班決め
テストも無事終わり、夏休みまで残り一週間。今日は九月に行われる修学旅行の班決めが行われる。
「行動班は男女合わせて五人。部屋班は男女でフロア分かれてるけど、組み合わせは同じで五人部屋と四人部屋が二つずつ、二人部屋が一つ。五人部屋は一人エキストラベッドになるからそこは承知の上ってことで。部屋班は決まったら男子は武田、女子はあたし入雲に言って。行動班はどっちでもいい。じゃあ決めていいよ」
白葉ちゃんと武田君が教壇から少し動くと同時に、皆も立って歩き始めた。
「とりあえず部屋班はあたしらで五人部屋と二人部屋埋めるよ」
「なんでだ?」
「宇河が入る隙与えない為だよ。今は接触禁止出てるけど、穴あったら宇河が入り込もうとするでしょ」
「はいはーい! じゃあわたし依吹ちゃんと二人部屋!」
私の頭に体重をかけながら、あゆちゃんは手を前に上げてアピールする。
「あゆと二人じゃ藍川さん落ち着かないでしょ。だったら私が藍川さんと二人部屋になるよ」
すみちゃんはわたしに抱きついているあゆちゃんを、さりげなく肘で退かそうとしている。
「あたしも依吹っちと同じ部屋がいいぞ!」
膝に座っている小夏が、顎を突き出して後ろにいる二人をしっかり見据えている。
「残念だけど、いぶっちゃんは問答無用で五人部屋だよ」
「え〜なんで〜」
「五人部屋の方にいぶっちゃん入れとかないと宇河が入り込もうとするでしょ。いぶっちゃんいれば、先生巻き込んで同じ部屋にならないようにできるし。あといぶっちゃん二人部屋だと永遠と決まらなさそうだし」
そう言いながら、白葉ちゃんは真っ先に五人部屋の方に私の名前が書かれているのを見せる。
「白葉ちゃん、絶対もらった瞬間に書いたでしょう」
「まあね。利用させてもらいますよ」
「まあそういうことなら仕方ないな〜じゃあわたし五人部屋ね」
「あたしも!」
「じゃあ私も五人部屋で」
「じゃあ日南と大澤二人部屋ね」
静観していた大澤さんが、ひょいと白葉ちゃんから紙を取った。
「名前書くの早いよ。なんでうちが沙雪と二人部屋なの」
「その言い方は引っかかるわね。なら私もなぜ大澤と二人部屋なのかと言わせてもらうわ」
「いや、いいじゃん別に。二人は誰と一緒がいいとか拘りないんでしょ?」
「たしかにないけどさ」
「余り物同士を組ませたみたいで不快ね。ならあなたが大澤と組みなさい。私が五人部屋にいくわ」
沙雪さんがそう口にして、思わず私とすみちゃんの顔が引き攣った。
あの朝を三回も体感しないといけないのかと……。絶対に阻止したい。だから大澤さんには悪いけど、白葉ちゃんに助け舟を出す。
「別に余り物同士とかじゃなくて、相性考えてだから大澤さんと沙雪さんで二人部屋でいいんじゃないかな」
「それなら大澤と白葉さんで組んでも問題ないわよね。仲悪いとかでもないのだし。そもそも私は今依吹と付き合っているのよ。同じ部屋でないとおかしいわ」
「でも二人夏休みで別れる設定なんでしょ。それに合わせてまた訂正とか嫌だよ。あたしの負担も考えて」
「友美奈は沙雪と一緒嫌なの?」
「嫌ではないけど、なぜか碌なことにならないだろうな感はひしひしと伝わってくるから」
ある種大澤さんの第六感が働いているんだろうな。もしくは、さっきの私とすみちゃんの反応で何かを感じ取ったのか。どちらにしろ、その勘は正しい。
「まあ、小森も入雲がいた方が躾けられるだろうし、いいよ。あゆも純蓮も譲らないんでしょ。相性考えてなら沙雪と組むよ」
流石は大澤さん。無難に収めてくれてありがたい。
「あたしはペットじゃないぞ! 躾とは失礼だ!」
「常に藍川にベッタリなわんこが何言っているんだか……」
「うぅ〜犬って言われたぞ〜」
わざとらしく泣きつく小夏をそっと撫でる。それを見て大澤さんが、犬は甘やかしすぎると我儘になるよと言ってくる。
「じゃあ次行動班ね」
「わたし依吹ちゃんと組む!」
「あたしも依吹っちと組む!」
はいはいと言いかけた白葉ちゃんが咳払いをした。視線の先は少し上。小夏やあゆちゃん、私よりかは高く、立っている大澤さんや沙雪さんよりかは低い。
どうやらまたすみちゃんが白葉ちゃんに圧を掛けているよう……。
「いや、あ、あたしもいぶっちゃんと一緒がいいかな〜って……」
すみちゃんは関係の秘匿上、公に私と組みたいとは言えないから、こうしてチャンスを無理やり作らせているのだろう。なんとも恐ろしく愛の深いお方だ。
「え〜じゃあ行動班どうするの? そもそも男女じゃないとダメなわけ?」
