影響
あゆちゃんが私の方に寄ってくるのを阻止する為に、早く学校に行くのを辞めた。
小夏と登校時間が被らないように、よりギリギリに登校する。
これだけで朝の時間は回避できる。
ホームルームや休み時間はイヤホンつけて勉強する。
これだけで私に話しかけないだろうし、話しかけないように誘導してくれる。
テストも近いし丁度いい。成績良かったら何か買ってもらおうかな。
「依吹さん、少しいいかしら?」
お昼、お弁当の準備をしていると後ろから日南さんに肩を叩かれた。
すみちゃんがいないなら全然いいのだけれど、普通にいて日南さんを待ってるから全然よくない。
日南さんは制御難しいって言われてたけど、まさか一対一で接触されるとは思わなかった。
「えっと、どれくらいかかるかな?」
「そこまで時間は要さないわ。行きましょう」
トイレに入ると、日南さんは腕を組んだまま、真っ直ぐ私の方を見る。その顔はどこか深刻そうで、私の不安を無駄に煽る。
何を言われるんだろう? やっぱり現状についての違和感? あゆちゃんとすみちゃんの仲が戻ったから私も白葉ちゃんと? どれもこれも言われても今はどうしようもないし。
「依吹さん、あなたやっぱりあゆに愛想を尽かしてしまったの?」
「…………え?」
「すごく頑張ってくれたと思うわ。あゆと純蓮の仲を取り持ってくれたこと恩に着るわ。でも、やっぱりあの子ちょっとうるさいしデリカシーに欠けること言うわよね。私達が押し付ける形で仲裁してほしいなんて言ってしまったから、依吹さん慣れない相手に大変だったでしょう。それでストレス溜まって白葉さんと小夏さんとの仲も変になってしまったのでしょう。本当にごめんなさい。もし仲直りしたいのなら、私達協力するわ。いくらでも頼ってちょうだい」
日南さんは、真面目で賢そうだけど、実態は嘘が下手で勝手に解釈して割とペラペラ喋るくせに妙に冴えているところがある馬鹿だから、今回の件、絶対日南さんに話すと碌なことにならないよって言われたけど、何となく言いたいこと分かった気がする。
白葉ちゃんは本当によく人を見てるな。
「何かおかしなところあったかしら?」
「ふふ。ううん。嬉しいなって。日南さんは本当に優しい人だね。大丈夫だよ。日南さんが思っているほど、私達はそこまで拗れていないから。あと少ししたら仲直りするから。あまり深刻に捉えないで。見守っててくれたら嬉しいな」
「……そう。白葉さんが言うのはともかく、依吹さんが言うとそれなりに安心ね」
今は淡く青い長い髪を手で靡かせながら、先ほどとは打って変わって余裕の見える表情を見せる。
「綺麗だね」
「よく言われるわ。喋らなければ美人だと。時間を取らせてごめんなさいね。私は失礼するわ。皆が困っているのが目に見えるから」
「……宇河さん?」
「ええ。彼女は依吹さんを見下しているから、私達のように執着するとは思えないけれど、こうして一対一で話したりするでしょう。少々面倒になるかもしれないけれど、困ったら私達を頼っていいわよ」
日南さんはため息を吐きながらトイレから出ていった。
私が教室に戻る頃には日南さん達はもういなくて、学食に行ったようだった。
ほっと胸を撫で下ろしてお弁当を開けようとしたタイミングで、白葉ちゃんから連絡が入った。
お弁当を閉じて、人が基本来ない屋上の扉の前までやってくる。
「さっき、日南に何言われたの?」
「仲裁頼んだせいで私たちの仲悪くなったのなら申し訳ないから、ぜひとも仲を取り持たせてほしいって」
「あたしに言ってきたことと同じだ」
「一応、そこまで拗れてないから平気だよとは言ったけど」
「あたしが言うよりも信用できるとか言われたでしょ」
「まあ、うん」
「信用云々じゃなくて、日南達からしたらあたしから切ったように見えるからだと思うよ。その場凌ぎの嘘だと思われてる感じだから、あまり気にしないでいいよ」
「白葉ちゃん、ごめんね。嫌な役任せちゃって」
白葉ちゃんはペチっと、頬に触れるように優しく軽く叩いた。
「ほんとそうだよ。でも、悪い子になれって言ったのはあたしだし、協力はするよ。それに何より、一番辛いのはいぶっちゃんだからね」
「私は覚悟決めた分そんなにだよ。小夏とか、訳も分からず巻き込まれている方が辛いと思う」
「こなっちゃんは大丈夫だよ。上手くフォローしてるから。いぶっちゃんと話したのもあって、少し安心したっぽいしね。すっちゃんの方もそれなりに上手くいってるとは思うよ。すっちゃんの認識も段々と変わってる。いぶっちゃんが善だって認識も揺らぎ始めてる。だから上手くいってる。あまり言い過ぎるとあたしに反発きそうだから慎重にだけど」
「苦労かけて本当にごめん」
「いいっていいって。あとね、意外と宇河がいい仕事してるっぽい。宇河への鬱憤溜まりまくってるぽくて、自分がしたことそこまで悪くないんじゃないかって思い込み始めてる感じ。あいつムカつくけど、今だけは丁度いいよ」
「結構皆、宇河さんに参っているみたいだね」
「まーね。いぶっちゃんは今すっちゃんの事でいっぱいいっぱいだろうけど、結構余裕出てくるとうざいって思うよ。まあ、すっちゃんは特にだと思うけど」
「私の事で?」
「うん。ただでさえいぶっちゃんの認識が変わり始めてるのに、追い討ちのようにいぶっちゃんの悪口吹き込まれてるっぽいし」
「私宇河さんとあまり関わってないのにどうしてだろう? 何か癪に触る事を知らず知らずのうちに──」
ちょっと落ち込んでため息を吐くと、白葉ちゃんが頭に手をおいてくれた。
「違うよ。側から見たらいぶっちゃん、大人しいのに橋野とか、今日だと日南とかと話してたでしょ。宇河からしたら脅威なんだよ。自分が喉から出るほど欲しているキラキラした地位を奪われる脅威。しかも、自分は一生懸命合わせて媚び打っているつもりなのに、大して能動的に動くわけでもないいぶっちゃんに奪われそうになるのが。だから、先手打って悪印象抱かせようとしてるんだよ。逆効果だけどね。正直あたしもそろそろキレちゃいそう。宇河に関しては平手打ちで済まなさそう」
白葉ちゃんは笑いながら言っているけど、結構冗談とも思えない雰囲気を纏っている。
「白葉ちゃんの平手打ち結構痛かったけど、それ以上か」
ちょっと懐かしくて、でも名残が残っているような感覚があって、無意識に頬を摩った。
「ごめんね」
「ううん。殴ってほしいって言ったのは私だから。それに、私も叩いたし。良い演技だったよ」
「怒りは嫌というほど中学で抱いてきたから上手いんだと思う。でも、止められなかったらどうしようかって思ったよ。あんまり人を信じない方がいいよって、ほんと言えないよね。この作戦は、信頼の上で成り立っているんだから」
「でも、白葉ちゃんは乗ってくれた」
「あたしが信じているのは皆じゃなくていぶっちゃんだけだからね。だから乗った」
「それは初耳。でも、だったら尚更絶対成功させないといけない。白葉ちゃんが間違ってなかったって証明する為に。白葉ちゃん、ラストスパートよろしくね」
「もちろん。絶対皆の労力を無駄にはさせないから。弁当まだでしょ? 時間使わせてごめんね」
白葉ちゃんとグータッチして、私は先に教室に戻らせてもらった。




