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おもい

 あゆちゃんは週末、小夏と白葉ちゃんが遊びに連れ出してどうにかケアするらしいから、私も今週中にどうにかすみちゃんの調子を取り戻させたい。


 でも一体どうすればいいのか。おそらく、すみちゃんが今の状態になってしまった原因はあゆちゃんの一言。すみちゃんが未だに罪悪感を強く抱いてしまっている事を突かれ、しかも、あゆちゃんの言い方がちょっと、その行為が自己中である様な言い方だったのがより一層傷を深くしてしまった。


 私自身も、すみちゃんの行為自体は手放しで褒められたものではないし、おそらく大半の人が顔を顰める所業だったと思う。

 でも、じゃあ完全に悪かった行為かと問われるとそれも違う。

 すみちゃんの行動自体はおそらく正解だった。すみちゃんの為にも、私の為にも。


 そもそも私はすみちゃんの行為で迷惑を被ったことも不快に思ったこともない。これが何よりも一番重要なことだと思う。

 キスもしなかった。それ以上もしなかった。拘束も束縛もしなかった。ただ関係性の肩書きを変えただけだった。


 もし、肩書きに行動を伴わせていたら、幻滅はしないだろうけど、確実に私がすみちゃんに向ける目が変わっていた。すみちゃんもおそらく壊れていた。


 逆も然りだと思う。すみちゃんとずっと幼馴染のままだったら、すみちゃんは常に精神を綱渡りさせていたと思う。

 私も瀬野君と付き合っていたと思う。あゆちゃんの方が告白早ければあゆちゃんと付き合っていたと思う。もしかしたら全く違う人かもしれない。

 誰であろうと、正式な恋人という肩書きを背負わされた以上、私は無理して合わせていたと思う。

 すみちゃんも耐えられなかったと思う。無気力になるか、暴走するか。どちらにせよ、私の好きなすみちゃんは消えていたと思う。見てられなくて離れていたと思う。私もすみちゃんも。


 壊しさえしなければ、嫉妬なんて可愛げがある。独占欲なんて愛がある。

 常に心掻き乱して必死に正常保とうとしているすみちゃんも、幸せに包まれて笑顔で安らいでいるすみちゃんも、私は好きだし受け入れる。だから、何の罪悪感も抱かなくていい。それごと全て渡してほしい。

 その分、大いに嫉妬して、大いに愛を膨らませて、大いに幸せを感じて、大いに恋をして、大いに楽しんでほしい。


 これをすみちゃんに伝えたいのに、今のすみちゃんはきっと耳を傾けない。


 ──ねえ、すみちゃん。すみちゃんはいつになったら自分を許せるの? 断罪されない罪を、いつまでも抱えるつもりなの? もし、自分でどうにかできないなら、代わりに私が手を打つよ。


◇◆◇◆◇


 日曜日、すみちゃんが家に来るより前に、先に私がすみちゃんの家に行く。

 鍵だけ手に持ったすみちゃんが家から出てきたので、私は何も言わずにすみちゃんの手首を後ろから取り、そのままひたすら何も言わず、歩幅も合わせず、引っ張る形で駅まで向かう。


 耳にはイヤホン。すみちゃんが何を言おうと聞こえない。聞こえてしまうと、きっと私の意思は揺らいでしまう。だから意地でもすみちゃんに耳を傾けないし、目も向けない。


 電車に乗って海に行く。潮風が体力を奪っていく。

 三十分程浜辺をずっと歩いていた。すみちゃんを引っ張る手が重くなり、より一層引っ張る力を強くした。


 冷えた身体を飲食店に入って温めた。

 すみちゃんは満身創痍になって、机に突っ伏している。

 すみちゃんの意見は聞かずに注文をし、ただひたすらに待つ。イヤホンに耳を傾けながら、ただひたすらに。


 料理が到着すると、自分の分をさっさと食べて、すみちゃんが手に持っている食器を奪って、代わりに私が、私の使った食器ですみちゃんに食べさせる。すみちゃんの食べる速度を無視して、料理を口に押し付ける。

