集合
家を出て門を閉めると、目の前をすみちゃんが通過していった。
少し早歩きして横に並んで、歩幅を合わせる。
「おはようすみちゃん」
「おはよ」
すみちゃんはこちらを見ずにそう返すと、少し歩く速度を早める。
前言った自信を揺らがせてほしいっていうのを実行してくれているみたい。
私がすみちゃんに並ぼうと歩幅を大きく、足を早く動かすと、すみちゃんもより早く歩く。
最終的には並走になって、駅に着く頃にはすみちゃんは息切れでベンチに寄りかかっていた。
「体力が……」
「すみちゃん、大丈夫? ごめんね」
「別に……」
すみちゃんに触れようと伸ばす手を、すみちゃんは一生懸命腕を振って拒否る。
だから、側にそっと、自販機で買った蓋を緩めた水を置く。
水を飲んだら少し落ち着いたのか、ぼーっと空を見上げて、急にスイッチが入ったかのように動き出す。
流石は日曜日で、親子連れが多い。一つだけ空いている席にすみちゃんは真っ直ぐ向かって座り、スマホを取り出す。
私はすみちゃんの前で吊り革を掴んで立ち、外の景色を眺める。
「良い天気だね」
「……うん」
「ワンピース、似合ってるよ」
「……うん」
これは中々にギャップを感じる。すみちゃんにこれほどまでに雑に扱われた事がないから、もし何の前提もなくこんな態度を取られてしまったら少々どころじゃない不安を抱きそう。
そもそも私をこんな風に扱うの兄くらいだし。もしも返事がうん。じゃなくてああ。なら、ゲームしている兄と大差ない。
「乗り換えだよ。降りよう」
「うん……」
乗り換え後も特に会話無く、すみちゃんはひたすらにスマホをいじって時間を過ごしていた。
「すみちゃんはスマホで何見てるの?」
「……藍川さんには、関係ない」
「それもそうだね」
通常だったら一緒に見る? って言ってくれると思うけれど、今の場合は壁を張る。
まだ序盤だけどすみちゃんについて段々と分かってくる気がする。
約束場所にはまだ誰も来ていなくて、すみちゃんは再びスマホを取り出す。
「暇だね〜」
「スマホいじるなりなんなりすればいいんじゃない」
「純蓮〜それは藍川に辛辣すぎるんじゃない〜?」
後ろから大澤さんがやってきて、開口一番そう言った。
「これにはちょっと事情があるの」
「冷たい態度に事情ね〜。そんなのある〜?」
あるんですよ大澤さん。まさかまさかの事情がね。
「喧嘩とかじゃないから安心して」
「まあ藍川が言うならいいけどさ」
「なんで藍川さんなら良くて私だと疑うの?」
「だってどう見たって被害者っぽいの藍川だから」
ある種こんな態度を取らざるをえないすみちゃんの方が被害者な気がするけど、何も言えないのがむず痒い。
「私が意地悪するタイプに見えるわけ?」
「割と」
「ひっど〜い!」
すみちゃんはポカポカと大澤さんを小突いて、大澤さんは子どもを相手するみたいにその手を軽くいなしている。
「何をしているのかしらあなた達」
日南さんはこれからカフェに行くというのに、片手に半分減ってるフラペチーノを携えていた。
「いや、あんたも何買ってるの。これからどこ行くか知ってるの?」
大澤さんも流石に見過ごせないのか呆れ顔でツッコんでいる。
「しかも半分飲んでる」
「ギフト今日までなの忘れていたのよ。それに買ったら飲むものよ」
「行きに買わなくても……」
「帰りは忘れるかもしれないじゃない。タダで買えるのに勿体無いわ」
「まあいいけどさ」
日南さんは飲む? と、私にストローを向けてきたので、首を振って丁重にお断りさせてもらった。そしたら何故かカップごと渡された。
「冷たかったからちょうどいいわ」
日南さんはそう言って、速攻ポケットに手を入れた。
これじゃあまるで、私がわざわざ買って半分飲んできた人みたいだ。
「藍川はドリンクホルダーじゃないぞ〜」
「あら、受け取ったのは依吹さんよ。私は押し付けていないわ」
「沙雪に渡されたら藍川さん受け取っちゃうでしょ。自分で持ちなよ」
「なら純蓮が持てばいいと思うわ。私は手の冷えが引くまで遠慮させてもらうもの」
「女王様が」
「あら、良い皮肉ね。気に入ったわ」
日南さん、強いな。そんな感想しか生まれなかった。
「藍川も何か言ってやりなよ」
「暖簾に腕押しになりそうだから私はいいかな。大澤さんと七木さんで頑張って」
二人はため息をついてギブアップと言いたげである。
「沙雪はあまり言うこと聞かせられないから」
「懸命な判断ね」
しばらくして、あゆちゃんと白葉ちゃんと眠そうな小夏が揃ってやってきた。
やはり、なんでこれからカフェ行くのにそんなもん買ってるのと呆れながら白葉ちゃんに言われ、気づくとあゆちゃんと小夏が勝手に少し飲んでいた。
日南さんがそれ私のなのだけれどと言うと、三人から自分で持てと総ツッコミである。




