相談
二限が終わり、私は片付けるよりも先にすみちゃんの元に向かう。
「七木さん、ちょっといいかな。話したいことがあって」
すみちゃんは机でトントンと叩いて揃えていた教科書とノートを乱雑に離して、すぐに立ち上がった。
「うん。もちろんいいよ」
今浮かべている晴れやかな笑顔を消してしまうのは心底心苦しいけれど、これに関しては仕方がない。
そろそろお馴染みになってきた屋上前で、私は同中で私達の関係を知っていた後輩がいたということを話した。
すみちゃんは壁にもたれ、頭を抱えながらずるずると力を抜いてしゃがんでいく。
私はその隣で体育座りをする。
「どーしようー」
「おそらく口止めしたら黙っていてくれそうな子ではあったから、お願いするくらいしか方法はないかな」
「それはそうだろうけど……友美奈」
「ん?」
「友美奈に聞かれたの?」
ここは隠していたとしてもどうせバレる。腹を括って言うしかない。
「中学の時に付き合い始めたってことはバレました。別れたこともバレました。でも、今付き合っていることはバレていない。両思いって事はバレているけど」
すみちゃんは純粋に腹から漏れ出たような、声にならない唸り声を吐き続けていた。
「付き合っているのがバレなかっただけマシと考えるしか……」
「黙っておいてくれるらしいから。それで、後輩の方はどうする? 別れた事にしとく?」
「うん……。口止めと合わせてそういう事にしとこう」
すごいショックを受けている絵面が浮かぶ。まるで地球滅亡が告げられたような。そして、テーマパークで財布を無くしたような絶望が。
「ちなみに、後輩がジャージ返す時二人で来てほしいって言ってたんだけど」
「変に噂を加速させるような事をするべきじゃないから、いぶがその子を私のいる場所に呼び出して。二人でお願いしよう」
「うん」
「はぁ……。もう広まってあゆや沙雪の耳に入ってないといいけど。沙雪はキツく言えば黙ってくれるだろうけど、あゆはいぶの事好きだし何かとアクション起こしてきそう」
というよりすみちゃんに浮気打診をウッキウキでする図が浮かぶ。
いや、それよりも日南さんキツく言えば黙ってはくれたんだ。今さら遅いかもだけど一応私に好きな人がいるって話について、黙っておくよう言っとこうかな……。
「ちなみにすみちゃん、もしあゆちゃんが私と浮気していいかって聞いてきたらどうするの?」
「え、何? 付き合って二日目で浮気される事を予告されてるの私?」
「え⁉︎ ちが──」
「嫌だけど、でも、それでいぶが私を捨ててあゆを選ぶくらいなら、浮気してくれた方がいいかな……なんて」
弱さを見せるために塩らしく、けれど上目遣いで自分の可愛さを発揮しているすみちゃんにまんまと喜んでしまう私は、きっと相当ちょろい。
「大丈夫。しないよ」
「うん」
そろそろ時間なので、すみちゃんの頭を撫でてから立ち上がる。
「きゃっ! いぶ、ごめん、パンツ見え──ん? パンツ?」
すみちゃんは一度気まずそうに逸らした顔をすぐに真っ直ぐに向けて、今度は大胆に私のスカートを捲った。
「ちょ⁉︎ すみちゃん、何⁉︎」
「いぶスパッツ履いてない!」
「え! 嘘⁉︎ 朝バタバタしてたから履き忘れちゃったのか〜」
すみちゃんの方を見ると、自分のスカートの中に手を突っ込み、靴を脱いでスパッツを脱いでいた。
「な、何してるのすみちゃん⁉︎」
「私の貸すからこれ履いて」
「ええ⁉︎ でもそしたらすみちゃんが──」
「私は下にジャージ履くから大丈夫。万が一パンツ見えたら困るでしょ」
「いや、でも……」
すみちゃんは少々眉間に皺を寄せ、あからさまにイライラを見せている。
「もう、こう言ったら分かる? 私以外にいぶのパンツ見られるの嫌なの」
そう言われてしまうともう何も言えない。それにしても、恋人がつい先ほどまで履いていたスパッツを履くというのは、なんというかこう、微妙な背徳感といいますか。ね。




