対策
白葉ちゃんが戻ってくると、いつもの調子にいつもの笑顔になった。
でも、対照的に白葉ちゃんは苦い顔をしていた。
「ねえ、悪いけど別日にしない?」
「どうしたの?」
「いやさ、橋野と話してたらさ、色々あってじゃあ橋野達も一緒に行こうって話になったんだよ。そしたら宇河も行くとか言い出してさ、あげくに仕切り始めて。さっきすっちゃんがキレてたのにあんま気にしてなさそうで、すっちゃんもかなり不機嫌になったし。というわけで、今日行くと碌な目に会わないから、別でグル作って、そこで話し合って一緒に行かない?」
「いいと思うぞ」
「小夏も宇河さん苦手なの?」
小夏は少し顔を引くつかせて、鼻息を荒くした。
「依吹っちの悪口言う奴は誰だろうと嫌いだ。悪口自体も好かないしな。むしろ依吹っちももう少し文句言っていいくらいだ」
「まあ、うんうん言ってれば済むから別に私自身あまり感じる事はないかな」
小夏は付け上がらせるなとちょっとムキになり、白葉ちゃんは眼中にないじゃんと笑った。
「自分のことだからってのもあると思うけどね。小夏や白葉ちゃんが悪く言われてたら、私も結構嫌だから」
「まあ、宇河みたいなのには割といぶっちゃん相性悪いけどね。あいつは何も言わなかったらつけ上がるし、言ったら言ったで構ってもらえたって感じで喜ぶから。無視が一番だよ」
「そもそも私は宇河さんに構われることも少ないからそこまで気にすることはないけど、もし困ったら参考にさせてもらうね」
そう言って間もなくして、私は宇河さんによく話しかけられるようになった。
「藍川さんさ、白葉ちゃん達と仲良いの?」
「まあ、そうだね」
「へー。全然合わないのにね」
「そうかな?」
「だって小夏ちゃんは結構元気でさ、白葉ちゃんも結構はっきり物言うタイプでしょ。藍川さん大人しいからめっちゃ空気壊しそうだなって。二人に気使わせてたりするんじゃない?」
「私は結構対等な関係築けていると思うけど」
「気づいていないだけだよ。てか藍川さんってさ、あゆちゃん達だったり小夏ちゃんだったりで、一軍の人達としか関わりないよね。藍川さん結構陰キャっぽいのに。もしかしてあれ? カーストで付き合う友達選んでるみたいな?」
今にも元気になりそうな手を一生懸命抑え込んでいる白葉ちゃんがチラチラと視界の端に映って正直ちょっと気が気じゃない。
「おい! 依吹っちになんてこと言うんだ! 依吹っちは損得で友達選んだりしないし、あたしだって依吹っちに気を使ったりしてないぞ!」
小夏は私の首に手を回して抱きつき、守るように私より前のめりに体を出した。
「へーそうなんだ。めっちゃ媚び売ってんじゃん藍川さん」
「てかそれってさ〜、依吹ちゃんじゃなくてあんたのことでしょ」
あゆちゃんもここぞとばかりにやってきて、私の肩に手を置いた。
「あんたには分からないだろうけど、わたしらはさ〜、去年も同じクラスで色々と絆を育んでいるわけなんだよ。なのになんで、大した関わりも共通点もないあんたがわたしらと一緒にいるの? はっきり言ってあげるけど、あんた一軍向いてないよ。て、分かってるか。だからわたしらに付き纏っているんだもんね。めっちゃ不愉快だからさ、やめてくれない? わたしら別にカーストとか心底どうでも良くて、仲良くしたい人達といるだけだから。てか依吹ちゃん見下すのもほんとやめてくれない? 友達悪く言われて気分悪いんだけど。この前それで純蓮にキレられてたんだからさ、ちょっとは学習しなよ」
「え〜あゆちゃん冗談キツいよ」
「冗談なわけないでしょ。まじうざい。てか友達でもなんでもないんだからさ、名前で呼ばないでくれない。依吹ちゃんおいで。守ってあげるから」
あゆちゃんに促されるまま立って、というか立たないと許さないぞハート。みたいな雰囲気を漂わせていたので、すみちゃん達のグループに一時的に加わる。
「あゆちゃん、流石にさっきのは言い過ぎな気が……」
「いいの。依吹ちゃんダシにしちゃったけど、わたしが今まで言いたかったこともあるから」
「正直よく言ってくれたと思うわ」
「まあ、どうせすぐ戻ってこようとするだろうけどね」
大澤さんのその一言に、周りが全員ため息を吐いた。
「今度は本気で言ってみようか?」
「純蓮がキレると本当に洒落にならないから最終手段でいいと思うよ。まだこの前の衝撃残ってるし。心臓に悪い」
大澤さんは結構真剣な目で、胸に手を当ててすみちゃんに真っ直ぐそう言い放った。
「入雲一発殴ってくれないかな」
「そしたら白葉っちが悪くなるからダメだ!」
「何? あたしの悪口?」
「入雲、宇河の事一発殴ってくれない?」
「え? 一発だけ?」
白葉ちゃんは指を鳴らしながら笑顔でそんな事を言う。
ちょっと冗談を超えそうなので、白葉ちゃんの手にそっと触れて、一線を越えさせないようにする。
「宇河さんはなんで、その、人じゃなくて立場に執着するんだろう」
「成功体験ゆえのプライドか、自信の無さからの虚栄心か。もしくはそれ以外かだと思うよ。とにかく、宇河が気の合う人を見つけるか否かは関係ない。見つけたとしても、結局欲しがるのは立場だからね」
「もう、宇河さんの神経逆撫でする事を承知で、いぶ──藍川さん達、グループ合併しない?」
「それは遠慮しておくぞ」
すみちゃんの提案に一番最初にそう反応したのは小夏で、すみちゃんは条件反射のような速度で、じゃあいぶだけでもという言葉を瞬時に言いかけて飲み込んだ。
「どうして?」
「常に大勢は疲れるからな。たまに一緒になるくらいが丁度いい」
「まあそうだね。変に煽り入れても、どうせ攻撃されるのいぶっちゃんだろうし、その提案は却下だね」
「そっか。残念」
すみちゃんは本当に心底残念そうにため息を吐いた。
すみちゃんとしては、自分含めて全ての障害を取っ払った今、きっと私と少しでも長くいたいのだろう。憶測だけど、同じ立場ならきっと私もそう思うから。




