恋愛観
学校に来て一番に小夏が読みたがっていた漫画を小夏の机に置いて、上着を椅子に掛けて座る。
ドンっと、背中に体重を掛けられて、そのまま前のめりになって、机に肘をぺたっとつける。
「おはよう小夏──」
後ろを振り返りながらそう声をかけると、そこにいたのは小夏ではなくあゆちゃんだった。
「残念、あゆちゃんでした〜。おはよう依吹ちゃん」
「あゆちゃんおはよう」
どこからともなく舌打ちが聞こえてきて、あゆちゃんも聞こえていたのか、キョロキョロと顔を動かし、こちらの様子を見ていた白葉ちゃんに目を付けた。
「何入雲? 文句あるなら舌打ちしないであんたお得意の口で直接言いなよ。らしくない」
「は? 何? あたし舌打ちなんてしてないんだけど。被害妄想こわ〜。うっざ〜」
「はぁ? したじゃんしらばっくれるな」
「してないって言ってんじゃん。思い込みで責めるな。生理かよ」
「は? きっも、どういう思考だよ」
白葉ちゃんが近づいてきて一触即発の空気になったので、二人の手を握って二回ほど振る。
「そこまでにしとこう。ね。聞き間違いかもしれないし、そもそも私達に向けてじゃないかもだからね」
あゆちゃんは納得いかない表情を浮かべて何か言おうと口が開き、そこから出てきた声は笑い声だった。
「あっはははは! くすぐったいよ!」
「じゃあ二人の喧嘩に藍川さん巻き込まないようにね」
すみちゃんはあゆちゃんをくすぐって私から引き離し、そのまま腰に腕を回して、机の上に座りながらあゆちゃんを膝に座らせた。
あゆちゃんはまるで人質にでもなったみたいにすっかり大人しくなった。
白葉ちゃんはそんな二人の様子を見て、私の肩を指でトントンした後、二人に聞こえないように耳を近づけて小声で話す。
「もしかしてさっき舌打ちしたのすっちゃんだったりし──」
「どうしたの白葉ちゃん?」
すみちゃんに見つめられた白葉ちゃんはゆっくりと身体を起こし、さりげなく一歩後ろに下がって私を盾にできるようにした。
「いえ、なんでもございません」
正直、今となってはすみちゃんが私達、主にあゆちゃんに向けて舌打ちしててもなんらおかしくないと考えられるようになってしまった。
「おっはよー!」
小夏は白葉ちゃんと私の背中に思いっきり体重を掛けた後、定位置と言わんばかりに自分の席より先に私の膝の上に座る。
「何の話してたんだー?」
「大した話してないよ」
白葉ちゃんは小夏が来た事で安らぎを得たかのように柔らかな声を出した。
「小夏はさー、彼氏とかできた事ないの?」
あゆちゃんも小夏が来た事で少し調子を戻したのか、すみちゃんの拘束から抜けて、机にもたれ掛かった。
「ないぞ!」
「告られた事は?」
「ない!」
「告った事は?」
「当然ない!」
「恋愛したいとか思わないわけ?」
「ないなー。あたしは一度友達になったら友達としてでしか見れないしな。あとはあれだな〜。前ちょっと聞いたことあるのは、あたしはロリ枠だから付き合うのは体裁が悪いって」
「何でよりにもよってそんな変な事聞いたんだか」
白葉ちゃんは呆れながらため息を吐き、橋野さんは必死に笑いそうになっているのを我慢している。笑ったら白葉ちゃんが突っかかってくるとでも思っているのだろう。
「本当に好きなら体裁なんて気にしないはずなのにね」
「なー」
下手な人間、例えば私が同じ言葉を言ったとしてもすみちゃん程の重みは出せない。
私でなくても、この場の誰もがすみちゃんに勝る重みは出せないだろう。
「わかった? 橋野の恋愛観の方がここでは少数なんだよ」
「何言ってんの。純蓮だってなんとなくでずるずると付き合ってた民じゃん」
あゆちゃん、すみちゃんは一番恋愛観重いよ。
「ねー純蓮」
「あはは、どうだろうね」
「だから結局皆別れたんじゃないのか?」
小夏の言葉にあゆちゃんはうっと声を漏らした。
「こなっちゃんの言う通り、結局なんとなく、気分、ノリで軽く付き合うから、簡単に別れられるんだよ。まあ、中には覚悟持って別れてる人もいるだろうけど」
あゆちゃんは不貞腐れたように机に乗り上げ、ため息を吐きながら鏡を取り出して身だしなみを整え始めた。
「あーはいはいそうですね。でもわたし恋愛に命かけてないもーん。こんなんだからどうせ尻軽とかビッチとか言われて絶賛モテ期降下中なんでしょうね〜。あーはいはいイライラするな〜。君ら今日カラオケねー」
「愚痴に付き合えって?」
「よく分かってんじゃん入雲」
「あんたへの愚痴も言っていいの?」
「好きにすれば」
よく分からない流れでよく分からないまま、とにかく私達は今日カラオケに行くことが決定したらしい。




