都合の悪い心当たりもなく、放課後呼び出されるくらいならと思ったのか、まあいいよって雰囲気を出していたが、宇河さんだけは自分は困らないから放課後にしとこうよっとなった。
「先生も放課後の方が時間気にしなくていいから。放課後残ってね」
「それ絶対時間かかるやつじゃ〜ん! もうー! わたし何もしてないのに!」
あゆちゃんは大澤さんを誘って廊下に出て、他クラスを巡り始めていた。
宇河さんはすみちゃんと沙雪さんになんだろうねと笑いながら話しかけていて、二人は極力関わらないようにしていた。
沙雪さんは私と目が合うやいなや、すみちゃんに宇河さんを押し付けて、今の関係をフル活用して私の元にきた。
「依吹、二日ぶりね」
「私は一ヶ月ぶりねになる日が楽しみだよ」
「あら、随分と言うようになったわね。つれない彼女ね」
「私は今回呼び出されたのが沙雪さんだけだったら納得いったよ」
「その場合、呼び出されるのは私と依吹じゃないかしら」
「それは嫌かもね」
そっと笑みを向けると、沙雪さんはさらに私の口角を上げた。
「今日、放課後待っていてね」
「な、なんで……」
「あら、彼女が呼び出しをくらったのよ。それくらいはするものよ」
すみちゃんも呼び出されているから、不覚にもその言葉は二重の意味を持ってしまっている。
「私にメンタルケアはできないよ」
「私が先生に呼び出されたくらいでへこたれると思うのかしら?」
「そうならこんなことにはなっていないよ」
「ええそうね。とにかく待っていなさい。どんな形であれ、あなたにはそれをするだけの関係を私と持ってしまったのだから」
まるで縛りプレイを課せられてしまったような気分だよほんと。
◇◆◇◆◇
放課後、先生の促しで皆いつも以上に早く教室から出ていき、いつもは何人か残って雑談を始める人達も、今日は廊下で行っている。
何人かは窓から様子を眺めていて、気付いた先生に手で注意されながら、笑いながら窓から離れて、また覗き見るというのを繰り返していた。
「藍川帰んないのか?」
壁に寄りかかりながら立っていると、瀬野君が話しかけてきた。
「沙雪さんに待っといてって言われて。言いなりになるの癪だから勝手に帰ってもいいんだけど、まあ別に嫌いなわけじゃないから」
「藍川もイラつくことあるんだな」
瀬野君は無邪気に笑ってみせる。
「私も人間だからね。沙雪さんには散々されたのもあるし」
「まあな。中学の時あいつと付き合ってたやつも中々大変そうだったけどな。そいつの場合は好きになって日南と付き合ったけど、マジで付き合っている意味を感じられないって言ってて。藍川の場合は逆に構われまくっているから逆だな」
「私の場合、遊ばれているって感じだけどね」
「まあ今は藍川といるのが息抜きなんだろうな。日南、歯に衣を着せぬ言い方するけど、あんま声荒げたりしないから静かな感じするだろ。だから橋野とか大澤よりかは付き合いやすいと思われてるのか、宇河にめっちゃ引っ付かれるらしいし」
「あとは、どこからか僕と幼馴染ってことが漏れたからってこともあるかもね。僕と近づくチャンスに使われているのかも」
サッカーのユニフォームとスパイクの袋を提げ、瀬野君の肩に腕を回しながら五十嵐君が顔を出した。
「こいつも顔良いからよく蓮君〜って呼ばれてるからな」
たしかに宇河さん、あゆちゃん達の間に入れない時は五十嵐君のところにいるイメージがある。
「ははっ、ありがとう」
五十嵐君はキザっぽく、人差し指と中指をくっつけて、額のあたりで外向きに動かした。
「うわうっぜ〜」
「そういえば五十嵐君、クラスの女の子達にも人気だもんね」
「おかげさまでモテさせてもらってます」
「いいよなイケメンは。俺はモテないのに」
「翔真は毎回毎回恋人持ち好きになるのが悪いんだよ。ね、藍川さん」
「瀬野君良い人だから、諦めなければ絶対付き合えるよ」
五十嵐君は揶揄うように瀬野君にニヤけ顔を見せる。
「良かったな翔真。振られた女の子に景気づけられたぞ」
そんな五十嵐君を瀬野君は強めに押し返して離す。
「うるせうるせ」
「そもそも瀬野のタイプってこの学校に少ないんだよ」
「そうなの?」
「瀬野は物静かな可愛い子が好きだから。だから今まで好きになったのが沙雪と純蓮ちゃんと藍川さん。好み分かりやすいでしょ」
「白葉ちゃんは?」
「あいつは物静かというよりかは達観だろ。容赦なさそうだし」
「そうなるんだ。五十嵐君はモテてるけどやっぱりもう相手いたりするの?」
五十嵐君はきたね〜と、慣れた余裕の笑みを浮かべる。
聞き耳立ててたと思う女子達も、今だけは五十嵐君の答えを聞きたいのか、話声が徐々にか細くなって、最終的に話さない理由を作る為にスマホをいじり始めた。
「お、探りかな? 藍川さん付近には僕のこと好きそうな人いないと思ってたけど」
「五十嵐君が好きって話はたしかに出たことはないね」
「そうでしょそうでしょ〜。つまり単純に藍川さんの好奇心刺激しちゃったかな。僕は生まれてからずっとフリーです」
そう言いながら、五十嵐君は親指と人差し指で丸を作った。
「信じられねーよな」
「まあ、正直ね。好みの人がいなかったの?」
「皆それぞれ良いところあるから迷っちゃうよね〜」
「うーわ、モテる奴がはぐらかす言葉だ。こいつ毎回こうだから、ゲイとか言われるんだよ」
「肯定も否定もしないでおくよ。面白そうだからね。──他のクラスも出てきたね。翔真、部活行くよ。藍川さん、また明日。沙雪をよろしくね」
「またな」
「うん、またね」
瀬野君と五十嵐君は他のクラスの部活の人と一緒に下に降りていった。
五十嵐君と沙雪さんが幼馴染っていうの、なんとなく分かる気がするなと、話していて体感した。まるで兄妹のようで、小さい時よくいたから影響受けあったんだろうなって。




