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 付き合うことにしたからと言って、見せつけるように一緒にいるとかそんなことはしない。今までと同じように過ごして、とにかくただただ時間が過ぎるのを待つだけ。


「藍川さんってさ〜まじで沙雪ちゃんと付き合ってるわけ?」


 宇河さんは周りの注目を気にしながらそんな話題を投げかける。

 日南さんじゃなくて私に話しかけてきたということは、きっと馬鹿にして優越感を得たいんだろうな。

 ご丁寧に小夏と白葉ちゃんとあゆちゃんがいないタイミングを見計らって話したあたり分かりやすい。逆に日南さんには聞かれていいのかと思うところではあるけど、ある種日南さんにもマウントを取れる材料が欲しいといったところでこの話題を出したのだろう。


「それ、宇河さんに関係あるかな?」


 どんな目的だろうと、ただの雑談だろうと、正直に付き合っていると認めることを私はしない。


「え〜図星ついて不機嫌にさせちゃった? 藍川さんってガキみたいなところあるんだね」

「不機嫌になったつもりはないけれど、そう見えちゃったならごめんね。まだ高校生のガキだから、人からどう見られるかあまり意識していなくて」


 私の言い方に反抗を感じて癪に触ったのか、言い方の嫌味が増した。


「藍川さんさぁ〜一軍の人達と交流持ててさらに付き合えたからって調子乗ってるよね。てかさー女同士とか理解できないんだけど。モテないからって逃げるのどうかと思うよ。軽いノリで付き合ってさ。沙雪ちゃん可哀想〜。沙雪ちゃんモテるのに、藍川さんのせいで男と付き合う機会潰されて本当に可哀想。藍川さんもさ、モテないからって女に逃げるのやめなよ。性格悪いよ」

「そっか」


 無視してもよかったけれど、さっさと話を切り上げたかったので一言だけ送ってトイレに避難しよう立ち上がったけど、机を叩かれて道を塞がれた。


「藍川さんさぁ〜馬鹿にしてる?」

「してないよ」

「どう媚びたか知らないけどさ、あんたみたいな人普通に捨てられるからね。陰キャの癖に同性愛とか救いようがないから。今は一軍に拾われて無敵になっている気分だろうけどさ、あんたみたいな底意地悪い奴、すぐに愛想尽かされるから」


 宇河さんはなんであたしじゃなくてこいつがと小さく呟いて、苛立ちを指先から放ち、机を叩いてまるで威嚇のように速いリズムを刻んでいる。


 宇河さんからしたら、せっかく同性愛という攻撃できる箇所を見つけたからせずにはいられないのだろう。

 でも、そんなに言って一体何をしてほしいのか私は分からない。ただのストレス発散なのか、それとも他に目的があるのか。


 …………ああ。日南さんと別れて、気まずくなってそのまま宇河さんの言う一軍脱退を狙っているのかな。宇河さんからしたら、今が一番私を退かせて、空いた席に自分が座れるチャンスだから。今推測できる中で一番近い目的だと思う。

 でも、だとしたらどうすればいいのか。私が強く言ったところで油に水を注ぐだけだろうし、より一層ヒートアップしそう。

 やっぱり、神経逆撫でするのを覚悟で無視して逃げるのが一番かな。私も無駄にストレス溜めたくないし。


「あら、それは自己紹介かしら」


 日南さんは片手を肩に、もう片方の手を私の手首に添えて、笑みを浮かべた。


「さっきから聞いていたけれど、あなた勘違いしているわ。告白したのは私の方よ。ごめんなさいね、男にモテなくて女に逃げた気持ち悪い同性愛者で」

「日南さ──」


 声を出すと、肩に添えていた手で口を塞がれた。


「今は私の番よ。──あなた、よっぽど同性愛が嫌いなようね。なら、私達と価値観全く合わないから、これ以上執着しないで頂戴。控えめにいって迷惑よ」

「いや、別に沙雪ちゃんの事を悪くいったわけじゃ──」

「そう。じゃあ誰のことを悪く言ったの? 私の愛する人の事かしら? なら、さらに不快ね。依吹を攻撃するのなら、一層あなたを受け入れないわ。あなた、カーストに執着しているようだけれど、そんな事気にしている時点であなたの思い描いた立場は一生手に入らないわ。劣っている人間が上に立つなんて、そんな笑える事あるかしら。それとも、あなたは優れた何かを持っているのかしら?」


 日南さんはドーパミンが溢れてくると言わんばかりに心底楽しそうにしていて、宇河さんは何も言えず悔しそうに、そして面を食らっていた。


「で、で、でも! そしたらこの人だって何も持ってないじゃん……」


 宇河さんは無理やり作った笑顔を浮かべて私を指す。


「あら、そう思う?」

「だってそうじゃん! こんな地味な陰キャが! おかしいよ!」

「依吹はね、誰の事も否定しないのよ」

「……は?」

「それに度胸もある。運動神経も良いし、顔だって私ほどではないけれど整っているわ。このすっぴんを見て不細工だなんて言えるかしら? たしかに地味ではあるけれど、だからこその優しさと温かみを持っている。あなたとは真逆ね。見下す相手は徹底的に見下す。上に媚びるプライドの無さ。運動神経も優れていないし、顔だって化粧で取り繕うのに必死じゃない。それでも、すっぴんの私達と比べると劣るわね。性格が出ているのよ。あなたはたしかに地味ではないわ。派手でもない。悪目立ちね。人を思う余裕すらない、自分勝手な空っぽな心。そんなんで私達と同じ立場になれるって本当に思っているわけ? 随分と軽んじられたものね。あなたは純蓮のような可愛げはないし、あゆのようなコミュ力もないし、大澤のような人望もない。小夏さんのような親しみも、白葉さんのような度胸も、なにより私の彼女である依吹のような心もない。実に滑稽ね。それとも、道化師でも目指しているのかしら?」


 多分日南さんが今までずっと溜めていたことだろう。この機会を待っていたと言わんばかりに、まるで考えていた言葉を吐いているかのように感情と余裕が乗っている。

 でも、途中何度も宇河さんは言葉を挟もうとしていたけれど、日南さんは一切口を閉ざさず強行した。日南さんからしても、宇河さんに喋るタイミング与えては台本が崩れてしまうと、多少の焦りもあったのだろう。日南さんは元々長々と喋るタイプじゃないし、途中で切られたら捲し立てられないんだろうな。


 そんな余裕と焦りを持った日南さんに詰められた宇河さんは不快そうに声を漏らして、頭を激しく掻いている。


「そこまで言うことないじゃん! 友達に!」

「失礼ね。私は、いえ、私達は一度もあなたを友達なんて思ったことないわ。思われたくもないわ。一体あなたに何度迷惑してるって言えば立場を弁えて離れるのかしらね。不愉快よ。もう二度と私にも、私達にも関わらないでちょうだい。行きましょう依吹。トイレに行くのでしょう。一緒に行くわ」


 背を向けて数歩歩くと、日南さんは一度止まって振り返る。


「言っておくけれど、依吹の物や机に何かしたら本気で怒るわよ。八つ当たりしたいなら自分のものにしなさい」


 日南さんはそう宇河さんに忠告した後、私をトイレまで押していった。

 でも、教室を出る途中、宇河さんの方から舌打ちが聞こえた気がしたから、多分まだ懲りていない。

 日南さん言い過ぎだと思っていたけれど、なんかちょっとだけその気持ちが薄らいだ。

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