提案
「日南さん、少しいい?」
日南さんを校舎裏に呼び出して、話を切り出す。
「付き合ったら、日南さんは私に利用されてくれるんだよね」
「ええ。そう言ったわ」
「付き合うよ。ただその代わり、ちゃんと別れて、この噂を終わらせて」
日南さんは片足のつま先を立てて、トントンと地面を叩く。それが止まると共に、口を開く。
「あなたに従えばいいのね」
「付き合う期間は夏休みまでの一ヶ月。日南さんは夏休み明けの登校日から、夏休み中に別れたという事実を広めて。私が振ったでも日南さんが振ったでも、自然消滅でも、好きなのでいい。とにかく、もう私達の関係は終わったと噂を広めて」
「そう、好きに広めていいのね」
「め、面倒な事にはしないでよ……」
「ええ、しないわ。ただ、別れた直後って傷心中を狙う人やこの時を待っていた人のダッシュが面倒なのよ。だから、受験を見据えて振ったのは私から。でも私はまだ依吹さんに未練がある。側から見ればいつでも復縁可能な別れに見せる。どうかしら?」
「まあ、それなら……」
「じゃあ、夏休みまでよろしくね、依吹。悪い思いはさせないわ」
日南さんは意地悪な笑顔を向ける。
「もう十分したよ」
私はそんな日南さんの横を見せつけるようにため息を吐きながら通る。
◇◆◇◆◇
教室で五十嵐君と瀬野君と話している大澤さんに声をかける。
「大澤さん、一つお願いされてほしいことがあって。五十嵐君と瀬野君にもできれば協力してもらいたくて」
「何?」
「日南さんと一ヶ月付き合う事にしたの」
瀬野君はまじかよ〜と悔しそうに声を漏らして、五十嵐君はそんな瀬野君の背中を叩いてる。
「それで?」
「夏休み中に別れたって噂流してもらうって言質取ったから、皆にも広めるの手伝ってほしいの。噂に関しては私は上手く扱えないから」
「いいよ、それくらいなら。元はと言えば沙雪が悪いし」
「ちなみに、これなら早く別れたとかは……」
「まあ言われないだろうね。夏休みに別れるとか多いし。安心して大丈夫」
大澤さんは慰める目的なのか、私の頭をポンポンと撫でる。
「あーあ、世の中悪いやつが得するのかよ。俺だって一ヶ月でいいから藍川と付き合いたかったわ」
「残念だったな翔真。ごめんね藍川さん、沙雪が面倒かけて。昔からあんなだから振り回されると思うけど、頑張って」
「五十嵐君日南さんと面識あったの?」
「まあ一応、幼馴染という立ち位置ではあるかな。父親同士が仲良かったから。まあ中学からは色々あって沙雪が引っ越して交流なかったから、高校同じなのはびっくりだよ」
「中学は俺と一緒だな。中身知った後だとまじで振られてよかったと思う女だよほんと。困ったら助けるから、頼ってくれ」
「ありがとう瀬野君」
あゆちゃんにも噂を流してもらう協力をお願いして、すごい頼もしい了承をもらった。あと、瀬野君同様日南さんのことずるいと何度か言っていた。
「依吹ちゃん、沙雪の次はわたしと付き合わない?」
「ちょっともう勘弁です」
白葉ちゃんと小夏からももちろん了承をもらって、とりあえず一件落着はした。
「はぁ……」
「お疲れだねいぶ」
「うん。まあ、皆協力してくれるようで良かったよ」
「……私が黙っているからこんなことになっちゃったのかな……」
力を込めて握る手を、私は軽く撫でる。
「自分を責めないで。私の方こそ、なんか浮気するみたいな収まりしか思いつかなくてごめんね」
「大丈夫、気にしないから。本当に付き合っているわけでもないしね。でも、もしまたこんなことが起こるなら、あゆ達には言っておいた方がいいのかな……」
すみちゃんは嫌そうに眉間に皺を寄せているので、もう一度手を撫でる。
「やりたくないことはしなくていいと思うよ。いつかきっと、言っても平気になる時がくると思う。その時言えばいいんじゃないかな。そもそも今回がイレギュラーだしね。また起こられたらたまったもんじゃない。それにね、大澤さんの言うとおり、同性愛って忌避感を感じる人はいる。万が一漏れて、また噂になったらそれはそれで面倒になると思う。何より、今まで隠そうとしていたすみちゃんの努力が無駄になる。それは嫌だな」
「うん、そうだね」
すみちゃんは手を離して後ろ向きで何歩か歩いて私の前に出る。
「でも、ほぼ同じグループになっちゃったみたいなところがあるし、学校でももっと仲良くなろう。ね、藍川さん」
「そこは七木さんの腕に掛かってるよ」
「え〜⁉︎ 私任せ〜⁉︎」
「あゆちゃんも日南さんも大澤さんも、皆自分から仲良くしてきてくれたからね」
「もー仕方ないな〜」
すみちゃんは私の腕に抱きついて、あざとく私の顔を覗き込んで笑顔を浮かべる。
「私頑張るから、楽しみにしててね藍川さん」
「期待してるね七木さん」




