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感じない違和感

「やっほやっほー。あゆちゃんが良いの持ってきてやったぞー」


 すみちゃんは私達の方を見て目を見開いた。


「おいおい、俺らが一生懸命勝利に貢献していたってのに、なんだよこのカオスは」


 瀬野君達男子は面白おかしく、だけど少し呆れた感じだった。


「橋野がいぶっちゃん気に入っちゃったんだよ」

「いや〜、小夏が依吹ちゃん気に入る理由を実感してしまいまして〜」


 橋野さんは、まるで今までずっとその呼び方であったかのように、ナチュラルに私を藍川さんではなく依吹ちゃんと呼んだ。その呼び名の変化に周りも対して気にしていない。やっぱり、橋野さんは人の輪に入るのも入れるのも凄く上手い。


「あゆ、藍川さん困っているから離れよう」


 すみちゃんはそう言って橋野さんの肩に手を置く。


「そうだぞ! あゆっちは離れるんだ!」

「こなっちゃんだけは絶対言っちゃいけない言葉だよ」

「そうそう〜。それに、依吹ちゃんだって迷惑してないよ。ね」

「そうだね。抱きつかれるのは小夏で慣れているから」

「小森が二人に増えてたまるかよ。離れろ橋野」

「ぶー。女の子同士ハグするなんて珍しいことじゃないでしょ。ねー純蓮〜」


 橋野さんは私から離れて、すぐ近くにいたすみちゃんに抱きついた。すみちゃんも若干眉を顰めながらもほんの少し抱きしめ返していた。

 そして小夏はようやく自分のおもちゃを取り返したかのように、少し膨れっ面になりながら、私を話さないように後ろからガッツリ手を回している。


「面倒な人に好かれてしまったわね」

「真白も話せば分かるよ。あんなに受容深ければそりゃ小夏も気兼ねなく甘えるよ。見習え男子〜」

「悪いが、僕らは君らの保護者になる気はないのでね」

「ちょっと〜、あゆだけにしてよ。あたしらも巻き込まないでよ」

「何言ってるの〜。ここは一心同体でしょ。ね、純蓮」

「あ、ちょうど良いから私向こうで藍川さん達と騎馬戦の確認してくるね」


 すみちゃんが橋野さんの問いに特に何も答える事なく、私達を連れて抜けたので、橋野さんは周囲から見捨てられてやんの〜と揶揄われていた。


◇◆◇◆◇


「結局こなっちゃんが小さいからな〜。力でも押し負けそうだし」

「やっぱり動き回って背後取るのが最適だと思うの」

「あたしはそんな卑怯な戦い方嫌だぞ! 正々堂々前から戦って勝ち取るんだ!」

「たしかに、正々堂々と戦うのも小夏らしいと思うけど、私はね、躊躇せず誰かを助けにいくのも小夏らしいと思うんだ。押し負けそうな味方を助ける為に横から敵の帽子を取るっていうのも、かっこいいと私は思うよ」


 小夏は作った握り拳を顎につけ、考えてますアピールをした後、やる気に満ちた目で親指を立てた。

 そんな小夏を見て、白葉ちゃんは何も言わなかったけれど、私の肩を軽く叩いた。よくやったと言いたげだ。


「じゃあ、その作戦でいこうね」

「まかせろ!」

「頼りにしてるよ小夏ちゃん。──それで、藍川さん。さっきはあゆがごめんね」


 以前、白葉ちゃんに言われて意識してすみちゃんの笑顔を見るようになったけど、たしかに、今私に向けているすみちゃんの笑顔は、普段の私には向けない、不自然なほど完璧な笑顔だった。


「大丈夫だよ。特に何とも思っていないから」

「藍川さんは優しいね。でも、誰それ構わずその優しさを振り撒くのはあまり感心しないよ」

「えっ──」

「あゆは惚れっぽいから、ほどほどにしないと。女の子もいけるってなったら困るのは藍川さんだからね。──それじゃあ、騎馬戦頑張ろうね」


 すみちゃんは笑顔で手を振って、皆の元に戻っていった。


「いぶっちゃん」


 白葉ちゃんは怪訝そうな表情を向けていた。


「すっちゃんと何かあった?」

「ううん、何もないけど。どうかしたの?」

「いや、その、ちょっと、怖かったから」

「そうか? ニコニコしてて怖い感じしなかったぞ」

「私も小夏と同意見だけど」


 たしかに雰囲気は私と二人の時とは違ったけど、側から見る感じ、学校で過ごすすみちゃんの印象とそこまで激しい乖離はなかった。


「そのニコニコが怖かったんだけど……まあいいよ。説明難しいから。勘違いだと申し訳ないしね。それよりうちのクラス応援しにいこ。負け始めてるから」


 入雲さんは晴れない顔で先陣切って応援席に戻る。

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