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嘘のない建前

 まだ七月に入っていないのに、制服は半袖、日傘とハンディファン装備で登校する時期になったから、朝の登校時にすみちゃんと手を繋ぐことは無くなった。


「あづいな〜」

「ね〜」

「そう言うなら離れなよ二人とも。バカップルかよ。見てる方が暑苦しい」


 脱力しきりながらその身を私に預けている小夏と私を見ながら、白葉ちゃんはハンディファンを回しながら溜息をついている。


「それはそれ。これはこれだ。暑くても掛け布団を掛けながら寝るだろ」

「その理屈だといぶっちゃんが布団だけど」

「あたしにとって依吹っちは布団だ。あたしの安息地〜」


 小夏はより一層身体を溶かして私に体重を掛ける。

 じわりと滲む汗が心なしか増えた気がする。


「いぶっちゃんはどうなの?」

「クソ暑いけどまだクーラー効いているから平気。でも汗が溜まってきて今すぐにシャワー浴びたい気分」

「そういえばうちの高校シャワールームあるよね」

「ああ〜学校説明の時聞いた気がする」

「あたしこの高校に通って一年と数ヶ月通っているけど初めて知ったぞ」

「部室棟にあるよ。まあ、あたしら帰宅部には縁がない場所だからあまり通らないけど」

「行ってみるか?」

「大丈夫。汗拭きシートあるから。ところで、二人はなんで部活入らなかったの?」

「あたしは仮入部行きまくって知り合いいっぱい作ったから入る必要ないしな。遊びたいし家でゴロゴロしたい」


 たしかに小夏は一つのことを続けるというよりかは、次から次へと興味のあるものに移行していくイメージがある。入っていないのは納得かな。


「白葉ちゃんは?」

「まあその時は彼氏いたし。仲良い人もそれなりにできたからいいかなって」


 ……たしか小夏、彼氏いる時の白葉ちゃんよく分からないって言ってたから中学の人じゃないだろうし、かと言ってこの高校の人の感じしないし、いつ出会ったんだろう……?


「どのような時系列で?」

「何が?」

「いつ付き合ったのかなって」

「そいつと会ったのはここの学校説明の時だね。たまたま隣の席にいたから暇で話しかけたんだよ」

「へー」


 すごいな白葉ちゃん。私には到底暇だからって知らない異性どころか同性にすら声かけられない。


「で、受験の時たまたま見かけて挨拶して、そのまま帰り一緒になって付き合うことになった。そいつはここ落ちたから別の高校行ったけど。マジ人生の汚点。あいつ入れて遊ぶんじゃなかったわ。浮気相手差し出しただけだし。何が清楚な子がタイプだよ。バリバリ遊んでるタイプにほいほい釣られて靡きやがって。あたしの人を見る目その時期過去最高に腐ってた」

「まあそういう時もあるから仕方ないな。大丈夫だ、今は切れた縁を気にするな」

「そうだね。五年後くらいにはあたしの記憶から消えてるよ」

「一つ気になったことがあるんだけど」

「どうしたの?」

「どうして入学当初の友達作りのところで、あゆちゃん達と行動しなかったの?」


 私が知る限り、白葉ちゃんは入学初っ端から前の席の五十嵐君と後ろの席の大澤さんと話して楽しそうにしてたし、結構授業中とか、席で話し合いの時とかも軽口を叩きあっていた。

 すみちゃんはともかくあゆちゃんや沙雪さんとも話していたし、瀬野君達男子ともよく話してた。

 だけど、休み時間は派手めな子達と一緒に行動していた。


 その頃は白葉ちゃんがたまに話しかけてくれる感じであって、然程仲良くはなかったからよく見ていたわけじゃないけれど、でも、大澤さん達経由であゆちゃん達と絡む方が自然だと感じた。


「そんなん簡単だよ。奇数になるから」

「……え、それだけ?」

「そだよ。ほら、あたし達も三人で行動するようになってさ、毎回グループ決めの時一人あぶれるか足りないで困るでしょ。偶数はそういうのないから、なんか奇数になるの避けちゃうんだよね」

「奥が深いんだね、学校の対人関係って」

「あたしはあんまそんなこと考えてないぞ!」

「まあこなっちゃんみたいにどこにでも入っていける子はね」


 白葉ちゃんはスマホでそろそろホームルームが始まるのを確認して、自分の席に戻っていった。


「白葉ちゃんも誰とでもやっていけそうなイメージあるけどね」

「あたしもそう思うけどな〜。ちょっと怖いんだろうな」


 その言葉はまるで存在しなかったように触れなかった。くっついている小夏の心臓が一度大きく跳ねたことからもそれが最適だと考えたから。


 お互いがお互いを無視せず友達だと思っている。側から見ても同じ認識。でも、どこか赤の他人以上に踏み込みすぎないように気をつけている。

 これ以上変に拗れるより、この関係のままでいてもいいとは思う。でもやっぱり、きっとどこか息苦しい。


 二人が昔どんな関係だったかは分からない。でも、今よりは遠慮のない本心からの関係だったんじゃないかなとは思う。

 二人に失礼かもしれないけれど、二人はお互いに、私以上に腹を割って話せる仲になってほしい。だって私は、いざという時動けないから。

 私の憧れの王子様。でも、王子様は時として一歩引いて俯瞰するしかない存在。


「私の憧れって──」


 頼りないな。一人じゃ何もできないちっぽけな存在。

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