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火種

 一体どうすればいいのか。頭の中でメリーゴーランドが建設されたのか、一生ぐるぐるしているし、おまけに釘打ちされている気分。

 白葉ちゃんは無視していればいいとか言っているけれど、すみちゃんは気が気じゃないだろう。たとえ噂されなくなったとしても、それは皆の中で私と日南さんが付き合っているというのが共通認識になったという事になる。付き合っているのは自分なのに、周囲からすれば私と付き合っているのが日南さんと思われ続けるなんて、軽い拷問だろう。


「大丈夫か依吹っち〜?」

「まだちょっと……」


 不安解消と防衛目的で小夏を抱きしめて、ずっと背中に頭をつけて考えを巡らせている。

 小夏の鼓動と感触と匂いがまるで実家のような安心感を私にもたらすから、まだ私は学校にいられる。小夏がいなければ私は多分帰ってる。


「大変な事になっちゃったからな〜。遠慮せずあたしに甘えるといい!」

「じゃあ小夏の力でどうにか噂を収められない?」

「そういうのはあたしよりあゆっちとかの方が役に立つと思うぞ」


 あゆちゃん……そうか、あゆちゃんなら力になってくれる。

 私は小夏成分を目一杯蓄えてから、離れてあゆちゃんの元に行く。


「大澤さん……あゆちゃんどうしたの……?」

「悔恨と後悔と倫理に苦しめられているの」


 あゆちゃんは自分のツインテールを握りしめながら机に伏して呻き声をあげていた。


「あ、あゆちゃん」

「依吹ちゃん……噂ばら撒いたもん勝ちだったんならわたしでばら撒きたかった。そしたら依吹ちゃんと付き合えたのに……。沙雪にやられた〜。わたしがまともな倫理持ち合わせていたせいで依吹ちゃんの気持ち無視できなかった〜……」


 正直私もまだ日南さんと噂になるくらいならあゆちゃんと噂になった方がマシだったと思う。


「あのねあゆちゃん、その噂の事で相談なんだけど、どうにか噂を取り消してもらう事ってできないかな? 付き合っているのは嘘だったって」


 あゆちゃんは机を叩きながら起き上がり、声を張り上げる。


「わたしだってできたらそうしてるよ! でも、できないの。ごめんね依吹ちゃん〜」


 あゆちゃんは私の首に腕を回して、抱きつきながら頭を撫でる。


「お、大澤さんの人柄と人脈ならどうにかできない?」


 大澤さんはあゆちゃんが立った事によって空いた席に座りながら喋り始める。


「無理無理。噂ってぶっちゃけそんなの関係ないよ。面白いかどうか、ネタにできるかどうかだからね。情報源ってぶっちゃけ大事じゃないんだよ。実は付き合ってなかった。これほど興醒める事実、言ったところで簡単に捨てられるどころか、口止めし回ってるとかそんな感じで燃料にされるだけだよ。そもそもキスしたのは事実なんでしょ。そこがただ盛った情報なら、まだ目撃証言がない分、うちとかあゆとか、なにより沙雪があれ嘘だよって言えばどうにかできたけど、複数の目撃証言がある以上まーじで無理。そこ否定できないのに付き合っているを否定できるわけない。辻褄が合わなくなるもん。ま、新しいインパクトのある噂がまた流れるのを待つしかないよ。でも、今回の噂の主役があの沙雪だから長引きそうだけど」

「なんで?」

「噂が流行るというか長続きする条件は、知っている人が多い、そして意外性。この二つ。沙雪はああ見えて交流関係広いし、そもそも美人だから、名前を知らなくても特徴言えばあの美人の人ねで伝わる。そして沙雪はことごとく告白を断ってきたので有名。なにより、今回の噂で付き合っている相手が女ということになっている。あの鉄壁美人の沙雪が付き合っているだけでもビッグニュースなのに、さらにそこに相手が女という、ある種の火種が追加された。これは中々美味しすぎて味がし続けるゴシップだろうね」


 現実を突きつけられるたびに頭が痛くなる。


「……じゃあ! 付き合っていたのが嘘じゃなくて、別れたって噂を流すのは⁉︎」


 大澤さんは考えもせず首を横に振った。


「それは依吹ちゃんが悪く言われちゃうからやめた方がいいよ」

「あゆの言う通り。仮に相手があゆだったなら、すぐに別れてもまああゆだしなになるけど」

「酷〜い」

「藍川は良くも悪くも知られてない。だから付き合っているって噂が出てすぐ別れると、藍川が悪く言われる。噂っていうのはある程度の根拠が必要だけど、逆に言うとある程度以外は不要なの。皆噂に求めるのは面白いドラマ。すぐに別れたなんて言ってごらん。藍川は沙雪を弄んだクズ女、沙雪はそんなクズに騙された哀れなヒロイン。こんな感じになる」

「じゃ、じゃあ、本当は他の人と付き合っていたっていうのも……」

「藍川が二股するクソ女になるだけだね」


 溜め息が止まらなくてしょうがない。一体どうすれば……。こうなることなら、すみちゃんと付き合っているとバレた方が百倍マシだった。


「そもそも同性同士だからね。異性だったらまだすぐ別れても馴染みがある分ある程度は理解されたと思うけど、同性同士な分、遊びで付き合うからとか、真剣じゃなかったとか、気の迷いに振り回されてとか、身近じゃない分ほんと憶測で言われ放題になると思うよ。そこも今回の噂が厄介なところだね」

「女の子が女の子に本気で恋情を抱くなんて、当事者にならないと分からないからね。わたしも最初は本当に依吹ちゃんのこと好きになるとか全く思わなかったし。遊びで付き合って、ただ彼氏がいない期間の埋め合わせくらいに思っていたのに、当事者になるなんて思わなかったよ」

「うちは抵抗感ないからいいけどさ、持つやつもいる。だからこそこの噂は厄介なんだよ。持つやつは持つやつで好き勝手貶すし、持たないやつは持たないやつで好奇心でネタにし続ける。なにより、偏見と擁護で対立を起こす良い種だからね。まあ、うちらはちゃんと理解しているからさ、割り切るしかないよ」

「うん……少し考える」


 席に戻って、枯渇した小夏成分の供給を再び始める。

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