 途中咳き込んでもお構いなしに。


 ようやく食べ終えて、会計を済ませてさっさと次の場所に行く。

 カラオケの個室に入って、ようやくすみちゃんから手を離す。


 電気はつけず、そのまますみちゃんをソファに押し倒す。

 頭を押さえつけるように腕を回し、口を耳元に添える。

 一度深く深呼吸をすると、すみちゃんの体が少し震えた。私はそのまま追い込むように言葉を囁く。


「好き。好きだよ。大好き。好き。ずっと好き。心から好き。ずっと見て。私だけを見て。どこにも行かないで。側にいて。好きだよ。好き。受け入れて。愛してる。嫌い。大嫌い。嫌だ。軽蔑する。見ないで。寄り添わないで。受け入れないで。愛してる。だから、愛さないで」


 私は起き上がってイヤホンを外し、すみちゃんに付ける。


 ──ねえすみちゃん、私ずっと、何を聞いていたと思う?


 電気をつけてすみちゃんの顔を見ると、すみちゃんは顔を歪ませて、今にも狂いそうになっている。

 イヤホンを外そうとする手を押さえて、顔を近づけてリップ音を鳴らす。


 すみちゃんはすっかり大人しくなって、涙をポロポロと流した。

 イヤホンを外して鞄にしまい、すみちゃんを起こす。


「これでも、いぶは悪くないって言える? 辛かったよね。嫌だったよね。でも、嬉しかったよね。だから、怖かったんだよね。すみちゃんは嘘つきだよ。私が言った言葉全部合ってたでしょ? 好きになってほしい。愛してほしい。でも愛されると、離れていかれた時がどうしようもなく怖いんだよね。無理して私が壊れてしまうのが耐えられないんだよね。だから傷つく前に自分で傷つけて予防線張ってるんだよね。ねえ、どうだった? 今日ずっと、すみちゃんと一緒にいたのに、あゆちゃん達の会話を聞いていたって知って」


 白葉ちゃんに協力をお願いした時、かなり強めに怒られた。嫌がられた。でも、無理言って協力してもらった。

 こうしないとすみちゃんは前に進めないと思ったから。


 すみちゃんは重いし面倒。狂ってもいる。

 ずっとずっと自分を断罪し続ける。そうしないと、正常を保てないから。すみちゃんは常に自分が悪になることで、私を善にし続ける。

 悪だと思い込むことで、誰が何と言おうと、自分を許さない口実を作る。

 何よりすみちゃんは、理解されなかった期間が長かったから、自分を理解されないことが当たり前だと思うようになってしまった。そのせいで、どうせ自分は理解されないと、こちらが理解していると示しても信じない。


 だからその全てを私が壊す。私も悪になる。口実を無くす。理解してるって信じてもらうまですみちゃんの事を言語化する。

 だから、ずっとあゆちゃん達の会話を聞いていた。


 結局すみちゃんは、自分のことを見てもらえないことが何よりも受け入れられない。

 すみちゃんの重さを作っている根本は、私がすみちゃんを見ていることが、見てくれることが前提だから。


 すみちゃん、君が自分の事をいつまでも断罪し続けるなら、私はいつだって目を逸らしてあげるよ。許せるかもと思えるようになるまで、いつだって悪になってあげるよ。

 だから、もっと自分に正直になって。本当は嫌いたくなんてないでしょ。私だって好きになれないよ。好きになっても、すみちゃんは綺麗に受け入れられないでしょ。ねえ、すみちゃん。私、好きになる努力するから、すみちゃんも自分を許せる努力をして。


「ねえ、すみちゃん。ごめんね。すみちゃんは何も悪くないよ」


 だからもっと、自分を理解してあげて。じゃないと、私はすみちゃんの為に私を壊しちゃうよ。

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