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事前報告

 進路相談の日も迫ってきたので、そろそろ宇河さんの件について話さなければならなくなった。


「ママ、進路相談に来るのってママだよね?」

「そうだよ。パパが良かった?」

「パパが良いのかい〜?」


 飲んでいたお酒を置いて、ヘラヘラした顔を浮かべながら、まいったな〜と言いたげにしている。


「いや、どっちでもいいんだけど。その、進路相談前にママに言っておかないといけないことがあって」

「何? テストの結果悪かった? そしたら次頑張りなさい」

「そうじゃなくて」


 少し言葉が詰まる。躊躇いが生まれる。いじめられている。その一言があまりにも重くて。これなら沙雪さんと付き合っていると言う方がかなり気楽になる。でも、ここの順序を間違えると余計混乱を招く。

 静かにじっとこちらを見ているママを見ると、鼓動が激しくなる。悲しませる。それが分かっているから、胸に罪悪感が広がっていく。


「あの、ね、私、宇河さんって人に色々嫌なことを言われていて、それでその、いじめられているというか……」


 リビングが一気に静まり返る。ママの姿勢が正されて、お酒を嗜んでいたパパの手が止まって、ソファで寝そべりながらスマホをいじっていた兄がそっとスマホを胸に置いた。

 ただ、テレビの抑揚ある音だけが無機質に響いている。

 この状況に追い詰められていく感覚に陥っていく。

 安心させないと。その思いだけで口を動かす。


「でもね、友達が庇ってくれていて」


 この言葉は一際大きく、一際響いて、私自身次の言葉を紡ぐ為のエールでもあった。


「ただその、そのせいもあって、その友達の行動が宇河さんへのいじめに繋がっているとか、そういうことになって……。一応今はお互い干渉しないってことにはなっているんだけど、でもそうなると宇河さん孤立しちゃうから先生も困っててって感じで。宇河さん的には、私の友達と仲良くしたいらしくて、でも私は邪魔で、それが私へのいじめに繋がったというか……ごめんね」


 防衛反応からか、私は思わず笑みが溢れた。少しでもこの場を明るくして、この重い雰囲気をどうにかしようと。


「依吹が謝ることじゃない。依吹は何も悪くない。依吹が困っていることはよく分かったから、ママに任せなさい」


 その言葉を聞いて、大して息を吸っていないのに、吐き出される息がとても長い。詰まっていた分が出ていっている。


「ありがとう、ママ。あのね、友達を守る手伝いをしてほしい。私と皆を助けて」

「うん、分かった」

「ママだけじゃなくパパもいるからな」

「ありがとうパパ。あとね、もう一つ言わないといけないことがあって、その、夏休みに入るまでって期限付きなんだけど、色々あってその、庇ってくれた友達の一人で日南沙雪さんって人と今付き合ってて」


 話の落差からか、ママは息を吐くようにほうと零した。


「その、宇河さんと私達、お互い干渉しないって条件を先生に飲ませたくて、そのことを引き合いに出したの。だからその、もしかしたら先生がそのこと言うかもだから把握しといて」

「あーうん、えーっと、女の子……?」

「うん。先生は期限付きってことは知らないから、そこは隠しておいて。あ、あと、私がすみちゃんと幼馴染っていうのも隠しといてほしいの。一時期付き合う友達のタイプが違って、離れてたことあって。そのまま高校上がっちゃって、高校で会って仲良くなった前提でいるから、とにかく皆混乱しちゃうから、どうか、その点は隠しといて」

「ママよく分からないから、とりあえず余計なことは言わなければいいのね」

「うん、お願い」

「把握はしたから安心しなさい。依吹、言いにくいだろうに、言ってくれてありがとうね。最後に今回の事に巻き込まれている友達のことだけ教えて。そしたら部屋行っていいから」


 ママにざっと皆のことを説明した後、部屋に戻ってベッドに寝っ転がる。

 多分パパと相談したいから私を部屋に行かせたんだろうなっていうのが容易に想像できる。


 皆に親に教えた報告をしていると、勝手にドアが開けられ、兄が入ってきて、勉強机の椅子に座った。


「お前いじめられたのか」

「そうだよ」

「いじめられたら兄ちゃんに言えって言ったろ」

「兄に言ったところで何もできないでしょ」

「情けねーと笑ってやることはできたさ」


 そういう兄の顔に笑みはなく、呆れもなく、ただほんの少し眉間に皺を作っていた。


「なら尚更言わないよ」

「そうかよ。てかお前女と付き合っているのか」

「色々面倒な事になって、とりあえず付き合うのが最適解だったの」

「まあお前昔から男より女の方にモテてたから違和感ねーけどな。父さんと母さんもどうせやっぱりなしか思ってねーよ。お前が孫見せねー親不孝者な分、俺が可愛い息子と娘見せて親孝行してやらねーと」


 兄は若干煽るようにやれやれと笑って、若干親孝行息子というレッテルに酔っているらしい。

 相手もいないくせに何言ってるんだこの兄は。


「何が言いたいの? 馬鹿にしたいの? そもそも好き同士じゃないってば」

「そんなことどうでもいい。お前の彼女見せてみろ」


 ほれ。と、ずっと寄越せと手を動かしているので、仕方なくこの前行った展望台の写真を見せる。


「純蓮ちゃんとこのちっちぇーのは知ってるな。お前と違って礼儀正しくて可愛げがあったな。それにしても最近のJKは皆こんな顔良いのか? 俺が高校生の時こんな可愛い子クラスに一人いるかいないかだぞ。お前周りがこんな可愛いならもっと着飾れよ。地味だな」

「うるさいな。そもそも兄は他の人のことも見てるよ。去年家に遊びに来てたでしょ」

「JKが大量にいたのは覚えてるけど一々顔なんて見ねーよ。で、お前の彼女どれだ? ちっちぇーのか?」

「この人」


 沙雪さんの顔を指すと、兄ははぁー⁉︎ と大声を出した。


「おま、ふざけるな! 俺が彼女に振られている間にお前はこんな綺麗な子と付き合ってるっていうのか⁉︎ 理不尽だろ!」

「知らないよ。じゃあ誰と付き合ってたら良かったわけ?」

「どの子と付き合ってても許さねー! 男と付き合ってても許さねー!」

「そんなんだから振られるんだよ」

「なわけねーだろ! 俺は女には尽くすタイプだからな!」

「じゃあ私にも尽くしてよ」

「お前は女じゃねーから」

「そんなこと皆の前で言ったら兄ボロクソに言われるよ」

「これくらい顔良ければそれもありだな。飲みの良いネタになる」


 我が兄ながら発想が気持ち悪くてドン引く。

 ママとパパが聞いていたら説教ものだ。


「てかこの子ちょー見たことあるんだよな」


 そう言って兄はあゆちゃんの顔を拡大する。


「交流広い子だから誰かしらの知り合いなんじゃない?」

「ああ〜思い出した。この子俺の後輩が中学の時に付き合ってた元カノとか言ってたわ。なんかすぐ振るので有名なんだろ? 交際人数三桁言ってんじゃねーかとか言われてたな」


 交際人数三桁を否定したいけどあゆちゃんしょっちゅう色んな人と付き合ってたらしいから否定できないのもなんか悔しい。

 え、てか三桁いくことあるの? そりゃ高校だけでも二桁はいってただろうけど……。


「今はそんなことないよ。本気で好きな人見つけたらしいし」

「それお前か?」

「さあね」


 兄は私を枕で殴るとクソタラシ野郎と怒って部屋を出ていった。


「野郎じゃないもん」

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