表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/100

余裕の有無

 ようやくの休日。ようやくの日曜日。久しぶりに噂から、沙雪さんから解放される。


「いらっしゃいすみちゃん」

「お邪魔します」


 隣に並んで座って、深く息を吐く。


「なんかすみちゃんが隣にいるとすごく安心する」

「いぶは今学校じゃ大変だもんね。甘える?」

「お言葉に甘えて」


 すみちゃんを前からぎゅーっと抱きしめて、今まで溜まった色々なものを浄化する。


「なんか明日からも頑張れそう」

「そ、それなら良かった……」


 すみちゃんはちょっと後退りして、私を抱きしめきれずに宙に浮かせていた手を力の抜けるまま床に落として、天井を見ながら浅く長く息を吐いていた。


「どうしたのすみちゃん?」

「いぶにこうして抱きしめられたことないから、感極まっちゃって……」

「後ろからなら何度かあるよ」

「そうだけど! それとは違くて! なんて言えばいいのかな。後ろからは包み込まれる感じで、前からは纏われている気分で……ああもう、上手く言えない……」


 軽くパニックを起こしているすみちゃんを見て、思わず口から笑い声が漏れていた。


「わ、笑わないでよ……」

「ごめんね。可愛くてつい」

「いぶはいつだってそうやって余裕で。私だけが必死みたい」

「この余裕をくれたのはすみちゃんだからね」


 変わらず漏れる私の笑い声にすみちゃんはムキになって口を閉じようと手を伸ばした。


「分かった、分かったから。もう笑わないから。ほら、止まった」


 伸ばした手を掴んでそのまますみちゃんを引っ張る。


「いぶの意地悪」

「ごめんね。好きな子に意地悪したくなるお年頃なのかもしれない」


 すみちゃんの手を離して体制を直すと、すみちゃんも同じように一度立ち上がって、私にマウントを取るようにベッドに腰をかけた。


「ねえいぶ。ずっと聞きたかったんだけど、いぶは私のどこを好きになったの? 自分で言いたくないけど、私よりも良い人たくさんいるはずなのに。私は素直になりきれないし、嫉妬深いし、付き合ったらすごく面倒くさい。それを分かっていたはずなのに、なんで私の事好きになれたの?」


 私も立ち上がり、すみちゃんの横に腰を下ろす。

 ベッドがほんの少し軋み、思わずそのまま背中を付けたくなった。


「惚れた弱みだろうね。そんなところも愛おしく思うし、愛されているに変換されるの。だから、すみちゃんの欠点を欠点として認識できない。多分、すみちゃんは今ドキドキしている。私はしていない。心臓の音を聴き比べると、すみちゃんが一方的に好きみたいだけれど、でもね、私もちゃんとすみちゃんの事が好き。それは自信を持って言えるよ。すみちゃんは私の一挙手一投足に高揚を感じるように、私はすみちゃんの存在に安心を感じる。同じ好き同士だけれど、ずっと捉え方が違ったから、処理の仕方が違う。夫婦が常に心臓を高鳴らせていないように、私にとってすみちゃんは隣にいて当然の存在で、だから余裕でいられるんだよ」

「そんな余裕持たれたら私は一生いぶに敵わない気がする」

「私だってすみちゃんにドキドキする時はあるよ。嫉妬で睨んでいる時とか、本気でキレている時とか」

「それ私が怖いみたいじゃん!」


 たしかにある程度の怖さも孕んでいるとは思うけど、本質はそこじゃない気がする。


「いや、あれはすみちゃんから感じ取れる愛の重さが普段の比じゃないから、私の余裕で受け取れる限界値が超えたからこそな気がする」


 白葉ちゃんですら怯えさせる愛の重さを私の余裕如きが全て受け止められるはずないんだよね。


「じゃ、じゃあ、いぶをドキドキさせるには私は怒らないといけないってこと?」

「手段の一つではあると思うよ。でも、マンネリ化したら耐性ついちゃうから、そんな怒らないでね。私は笑っているすみちゃんの方が好きだよ」


 ムニムニと頬に触れ、口角を上げる。


「それに、いつかすみちゃんも私に対して余裕を持てる時がくるよ」

「それはそうだろうけど。はぁ。もっと早くいぶが私を好きになってくれたら、いぶが照れた姿を私は見れたのに。私だけ見られるなんてずるい」

「うーん。思ったんだけど、もしかしたら私はすみちゃんを結構前から好きだったのかもしれない。でも、好きなのが当たり前だったから、全く自覚していなかったのかも」

「いぶの鈍感」

「ごめんね」


 すみちゃんはベッドに横になると、私にも横になるように促す。


「今年もお泊まりする?」

「いいよ」


 すみちゃんは一度体を起こすと、私の胸に耳を添える。


「健全なお泊まりになりそうだね」

「すみちゃんはハメを外したお泊まりがご希望ですか?」


 すみちゃんは何も言わず、ただ黙って私の心音を聞いている。


「そういうのはすみちゃんがもっと余裕を持てるようになってからにしようね」

「いつになるんだろうね」

「私はいつまでも待つよ。だから、焦らないでね」


 スマホを掴み、そのまま上に手を伸ばしたまま、シャッターを切る。

 写真に慣れているのか、すみちゃんはちゃんとカメラ映りのいい表情を見せた。

 やっぱりこの顔面は少々ずるいと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