補強
翌日、入雲さんは髪をホワイトブロンドに染め、茶色の目がより一層映える格好で登校した。
「おはよう入雲さん。随分と変わったね。とても似合うよ」
「ありがと。フリーになったことだし、好きな事しようと思って」
「そっか。自分の好きを出せるのが一番だと思うよ」
「いぶっちゃんは優しいね〜」
入雲さんはそう言って私の頭を撫でる。
「おはよー依吹っち──って、ああ! ずるいぞ白葉っち! 依吹っち、あたしを撫でろー!」
「はいおいでー」
両手を広げ、胸を晒すとそこに小夏は飛び込んでくる。
「おはよう小夏」
「へへ〜」
小夏を撫でると、猫が喉を鳴らすように、声の混じった息が漏れる。
「いぶっちゃんはこなっちゃんの事、面倒とかうざいとか思ったりしないの?」
「ぬっ! 酷いな白葉っち! あたしだって依吹っち以外にはここまでしないぞ!」
「それは知ってるよ。でもいぶっちゃんのことはあまり知らないから」
「私は別にそんな事思わないよ。可愛げがあって良いと思うし」
「我慢してるわけじゃなく?」
「してないよ。全く」
「奇特な人だね。あたしは───」
入雲さんは小夏の耳を塞いで、皺を寄せて振り向いた小夏に笑顔を向ける。
「逃げたから。だから、いぶっちゃんは逃げないであげて」
「うん、逃げないよ」
「ありがと」
入雲さんは小夏の耳から手を離し、ポケットに突っ込む。
「何喋ったんだ白葉っち?」
「こなっちゃんの悪口」
「なっ⁉︎ 依吹っちに変な事吹き込まないでくれ! 嫌われたらどうするんだ!」
「大丈夫、嫌わないって言ってたから。ね」
入雲さんは私に向けてウインクをした。
「うん、嫌わないよ。私はそのままの小夏が好きだから」
「私も依吹っち好きだー!」
小夏がより強く私を抱きしめると、入雲さんが小夏をくすぐり、ホームルームのチャイムが鳴ると同時に席まで連れて行った。
◇◆◇◆◇
体育の授業。バレーの練習をする為、先生に二人組を作るように言われた。私のクラスでは、奇数の仲良しグループは二つ。私達と、入雲さんが絶交した人達のグループ。隣のクラスはあまり関わったことがないから分からない。小夏達もどれくらい交流を広げているのか、正直分からない。
「あたしの事は気にしないで。普段通りいぶっちゃんとこなっちゃんで組みなよ」
そう入雲さんは言ったけど、入雲さんが人を殴ったっていう噂が広まっている以上、快く入雲さんと組もうと思う人は少ない。
すみちゃんなら、事情を察して私と組んでくれるはずだから、すみちゃんと組む予定だった人には申し訳ないけれど、ここは小夏と入雲さんが組むのが最適だ。
「いや、ここは二人で──」
「あたしが別の人と組むから平気だ! ──おーい! 誰か一緒に組もー!」
小夏はそう言って、人の輪に入っていき、あっさりとペアを決めていた。
「じゃあ、一緒にやろうかいぶっちゃん」
「うん。よろしくお願いします」
まずは一対一でレシーブとトスの練習をする。
入雲さんは結構運動できる方なのか、安定した軌道をしているが、時折手首にボールをぶつけて痛がっている。
「いぶっちゃん、ボール飛んでくるよ!」
「え?」
他のペアから飛んできたボールが真っ直ぐ私の顔目掛けて落ちてきたので、一旦ヘディングで顔面キャッチを回避した後、上に上がったボールを受け取った。
「おお〜」
入雲さんは拍手をして感嘆の声を漏らしている。
「教えてくれてありがとう、入雲さん」
「どういたしまして」
飛ばした人が来たようなので、彼女にボールを返す。
「ご、ごめんねいぶ」
「大丈夫だよ、わざとじゃないもん。また飛ばしても気にしないで。ちゃんと取るから」
「ありがとう」
すみちゃんは一礼をした後、橋野さんのところに戻っていった。
◇◆◇◆◇
スパイクの練習をした後は、近くのペア五組で組んで、試合をする事になった。
「白葉っち頑張ろうな!」
「うん。橋野さん、期待してる」
「この橋野あゆにまっかせなさ〜い。まあ、あっちのチーム純蓮が機能しないから割と楽勝楽勝」
「ひ、酷いよ!」
「あまり純連を揶揄わないの」
向こうのチームの楽しそうな会話に、すみちゃんはネット越しに参戦していた。
その様子を位置について見ていると、前に大澤さんが来て、両肩に手を置いた。
「藍川、向こうはバレー部の橋野がいるのにこっちはバレー部がいないどころか純蓮がいる。このチームが勝つにはいかに純蓮にボールを渡さないかが重要だってことを忘れないように」
「え、あ──」
どうやら大澤さんは一人一人に言い回っているよう。大澤さんの圧に萎縮している子もいる。
笛が鳴り、試合が始まる。橋野さんはバレー部、入雲さんは運動ができる、小夏は特段優れているとかはないけれど、とにかく動くので、離れたボールもしっかり拾う。が、時折軌道がおかしくなったりしている。日南さんはちょっと苦手っぽい。
とにかく、橋野さん以外のミスを誘発して点数を取るような感じになっていたが、それは逆に言えば、こちらが普通のプレーで点数を取れた事はないということ。
気迫は素晴らしい大澤さんのスパイクも、橋野さんからしたら赤子の手を捻るようなものらしく、軽くレシーブを受けている。
そして、向こうは明確にすみちゃんを狙い始めた。腕を伸ばしてボールを受け止めようとするが、ギリギリで手を引っ込めてしまうか、受けても変なところに飛んでいってしまうかの二択だった。当たりどころが悪いのか、よく手首を摩っている。
それが続いてボールに対して消極的になっている。
再びすみちゃん目掛けて飛んできたボール。それを、私が片手でレシーブし、高くボールを上げる。
「大丈夫だよ七木さん。できることをやろう。七木さんの代わりに私がボールを受け止めるから、七木さんがトスを上げて次に繋げて」
真っ直ぐ落ちてきたボールをすみちゃんはどうにか受け止めて、ネットギリギリの高さまで上げたのを、大澤さんがアタックし、初めて普通のプレーで一点取れた。
そして、試合が終わった。
「あー負けた負けた。まあ流石にあゆいたらきついか〜」
「ごめん、運動音痴で」
「でも純蓮の最後のへなちょこトスのおかげで一点取れたから。藍川もナイスレシーブ」
「ありがとう」
大澤さんが手のひらを見せたので、その手を軽く叩いてハイタッチした。
「へいへい藍川さ〜ん、バレー部に来やせんか〜?」
「えん──」
「ダメだぞー! 依吹っちをそんな忙しい部活には入れん!」
「わーん、本人じゃなくて子どもに拒否られた〜」
「そんなこと言ってる暇あったらさっさと片付けるわよ」
片付けが終わり、今日の体育は終わった。
「藍川さん、今日はありがとう。初めて体育で役に立てた」
着替えの後、すみちゃんはそれだけ言って、日南さんの横に並んだ。
「七木さんってあんな風に笑うんだね」
横にいた入雲さんは意外と言いたげだった。
「意外な笑顔だった?」
「だって七木さん、笑顔の時はもっとちゃんとしてるイメージだったから。いぶっちゃんの時はなんというか、ぎこちなかった」
他から見るとそう見えるんだ。昔からすみちゃんは色んな笑顔を見せていたから、あまりここでの笑顔とか意識したことなかった。




