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小夏は頑張ってる

 日曜日は変わらずすみちゃんが来てくれるので、最近はずっと向かい合わせで勉強を教えてもらっている。


「この部分はこの公式を使うの。そしたらこっちの公式にその答えを当てはめて計算するの」

「なるほど〜」

「ここはちゃんと単位合わせないと計算ズレるよ」

「ほんとだ」

「前後の単語で反射で選ぶと間違えるよ。文章全部読むと、過去形ってことが分かる」

「勉強になります」


 こんな感じで、お互い勉強するというよりは、ずっと私の先生をしてもらっている感じだ。


「ところですみちゃん」

「どうしたの?」

「小夏はどう?」

「どうって?」

「勉強、ちゃんとしてる?」


 小夏は最近、私との接触禁止命令を出されているのか、私に近づこうとすると勉強会メンバーの人達がいつも強引に回収しているから、小夏自身から直接近況は聞けなかった。文字だと嘘ついているか判別できないし。


「え、あ、うん。してるよ。小森さんの集中が切れかけたら、皆色々言って取り組ませているから」

「そっか。安心した。ごめんね、無理に勉強会なんて開かせちゃって。小夏押し付けたみたいになっちゃったし」

「そんなことないよ。意外と楽しいから」

「そんなに楽しいなら私も参加したかったな。なんてね。すみちゃんが楽しんでいるようで良かった」

「──いぶは、ダメだよ」

「小夏が甘えすぎちゃうからでしょ。だから皆に任せたの。何よりすみちゃんに。すみちゃんなら信頼できるから」


 すみちゃんは体育座りをして、膝に額をくっつけて顔を見えないようにする。


「信頼してくれたのは嬉しい。小森さんが甘えすぎちゃうの、理由の一つではある」

「他にもあるの?」

「…………いぶは、目立たない方がいい」

「私は昔から目立つタイプではないよ」

「いぶはそうかもしれないけど、周りがそうしないの……」

「…………? 国語の問題?」

「あまり気にしないで。独り言みたいなものだから」


 そう言われた以上、特に深く問うことはない。人間誰しも脊髄反射でなんとなくの言葉を発する事はよくあるものだし。


◇◆◇◆◇


 静かな時間と日々は過ぎていき、テストが全部返ってきた。


「補習回避したぞー!」


 小夏は決して高い点数とはいえないテスト用紙を教壇の前で全て掲げ、嬉しそうに声を上げていた。


 クラスのノリに合わせてなのか、先生は拍手をしながら、次は一つでもいいから平均点超えなさいと言っていた。


「こ、小夏さん……動きづらいです……」


 ようやく勉強から解放された小夏は、休み時間以降私から全く離れなくて少々困るくらいだ。


「もう離さないぞ依吹っちー!」


 小夏が勉強をしなければ中間テストの時も離れ離れになると言ったら小夏は一体どうなるのだろう。


 小夏の腕が、胸のところから首に上がり、人の体重では軽い部類でも、普通に数十キロの負荷がかかり、徐々に首がシャツの襟にめり込んで、地上で溺れそうになる。


「ご、ごなづざん……じぬ、じんじゃう……」

「依吹っち……変に掴まったから降りれなくなっちゃった」


 このままでは小夏を犯罪者にしてしまう。たとえ私が死んだとしてもそれは絶対阻止したい。

 そんなピンチな私達を助けてくれたのはすみちゃんだ。

 小夏を後ろから支えて無事に降ろした後、私の第一ボタンを外した。


「ありがとう七木さん」

「純蓮っちは命の恩人だー!」

「二人とも無事でよかった。第一ボタンは外しておいた方がいいと思うよ」


 すみちゃんは私の喉に触れた後、友達に呼ばれて廊下に出て行った。


「小夏、私もちょっと」

「依吹っち怒ってるのか⁉︎ ごめんな、もう危ない目に合わせないから捨てないでくれ〜」

「いや、違くて……まあ、今後はちょっと気をつけてほしいけどね」


 私は小夏の耳元で小さく囁いた。


「アレの日で変えたいの」

「ほう……。戻ってきたら依吹の身体はあたしが温めてやるから安心してくれ」

「ありがとう」


 あたしはポーチを持って、トイレに入った。


