小夏と海
夏休みもそろそろ後半戦に入る。今日は小夏と以前買った水着を持って、海に行く。
「依吹っちー!」
前から走ってきた小夏が飛びついてきたので、一歩前に出て抱き止める。
「依吹っちー! 久しぶりだなー!」
「そうだね。一昨日も一緒に遊園地行ったけど」
冷房の効いた車内に乗り込み、海まで目指す。
「依吹っち、あたしなー、下に水着着てきたんだぞ」
「私もだよ。ところで小夏、ちゃんとパンツは持ってきていますか?」
小夏はゆっくりと真顔になり、ゆっくりと眉間に皺を作っていく。
「ど、どうしよう依吹っち。あたしスカートノーパンになっちゃうぞ」
私は小夏の頭に手を置き、電光掲示板に目を向ける。
「一旦次の駅で降りようか。服屋行ってから海行こう」
流石に友人のパンツを見るわけにもいかないので、駄々をこねられながらも一人で買いに行ってもらい、途中飲み物をテイクアウトで買ってから、再び海へと向かった。
「ついたぞー!」
小夏は海を背景に、握り拳を作った両手を目一杯空に高々と上げて、全身で陽光と潮風を感じている。
「綺麗だね」
「真っ青だ!」
「うん。太陽が反射して眩しいくらい。それじゃあ小夏、更衣室行こうか」
「おー!」
服を脱いで水着だけになる。行く前にも塗ったが、念の為ここでも日焼け止めを塗り直した後、ラッシュガードとパレオを巻く。
防水ケースに入れたスマホを首から下げて、小夏と共に外に出る。
「依吹っち行くぞー!」
小夏はビーサンを履いたまま、海に飛び込んでいった。
そしてすぐに目を押さえながら戻ってきた。
「依吹っち〜目が痛い〜」
「ゴーグルつけないとね。小夏の分も持ってきてるよ」
小夏の目を水で洗った後、レンタルしたビーチパラソルを持って一度拠点となる場所を決め、レジャーシートを敷き、そこで各々最悪取られてもいい荷物を置いて、準備を万全にしてから海に入る。
「遊ぶぞー!」
小夏は海に顔をつけ、カニを手にして起き上がった。
「見ろ依吹っち! カニだ!」
「ほんとだ。ちっちゃいのによく見つけたね」
「すごいだろ!」
「うん。でも、クラゲには触らないように気をつけてね。クラゲがいたら離れよう」
「分かった!」
私は小夏の横を立って移動する。
「小夏」
私は海に夢中になっている小夏の肩を叩く。
「どうした!」
「あまり奥に行きすぎると波にさらわれちゃうから、これ以上行くのはやめよう」
小夏は少し斜め上を見た後、水に足を持ってかれながら私の身体を浜辺の方に押した。
「早く戻ろう。死んじゃうぞ!」
私達は浜辺に上がり、タオルを羽織って海の家で各々食べたいものを買って座って食べる。
「焼きそばも美味しそうだな〜」
「食べる?」
「いいのか⁉︎」
「いいよ」
箸で焼きそばを取り、開いた小夏の口に焼きそばを入れる。
「美味しい?」
「美味だ!」
小夏は親指を立てて目を輝かせた。
「お礼にたこ焼きやる」
小夏がたこ焼きを一個取って私に向けてきたので、そのたこ焼きを口に入れる。
「熱っ。でも、美味しい」
「海だとより一層美味しくなるな」
「そうだね」
ご飯を食べた後は二人でレジャーシートの上で横になって少しゴロゴロし、日焼け止めを塗り直した後ビーチボールを膨らまして、小夏と二人で海で投げ合って遊んだり、浮き輪を借りて波に揺られたりして遊んだ。
「日も暮れてきたしそろそろ帰ろうか」
「そうだな〜」
小夏はすっかり眠くなったのか、来た時の元気はもうあまり残ってなく、電車で座った瞬間眠ってしまった。
電車の揺れで徐々に私の肩によりかかっていく。
あと三十分はこの電車に乗る。
夜寝られるといいけど。──小夏の寝顔を見ながらそう思う。
「あれ? 藍川と小森じゃん」
「おーほんとだ。よっ。と、小森は爆睡か」
顔を上げると瀬野君と中原君がプールバックの手提げを握った手を肩に乗せるようにして持っていた。
「瀬野君と中原君。久しぶりだね。プール行ってきたの?」
「そーそー、瀬野がどうしても行きたいって言ってな」
「どうしてもなんて一言も言ってないがな。二人もか?」
「私達は海に行ってきたの」
「海か〜。海も良かったな」
「綺麗だったよ」
二人は丁度二席空いたので、瀬野君が隣に来る形で座った。
「そうだ、藍川プール行く予定あるか?」
「小夏に誘われたら行くかな」
「まあ小森のことだし誘うだろ。これ、今日クーポン貰ったんだけどいるか?」
瀬野君は五百円クーポンを二枚出した。
「お前それ今度バーベキューする時に誰かしらにあげるとか言ってなかったか?」
「別に誰にあげるか決まってなかったし、藍川でも別にいいかなって」
「まーな。──そうだ、藍川もバーベキュー来るか? 小森誘って。いつものクラスのメンツでやるんだけど」
クラスの……てことは、すみちゃんもいるのかな。夏休みも遊ぶくらい仲を深めているようで何より。
「お誘いは嬉しいけど、私は遠慮しておくよ。小夏はまた個別に聞いてあげて」
「別に遠慮する必要ないけど。藍川と小森ならあいつらも歓迎するだろ」
「そーそー」
「でも、気の利いたこと言えなくて空気悪くするかも」
「そんな事考えなくても。俺らだって別に楽しくしようと思って話してないし。ただ適当に話してるだけで、何も考えてないからな。何喋ったのか、聞いたのかすら覚えてない。それでもなんか盛り上がってるだけで、側から見たらくだらないことで馬鹿騒ぎしている奴の集まりだよ」
「瀬野なんて今日朝俺が言ったことすら覚えてなかったんだぞ。酷いよな〜」
中原君は少々芝居がかりながら瀬野君に寄りかかった。
「どうせくだらないことだからな」
そんな中原君を瀬野君は鬱陶しいと言わんばかりに押しのけている。
「まあそんなわけで、空気とか気にせず藍川も来いよ。そもそも藍川が空気ぶち壊すとか俺ら思ってねーし。そういう奴には最初から声かけねーから」
「でも──」
言葉に出そうになって、それを飲み込んだ。
「やっぱり今回はやめとくよ。また今度誘って」
「そっか。残念だったな瀬野」
「はぁ⁉︎ なんで俺が残念なんだよ!」
「またまた〜。じゃ、俺らここで降りるから。またな藍川、学校で会おうな」
「じゃあな藍川──と、ほい、クーポン」
「ありがとう。また学校でね」
一気に静かになったことにより、さっきよりも鮮明に小夏の寝息が聞こえる気がする。
私はほんの少し、小夏に頭を寄せる。
「……行きたかったな、バーベキュー」




