あと一人
今日は体育祭の種目を決める日。各々やりたい種目に手を挙げて、ジャンケンして競っている。
「じゃあ次女子の騎馬戦ね〜。まあこれは男子同様全員強制参加だけど。四人一組作って〜」
「あたしらどうするいぶっちゃん。三人だから一人見つけないと」
「上はあたしが乗るぞー!」
「じゃあ小夏に任せるとして、まずはもう一人決めないとね」
「まあ、順当にいけば二人組の人が別れて入る感じになるんだろうけど、あたしあいつらは嫌なんだよね」
入雲さんが睨みつけた二人組は、以前トイレで小夏の陰口を言っていた子達だった。きっと当人達も気まずいだろうから、どうにかして避けるだろう。
「どうするんだー?」
「まあ、あそこの二人に打診するしかないでしょうね」
入雲さんが目を向けた二人組は、いつも漫画を持ち込んで談義をしている二人組だった。あまり目立つ感じの子達でなく、二人の世界を大切にしている感じがする。
「じゃーあたしが聞いてきてやる! ちょっといいかー!」
「あ、こら! もー馬鹿。小夏なんて一番あのタイプからしたら悪手でしょ」
「でも小夏、明るくて素直だから意外と平気かもよ」
入雲さんはため息ついて小夏を見る。
「その明るくて素直が、人によっては脅威なんだよ。自分達とは別世界の人が、急に親しげに自分達の世界に入り込んできた場合、取る行動は二つ。膠着か後退か。いぶっちゃんには分からない感覚だろうけどね」
小夏は戻ってくると首を横に振った。
「後退を選んだわけか」
「何がだ?」
「こっちの話。小夏が荒らした以上いぶっちゃんに行かせても意味ないだろうな〜。……いぶっちゃん、あそこの四人組から一人取ってこれない?」
入雲さんが指したのはすみちゃん達のグループだった。
「どうして私? 入雲さんの方が上手くいくと思うけど」
「あたしだと簡単にノー言われそうだから。その点いぶっちゃん相手だと、向こうも強く出られないからね」
「まあ、入雲さんがそう言ってくれるなら。聞いてみるね」
「じゃああたしも依吹っち手伝うぞ!」
「はーいこなっさんはあたしといましょうね」
「うぉ〜白葉っち離してくれ〜!」
「だめー」
私は談笑しているすみちゃん達に近づいた。
「あの、ちょっとごめんね。私達三人しか集まらなくて。訳あって他のところからも来てもらうことができなくて。本当に申し訳ないんだけど、よければ誰か私達と組んでくれないかな?」
すみちゃん達は話を止め、お互い顔を見合わせた。
「じゃあニ、ニで別れる? 三人組に追加で一人入る二人と、他の二人組と組むペアで」
「その一人枠って入るグループが依吹さんのところとあそこでしょ。あそこに入るのは気まずいのだけれど」
そう言って日南さんは、入雲さんが絶交したグループを指した。
「あゆ一番上手くできるでしょ。あんた行きなよ」
「え〜、あゆちゃんにだって選択権あるんですよ〜。それに、一番波風立てないのは純蓮でしょ。純蓮が入ればいいと思う」
「いや、私が藍川さん達と組むから、あとは三人で決めてね」
すみちゃんが立ち上がって、私の肩を押しながら、グループから離れる。
「あー、安牌取って逃げたー! 仕方ない、ジャンケンしよ。最初はグー──」
すみちゃんを連れてくると、入雲さんはでかしたと言い、早速フォーメーションの話に移った。
「上はこなっちゃんで決定でいいよね」
「おー!」
「大丈夫だよ」
「七木さんも異論はない?」
「うん。小森さんが適任だと思うから」
小夏は力強く胸を叩き、誇らしげに胸を張った。
「ふふん! この小夏にまかせろー! 全ての騎馬をあたしが壊滅させてやる!」
「小夏は頼もしいね」
「依吹っちが支えてくれるからな!」
そう言って小夏は私の背中に飛びつき、指を立て、腕を掲げた。
「この決して揺るがぬ背中が、小夏の名を知らしめるのだ!」
「んじゃまあそんなわけでいぶっちゃん先頭よろしく。あたしらは実際に騎馬作る時に、右と左どっちがしっくりくるか決めましょうか」
「そうだね。小森さんがしっかりと戦えるようにしないと」
「小夏でいいぞ」
小夏は私の頭に顎を乗せて、すみちゃんにそう言った。
「えっと、小夏──ちゃん」
「なんだ純蓮っち!」
「えっと、呼んでみただけだよ」
「じゃああたし純蓮っちの事呼ぶぞ! 純蓮っち!」
入雲さんは視線を小夏から私とすみちゃんに移して、頬を緩ませた。
「じゃああたしも白葉でいいよ。いぶっちゃんもね」
「じゃあ遠慮なく。白葉ちゃん」
そう呼ぶと、白葉ちゃんは少し照れくさそうに目を逸らした。
「あまりちゃん付けされる事なかったから照れる。あたし可愛げない性格だから」
「可愛げないんじゃなくて、大人な性格なんだと思うよ。白葉ちゃんいると落ち着くし」
「いぶっちゃんにだけは言われたくないな〜。でも、ありがと」
「えっと、じゃあ私は白葉って呼んだ方がいいかな?」
すみちゃんは恐る恐るといった感じで白葉ちゃんに聞いている。
「そっちの方が慣れてるから助かるかも」
「私も白葉ちゃん呼び辞めた方がいい?」
「いや、うーん、いぶっちゃんがそっちの方がいいなら別に」
「じゃあ白葉ちゃん呼びは現状私だけだったりするのかな。呼んだらすぐに私って気づいてもらえそうでなんだか嬉しい」
白葉ちゃんは胸に手を添えて目を見開いて私を見た後、首を振り、深呼吸をして、いつもの感じで私を見た。
「いぶっちゃんモテるでしょ」
「残念ながらまったく」
「どうせいぶっちゃんが気づいていないだけだろうね。罪深い女だよいぶっちゃんは。ね、すみっちゃ──みっちゃ──すっちゃん。うん、すっちゃん。しっくりくる。すっちゃんもそう思わない?」
すみちゃんは私を見て目を細め、一旦瞑った後、笑顔で白葉ちゃんの方を見た。
「それが藍川さんだと思うから」




