怒りの力
他クラスの友人の応援から戻ってきた日南さんと大澤さんは、この状況に混乱していた。
「一体何があったのかしら……」
「ちょっと、色々とございまして」
白葉ちゃんと一緒に事の顛末を軽く説明すると、大澤さんが笑い出した。
「なに純連? あんたガチギレしたの? うっわ〜見てみたかった〜」
「注意であってキレてはないもん」
「はいはい。あー見てみたかった〜」
笑いながらすみちゃんの対応をしている大澤さんに反して、日南さんは仁王立ちして、半泣きでしゃがみ込んでいる橋野さんを呆れた顔で見下ろしていた。
「まったく。軽率よあゆ。恋愛も喧嘩も。少しは大人になりなさい。もう高校生でしょ」
「だって〜」
橋野さんは少し反抗するように口を尖らせて目を逸らしている。
「そんなんだからあなたは恋愛が長続きしないのよ」
「沙雪だって大してデートもしないでずるずる付き合ってるくせに」
「そうね。お願いされたから告白避けで付き合っただけで、興味はなかったもの。それに今は別れたわよ。連絡来るのも面倒になったから」
「別れたの⁉︎ 初耳なんですけど⁉︎」
「言ってなかったかしら? 純蓮が別れたと同時期に私もちょうどいいから別れたのよ」
「薄情」
「そうね」
橋野さんや日南さんの話聞いてると、すみちゃんの恋愛ってかなり重いんじゃないかって思えてきた。片思い長いみたいだから当たり前だけれど、改めてより一層気が引き締まる。
「あーあ、本当につまらないじゃん。友美奈なんて彼氏のかの字もないのに」
「なに〜? なんかすごく失礼な言葉が聞こえたんですけど〜?」
橋野さんは大澤さんから逃げるように私の横に来て、ジャージの袖を軽く摘んだ。
「そういう事だから依吹ちゃん、付き合おう」
「お前何も反省してないじゃん。鳥かよ」
「うるさい入雲。あんたの相手は後でしてあげる。盾にしてとっとと外野に追い出してやる」
「いいよ〜。そっちがその気ならあたしもそれ相応のことやってあげるよ」
私は手を強めに叩いて、二人の会話を一旦遮る。
「えっと、橋野さん。さっきも言ったけど、好いてくれたのは本当に嬉しい。でも、やっぱり橋野さんとは付き合えない。ごめんなさい」
小夏を少し引き剥がし、深々と頭を下げる。
しばらくして、信じられないとトーンの落ちた橋野さんの声が聞こえた。
顔を上げると、つまんないと言いたげにため息を吐いた。
「わたし今まで付き合おうって言って断られたことないんだよね。何? 女だから断ったの? 違うよね? だって女の子と付き合ってたんでしょ? じゃあ何が問題なの?」
「感情。私は橋野さんと付き合いたいと思えるほど、橋野さんの事を好いていないし、橋野さんも私の事を好いていない」
「ふーん。なんか、重いね。自分が告られた時は特に何も考えずに付き合ったくせに」
橋野さんを叩こうとしたのだろうか、白葉ちゃんが振りかぶった手は、橋野さんの頬に触れるギリギリで、遮った私の手に当たった。
「ご、ごめんいぶっちゃん」
「平気。あのね、橋野さんの言う通りだと思う。すごく軽率だった。その軽率で私はその子を傷つけた。幸せになるはずの恋愛で、深い傷を負わせたの。だからもう、失敗を、被害者を出したくない。私は橋野さんみたいに器用じゃないから人を傷つけるの。橋野さんも傷つけるかもしれない。だから私は、橋野さんと付き合わない」
「ふーん」
橋野さんは深く息を吸い込むと、大きな声を出した。その声に小夏はビクッとなり、より強く私に抱きつく。
「悔しい悔しい悔しい、悔しい! そんな真剣な振られ方された事ない! 悔しい! 悔しいから、絶対依吹ちゃんが付き合いたいと思うくらい惚れさせてやる! それで今度はわたしが雑に振ってやる!」
「え? あ、うん。が、頑張って?」
「じゃあ行くよドッジボール! もうすぐでしょ! 今イライラして仕方ないから今なら一人で優勝取れそう!」
その言葉通り、橋野さんの気合いと勢いは凄まじく、真剣というよりかは乱暴で、でも気迫が凄くて、咆哮を上げながらボールを投げてて、もうあいつ一人でいいじゃんと大澤さんが笑いながら呑気にしていた。
「橋野さん、お疲れ様。橋野さんのおかげで優勝できたね」
橋野さんに手を向けて声をかけると、かなり強めにその手を叩かれた後、そのまま握られた。
「あゆ」
「……?」
「橋野さんじゃなくて、あゆって呼んで」
「えっと、あゆ……ちゃん?」
そう答えると、橋野さんは手を離して、お疲れ様と一言告げて、いつもの三人の元に戻っていった。