「何かあった時に女子だけじゃ危ないかららしいよ。委員会でそう言われた」
「女子だけでお出かけなんて普通にするのに〜」
「学校行事だからでしょ」
あゆちゃんはむーと不満気に声を漏らして、私の肩に置いていた手を話して、首に抱きつく。
「あーあ、私立のくせに海外じゃないどころか今年は北海道でも沖縄でもなく関西だし。ちょっとくらい緩くしてくれてもいいのに〜」
「海外行きたいなら研修プログラムに申し込めば良かったじゃない」
「長期休みで行くなら普通に家族で行くもーん」
「いいから、行動班どうする? 逆にいぶっちゃんは誰と組みたい?」
「えっ、私〜? 正直ここにいる皆となら誰と組んでもいいんだけどね……」
そりゃ正直に言えばせっかくだしすみちゃんと回りたいよ。でもそんなこと言えるはずもないし、誰と組むと言っても角が立ちそうだからこう言うしかない。
「よっすー。お前らもう班決まったか? まあどっちでもいいんだけど、藍川俺らと組まない?」
瀬野君と五十嵐君が揃ってやって来て、そう声を掛ける。
「うっわ〜、瀬野いつまで依吹ちゃんに執着するつもり? 振られたんだからさっさと次行きなよ」
「うっせーよ! ちゃんと諦めてるわ! 橋野だって振られたんだからさっさと諦めろよ」
「依吹ちゃんより良い人いたら諦めてあげるよーだ。そもそもわたしは、依吹ちゃん直々に好きでいてもらっていいって言われてるもんね〜」
「藍川、あんま橋野甘やかしちゃダメだぞ」
「好きでいてもらうくらいならいいかなって」
泣かれたのもあって、諦めてねとは言えなかったし……。あれはある種、私の罪悪感を軽減する為の卑怯な言葉なんだよね。
「ほーら、依吹ちゃんもこう言ってるじゃん」
瀬野君とあゆちゃんの一触即発の空気を、五十嵐君のまあまあで緩和させる。
「藍川さんと組もうと言ったの僕なんだ。宇河がすごい僕と組もうとしてきてね。利用させてもらうみたいで悪いけど、一緒に組んでもらえないかな」
「そういうことなら全然いいよ。でも私達まだ行動班は決まってなくて」
「ここにいる人達でしょ。なら皆の事知ってるから別に問題はないよ」
「じゃああと二人どうする?」
「私は依吹と組むわよ」
「なんで⁉︎ ずるい!」
「そうだぞ! あたしも依吹っちと組みたいのに!」
沙雪さんはそう抗議するあゆちゃんと小夏を鼻であしらって、腕を組む。完全に優位に立つことを見せしめるポーズである。何度されたことか。
「付き合っているのに部屋班も行動班も違うなんて明らかに怪しいもの。それに、男子と一緒の班になるのでしょう。それなら尚更、付き合っている者同士が防波堤として行動班で組むのが必然よ。部屋班が違うのは、夜な夜な依吹といかがわしいことをするのを防ぐ為と理由をつけられるけれど、行動班が違うのは不自然だわ」
理にかなってはいるからそれはそれでもういいんだけど、最後は余計だよ沙雪さん。クラスで男子もいてこんなに人が聞いているところで、直接的な表現は避けているとはいえなんてことを言っているんだと、思わず顔を顰めてしまう。
「お前男がいる前でそんなこと言うなよ」
当然、瀬野君達男子はもっと顰めた顔を見せる。
「あら、想像でもしたのかしら? 変態ね」
「俺らこいつと行動共にしないといけないの? まじ?」
「遊んだことならいくらでもあるじゃない」
「でも、その時はもっと人がいたでしょう。逃げ場なく沙雪と関わるのは疲れるよ」
「昔は一日中二人で過ごしていたというのに、酷いこと言うのね」
「昔はもっと可愛げがあったけどね」
「それはあなたもよ」
二人とも笑顔なのに話していることが全く穏やかな感じがしない。
「とりあえず、他はどうする?」
「藍川達とはうちが組むよ。沙雪、藍川と一緒だとなんか調子に乗るから、うちがどうにか抑える」
「ごめんね大澤さん。なんか貧乏くじ引かせたみたいで」
「別にそこまで思っていないから平気だよ。藍川こそ、沙雪の我儘に巻き込んでごめんね。組みたかった人いたかもなのに」
そう言って、大澤さんはさりげなくすみちゃんに目を向けた。
「私は大澤さんと一緒なの嬉しいよ」
「なら良かった」
白葉ちゃんはさっさと紙に私達の名前を書いて、とっとと次の班相談に移った。
すみちゃんはあゆちゃんと、小夏は白葉ちゃんと組んで、それぞれ適当に男子三人組を捕まえて班を作っていた。
ただ、私達はすんなり決まったけれど、宇河さんと組みたがる人がいなくて、若干──いや、かなり揉めて、結局その日中に白葉ちゃんと武田君の仕事が終わることはなかった。




