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藍川依吹①

 私は幼い頃から王子様に憧れていた。

 テレビ番組でも、絵本でも、お姫様より王子様になりたいとずっと思っていた。

 暴力に頼らず、人を蔑まず、誰に対しても平等に優しく手を差し伸べ、いるだけで人々の救いになる王子様に。


 町中で見た王子様のような服に惹かれ、ママを引き止めたのをよく覚えている。


「これは男の子用だよ」


 ママはそう言って、こっちにしようとワンピースを差し出したが、頑なに首を横に振って、これが良いと駄々をこねた。

 その時のママの心境がどうだったかは分からない。それでも、そんなに欲しいならと買ってくれて、男の服着てると私を馬鹿にしてきた兄を叱っていた。


 幼稚園の頃にはそれなりに女の子っぽい服やカジュアルな服もあったが、私がそういう服を着なくなり、両親も毎度買う服が私の好みに合わせてフォーマルになっていったことにより、小学生に上がる頃には完全に普段着と呼べる服が一着も無くなっていた。

 後に、両親は式典の服に困らなくて助かったと笑いながら語っていた。


◇◆◇◆◇


 パパと兄とランドセルを買いに行った時、真っ先に私が黒のランドセルに手を伸ばしたのを見て、パパがこっちの方がオシャレじゃないかと、茶色のランドセルを見せてきた。

 パパとしては、娘が完全に男児にしか見えなくなるのを避けたくて、私が妥協できそうな色を差し出したのだろう。


「でも、黒のがかっこいいよ」

「でも茶色も気品があってオシャレだろ」

「気品……?」

「王子様っぽいってことだよ」

「王子様……⁉︎」


 その単語に反応し、心が揺れた。


「そんなに黒がいいなら俺のランドセル使えよ。俺が茶色使うから」


 私はその言葉を聞いて、パパが持つランドセルを抱きしめた。


「にいのボロボロだから嫌。これがいい」

「ちぇー。俺も新品のランドセルがいい」

奏多かなたはランドセル使うのあと一年だろ。必要ない。依吹、ランドセルをレジのお姉さんに渡しにいこうな」

「うん」


 黒がいいと思っていたけれど、自分のランドセルになった瞬間愛着が湧いて、小学生に上がるまでは、どこに行くにもランドセルを背負っていこうとしていた。


 だから、小学生に上がった時は本当に嬉しかった。

 今までより少し大人に、少しかっこよく、少し王子様に近づけた気がしたから。


 そんな誇らしい日である入学式の帰り、私はすみちゃんにこの時初めて出会った。


 二つある校門からさらに枝分かれた帰宅道、私と同じ小学一年生は誰もいないと思っていた矢先、曲がり道から現れたのがすみちゃんだった。

 両親が互いに挨拶を始め、子供である私達も、まるで以前からの知り合いかのように、何の緊張もなく話し始め、その日のうちにすみちゃんの家で遊んだ。


「すみちゃん、また明日!」

「うん。またね、いぶ君」


 すみちゃんの方を見て手を大きく振りながら、足だけ両親の方に向かわせてすみちゃんと別れた。


「お友達できてよかったね、依吹」

「うん! 同じクラスだといいな〜」

「そしたら楽しい学校生活になるな」

「うん!」


 まだ日が落ち切っていない空を見上げながら、その日は流れ星が落ちてこないかと待ち侘びながら帰った。

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