第二段階
もう一ヶ月。期限まであまり時間がない。
あと一ヶ月で蹴りをつけないといけない。今のところ日曜日にすみちゃんが来ることはないから、ある程度は成功しているとは思うけど。
でも、結局はすみちゃん次第が大きいから本当になんとも言えない。
「でもそろそろ、次の段階に進まないと」
トイレを出ると、日南さん達が手洗い場で髪を整えていた。
「あ、ごめんなさい依吹さん。今退くわね」
「ありがとう」
手を洗っていると、大澤さんが話しかけてきた。
「あゆ、最近どう? 最近ってか、一緒に行動するようになってからだけど」
「そこまで心配することはないと思う。大澤さんと一緒にいた時のように愚痴ばっかっていうのはあまりないし」
「仲直りしろって言うのがストレスになってたのかな……」
「……ただ、あゆちゃんも訳が分からずああなって、モヤモヤしてたんだと思う。誰のせいでもないよ」
「依吹さんも──」
日南さんは宇河さんがトイレに入ってくると口を閉じた。
「沙雪ちゃんと友美奈ちゃん! ここにいたんだ! 何の話してたの?」
「いえ、別に」
「もう忘れた」
「あれ? もう出るの? じゃあ私も──」
「用があって来たんでしょ。済ませてから出なよ」
大澤さんは去り際、さりげなく私の腰を叩いた。早く出た方がいいと言っているみたい。
私もハンカチを取り出して、拭きながらトイレから出ようとすると、宇河さんに話しかけられた。
「ねえねえ、今二人何の話してたの?」
笑っているけど、あまり目の奥は笑っていないように感じた。
「ごめん。聞いてなくて」
「え〜そんなのありえる〜? 普通聞くでしょ。使えな〜」
宇河さんはさりげなく舌打ちをしてトイレから出ていった。
教室に戻ると、あゆちゃんが私を見るなり寄ってきた。
「おかえり依吹ちゃ〜ん。わー手冷たい」
「日南さん達、あまり話さなくなったね」
私はすみちゃんと目を合わせないように気をつけつつ、目を向けた。
「え? あーね。宇河が執着してるからだと思う」
「宇河さんって、そんなにその、なんていうか……」
「嫌われてる? まあ、そうなんじゃないかな。なんか色々履き違えてる感あるし。うるさければ陽キャじゃないんだよ。仕切るのが陽キャじゃないんだよ。悪口言うのが陽キャじゃないんだよ。なのに、多分そう言う偏見があって、実践しているんだと思う。まあ、ずかずかと既に出来ている関係性に入り込む度胸はすごいと思うよ。その時点で人間関係把握できてなくてマイナスだけど」
「七木さん、大丈夫かな? 大人しいイメージあるし」
「純蓮?」
あゆちゃんは口を開けて笑った。
「へーきへーき! むしろ一番へーき! 純蓮はね、悪口こそ言わないけど、余裕で無視するし、嫌なら嫌って言うからね。今だって宇河の方見ないでスマホ弄って無視してるじゃん。純蓮は一番受け入れてくれそうで、一番拒絶する人だから」
「あゆちゃんはよく知ってるね。七木さんの事」
「まあね。高校で一番最初に仲良くなったの純蓮だから」
「じゃあ、七木さんと離れて寂しくない?」
あゆちゃんを座らせて、あゆちゃんの手を握って、その握った手を見る。
「……だって、分からないんだもん。あんな反応されたの初めてだったから。何が地雷に触ったのかも教えてくれなかったし。謝っても、あゆは悪くないしか言わないから」
「そういうのは困るよね」
「うん」
「あゆちゃんはあゆちゃんらしくいたらいいと思うんだ。あゆちゃんが悪いだなんて誰も思っていないよ。誰も悪くないなら、誰かが元に戻そうと一歩踏み出すの。罪悪感を無くしてね。それができるのはあゆちゃんだよ。前みたいに、明るいあゆちゃんで三人に話しかけてごらん。宇河さんから三人を取り戻すつもりで。ね」
あゆちゃんを立たせて手を離す。
後ろで手を組むと、行き場の無くしたあゆちゃんは、三人の方を見た。
「やって、みる」
「うん。頑張って」
あゆちゃんはそう言って三人の方に話しかけにいった。
最初緊張が走っていたあゆちゃんの表情にも緩みが出てきて、上手く成功したよう。
これで上手くあゆちゃんが三人の元に戻れれば、第二段階に無事移行できる。
第二段階、私の孤立に。




