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知らない

 私は教室に戻って早々、白葉ちゃんの肩を叩いた。


「白葉ちゃん。ありがとう」


 白葉ちゃんは立ち上がると、おもむろに私を抱きしめた。


「おかえり」


 私はそんな白葉ちゃんを抱きしめ返して、一言口にする。


「ただいま」


 後ろから制服を引っ張られたかと思ったら、小夏が声を抑えながら泣きついてきた。


「もう、いいのか? もう平気なのか? もう、元に戻って大丈夫なのか?」


 白葉ちゃんから離れて、私は小夏を抱き上げる。手で。足で。小夏は全身で私に抱きついた。


「うん。もう大丈夫。ごめんね小夏。ありがとう。また、一緒に過ごそう」

「うん……! 待ってたぞ、依吹っち。ずっと」


 二年に上がってようやく、まともに呼吸ができるようになった気がした。

 小夏がいて、白葉ちゃんがいて。そんな日々が私にとっての幸せだって。きっと、こんなことしなければ実感することもなかった。

 良い日々とはいえない。なかった方が確実に楽しくて良い毎日だった。でも、すみちゃんの事だけじゃない。私達も私達で、当たり前にある友情の大切さを学べたと思う。

 でも、それはそれとしてもう二度とごめんだけど。


「それでいぶっちゃん。良かったら今日放課後どっかいかない? 喜んで奢られてあげるよ」

「奢るんじゃなくて奢られるのか?」

「まあ、いぶっちゃんの我儘に付き合って色々とあったからね」

「そうだね。小夏にも奢るよ。何食べたい?」

「ほんとか! じゃあケーキが食べたいぞ!」

「良いね〜。じゃあ良い店知ってそうな人に聞きますか。橋野〜、美味しいケーキの店知らない?」


 白葉ちゃんはあゆちゃんの方に行って、色々と店を聞きにいった。


「なあ依吹っち、一体誰の為だったんだ?」

「そうだね。私を大切に思ってくれている人の為。かな。そのせいで小夏を巻き込んで、本当にごめんね」

「別にいいぞ。それが依吹っちとその人にとって必要な事だったならな。一度拗れると、元の関係に戻ったように見えても、内にはずっと壁があるもんだからな」


 小夏は白葉ちゃんを少し寂しそうに見た。


「私達も一度拗れたの。仲が悪くなったとか、そういうのじゃない。だからこそ厄介で。それを元に戻す……ううん。取り除いてより良い関係にする為に、私は今回、壊して、再構築することを選んだ。でも、それが誰にでも当てはまる成功とは思えない。私も一人では絶対に失敗していたし。でも、もしも後悔していることがあるなら、させていることがあるなら、それは枷を持っていない方が鍵を用意してあげるべきだと思う。どんな方法でもいい。その人が側にいる内に助けてあげよう」

「そうかもしれないな。でもな、依吹っち。どっちも枷を持っている場合はどうすればいいんだ?」


 私は答えられなかった。

 小夏も何も答えなかった。

 私は小夏の過去を詳しく知らない。いや、ほとんど知らない。

 思えば、小夏はあまり自分のことを語らない。

 家族構成すら知らない。ただ、アニメと漫画が好きで勉強をあまり好まないって事くらいしか知らない。

 私は小夏の事を知らない。付き合いが小夏より短い白葉ちゃんよりも。

 今までずっと、そんな大切なことに気づいていなかった。

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