 トイレの中で静かにいそいそと用事を済ませていると、話しながら誰かが入ってきた。


「いいよね陽キャは〜。赤点回避だけで拍手起こるとか」

「赤点回避で拍手なら、平均点言ったらパーティーだろうね。うっざー。てかホームルームの時もさっさと席ついとけって。何回茶番繰り広げるんだよっての」

「分かる分かる。うるさいだけで陽キャになれるとか、無神経な人間の勝ちじゃんね。うちらは配慮の塊だから無理だわ」

「言えてる〜」

「ほんとなんなんだろうねあれ。あんたを中心にクラス回ってるわけじゃないんですけどー。うちらの事とか眼中にないでしょ」


 きっと、いや、確実に小夏の事だろう。クラスの人かな。誰だろう。誰だろうと、小夏が悪く言われるのは不愉快だ。小夏は苦手なりに頑張ってるし、察するのが苦手なだけで、言ったことはちゃんと守ってくれる。明るくて、優しくて、見ているだけで元気になれる大好きな小夏を、何も知らないのに憶測だけで悪く言わないでほしい。


「てか藍川さんも可哀想だよね。明らかに静かなの好きそうなのにうるさいのに絡まれて」


 何も知らないあなた達に可哀想だなんて思われたくない。小夏と過ごす楽しい日々を、あなた達が否定しないで。


 私はドアを開ける。反論しようと声を出す前に、隣のトイレのドアが勢いよく開き、怒りが隠しきれていない入雲さんが私に気づかずに二人の前に立った。


「誰が聞いているかも分からない場所で陰でコソコソ話しているあんたらよりかは、うるさくても表で堂々とアホ晒してるこなっちゃんの方が比べるまでもなくマシだよ。そもそもあんたらみたいなのが、イベント行事とか毎回そのうるさいのに任せっきりで、さっさと出し物提案しろって思いながら自分達の意見何も言わないくせに、陽キャの祭典だなんだって言って、準備とかサボるんじゃん。うるさいのに頼っといてうるさいの悪口言うなよ!」

「あ……いや、その」

「そもそもいぶっちゃんダシにして悪口正当化しようとしているあんたらのどこが配慮あるんだよ。卑怯者じゃん。卑怯者がアホの悪口言うな胸糞悪い。そんなんだからあんたら表で何も言えずに大人しく縮こまって、裏で口大にして劣等感誤魔化す為にキラキラしてる子貶すことに必死になるんだよ」


 入雲さんにそう言われた二人は、逃げるようにトイレから出ていった。


 入雲さんは舌打ちを大きく一回鳴らした後、私の方を見て焦った表情になった。


「チッ。言い返せないようなことはじめから言うなよばーか! たく、ゴミが。──い、いぶっちゃん、いたの……お願い! 今の誰にも言わないで! あた──私のイメージの為に!」

「言わないよ。誰にも。ありがとう、言いたいこと全部言ってくれて。言い過ぎな気もしなくはなかったけど。でも大丈夫? 入雲さんが悪く言われない?」


 入雲さんは顔を綻ばせると、そうだよね、いぶっちゃんはそうだよねと小さく呟いた。


「大丈夫だよ。ああいう矮小な存在に何言われたって痛くも痒くもないからね。それに、強く言っても弱く言っても、ああいう人らは裏で私の悪口言うのは変わらないし。だったら言いたいこと全部ぶつけるんだよ。もう慣れてる」

「慣れてる?」


 入雲さんはトイレのドアにもたれて、視線を外しながら話し始めた。


「こなっちゃんあんな感じでしょ。甘え上手で、明るくて、それを好意的に思う人がいる一方で、さっきみたいにうるさいとか媚びてるとか、陰で言われてるところを何度も見てきた。こなっちゃんとは腐れ縁でね。見て見ぬふりもあれだから、言い返す経験何度もしてるの。こなっちゃんが傷つくのは見てられないから。だからいぶっちゃん、こなっちゃんと仲良くしてくれてありがとう」

「どういたしまして。でも、それは私がいつも小夏に言いたい事でもあるよ。入雲さんも、いつも小夏を守ってくれてありがとう」

「どういたしまして」


 入雲さんは真っ直ぐ私を見て、付きものが取れたように笑った。


「こなっちゃんは良い出会いしたんだね」


 入雲さんは手を洗って出ていったので、私は入雲さんがドアを蹴飛ばした事によりついたであろう足跡を拭いた後、手を洗って小夏の元に戻った。

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