新天地
夏休みが明けた。まだ暑さが現役の中、日傘を差して登校する。
久しぶりの登校で、クラスでは前より挨拶や話し声が響いている。と、思ったけど、実際はかなりしんとしていた。
「いぶっちゃん」
夏休みが終わったからか、暗い声が後ろから聞こえたので振り返る。
「入雲さん、おは──」
言葉が詰まった。明らかに転んだとかでは誤魔化せないくらい腫れた頬に加えて目が充血していた。
「ど、どうしたの入雲さん、大丈夫?」
「結構痛い。それでねいぶっちゃん。これからいぶっちゃん達と一緒にいていい?」
「いいけど、喧嘩でも──」
「絶交」
私が言い終える前に入雲さんが暗く、強く、一言発した。
踏み込んでいいのか悪いのか、分からなかったから、とりあえず私は入雲さんを保健室まで連れて行くことにした。
「大丈夫か依吹っちー!」
小夏がそう声を上げて、勢いよく保健室のドアを開けた。
「保健室では静かにね」
「はい! すみません!」
保健室の先生に注意された小夏は、変わらぬ声量でそう口にし、私達に近寄ってきた。
「白葉っちじゃないか。白葉っちが怪我したのか? 大丈夫か? 痛そうだな」
頬に氷を当てている入雲さんの顔を小夏は隣に座って覗き込む。
「痛いよ結構。爪立てられたし」
「何があったんだ?」
入雲さんは不愉快そうに表情を歪ませ、憎しみのこもった声を出した。
「浮気されたの。しかも相手があざみ。他二人も知ってた。浮気されてるの気づかない私をずっと笑い者にしてたんだよ。だから、殴った。鳩尾殴った。そしたらあざみが爪立てて叩いてきたんだよ」
「酷いな! 白葉っち彼氏の好みに合わせるのに必死だったのに!」
「入雲さんもつい手を出しちゃうくらいだもんね。辛かったよね」
私の言葉に小夏は速く首を振った。
「違うぞ! 白葉っちは意外とすぐ手が出る方だぞ! 今までは我慢していた方だと思うぞ!」
いやまさかと思いつつも、だからあの時トイレのドア蹴ったのかと納得もあった。
「可哀想に白葉っち、あたしが文句言ってきてやろうか?」
小夏に頭を抱えられて撫でられている入雲さんは、小夏を手の甲で押して離れさせた後立ち上がる。
「いいよ、必要ない。もう関わりたくないもん。それに、あんなに大騒ぎしたから、向こうも今頃気まずいでしょうね」
入雲さんの言う通り、今回の件は既にクラスで広がっているみたいだった。だから朝来た時皆異様に雰囲気が暗かったのだと納得した。
「入雲大変だったね〜。まあ、まだまだこれからだよ。良かったじゃん、高一で別れられて」
「そうそう。他にも男はいっぱいいるよ」
周囲が入雲さんに遠慮して何も言えない中、すみちゃんと同じグループの橋野さんと大澤さんはなんてことないように話しかけていた。
そんな二人の肩を押しながら、同じグループで、すみちゃんと特に仲の良い日南さんが割って入ってきた。
「傷心中の入雲さんに余計なこと言わないの」
「いや〜それが結構平気でさ。浮気問い詰めたら往生際悪くてさ、結構手出ちゃったら泣いて逃げて冷めた」
「それは冷めるわ〜。あ、純蓮〜!」
橋野さんは戻ってきたすみちゃんを手を上げて呼んだ。
「どうしたの?」
すみちゃんは入雲さんの側に私がいるのを見ると、目を若干伏せた。
「純蓮の彼氏はどうなの? 浮気するような人じゃない?」
すみちゃんは目線だけ私に送ると、すぐに逸らして笑顔を作った。
「大丈夫、しないよ」
「断言できるとかラブラブじゃん」
「実態は逆だけどね」
すみちゃんがそう言うと、場の空気が少し停滞した。それでもすみちゃんだけは変わらず笑顔だった。
きっと、小夏が今起きていれば、ここまでの空気になることはなかったのだろうし、おそらくすみちゃんも作らなかったと思う。
「え、何? 業が深い系?」
「さあ、どうだろうね。気持ちが噛み合ってない系かな。入雲さん、次はきっと、良い人に出会えるよ」
すみちゃんはそう言って、三人を連れて自分の席に戻った。




