次の予定
私達が駅に着くと、もう既に皆ついていて、コンビニの中で待っていた。
「おそ〜い! めっちゃ待ったよー!」
「責めるなら沙雪ね」
「こうして来てあげただけ感謝しなさい」
白葉ちゃんと大澤さんは沙雪さんを見て何言ってんだこいつという顔をしている。私も多分待つ組だったら同じ顔をしていたと思う。
あゆちゃんと小夏はそもそも大して聞いてないのか全く反応していなかった。
「ごめんね。暑くなかった?」
「コンビニめっちゃ涼しいからへーき。依吹ちゃんこそ暑くない?」
「見た目ほど生地厚くないから平気だよ。でも流石に室内入ったから脱ぐけどね」
そう言いながらジャケットを脱いで、一旦腕にかける。
できれば畳んでバッグにしまいたいけど、床に置くのは邪魔になるし衛生的にもよくないから、どうしようかと悩んでいる。
「純蓮依吹ちゃんと一緒だったんだね」
「たまたまね。沙雪のところに向かう藍川さんを電車で見かけたから、一緒に行ったの」
「わたしも誘ってくれたらよかったのに〜」
「そしたら余計時間かかるでしょ」
すみちゃんに頼もうにもあゆちゃんと話しているし、沙雪さんは絶対持ってくれないだろうし──。
私は目があった小夏に寄って、ほんの少しバッグを上げる。
「おはよう小夏」
「おはよう依吹っち! 依吹っちは早起きだな! メッセージの時間見てびっくりしたぞ」
「起こしちゃった?」
「気にしなくていいぞ。遊ぶのは好きだからな」
「それなら良かった。小夏、悪いんだけどバッグ一旦持っててくれる?」
「いいぞ〜」
ジャケットを畳むと、小夏がバッグを開けてくれたので、ジャケットをしまわせてもらう。
「それでどこ行くんだ?」
「どうしようか。まだ決まってないんだよね」
「とりあえずご飯食べよう。ずっとここにいてもうちら邪魔だし」
大澤さんに押されて、とりあえずレストラン街にまで上がった。
「うっわ、混んでる。日曜だから当たり前だけど」
「私達人数多いし余計に待ちそうだよね」
「食べ歩きとかにする?」
「いいな食べ歩き!」
「じゃあ浅草まで行っちゃう〜⁉︎」
「うち暑いの嫌って言ったじゃん」
「浅草行くのなら最初からそこ集合にしなさい」
とりあえず下に降りて、食べ歩きロードに来たけれど、案の定人が多かった。でもレストラン待つよりかは進みが早いから許容範囲という感じ。
「もう今日食べ歩きデーにする?」
「あたし展望台行ってみたいぞ」
「じゃあ先に展望チケット買おう。無くなるかも」
「あっち行ってこっち行ってじゃん〜!」
「無計画に遊ぶのが悪いのよ。なんでテスト前に遊ぼうとするのよ」
沙雪さんはそう言いながら私に目を向ける。
「私もテスト前に皆が来てくれるなんてびっくり」
「沙雪がすんなり起きてくれたらまだマシだったかもだけどね〜」
「ちゃんと起きたじゃない。文句言われる筋合いないわ」
「まあいいじゃん。予定決めてなかったんだからある意味予定通りいかなくてイライラするってことないんだから。ほら、エレベーターきたよ」
長い列に並んでチケットを買った後、下に降りて好きなものを買っていく。
「依吹っちちょっと食べさせてくれ」
「いいよ」
小夏に食べさせると、ん〜と声を漏らして幸せそうな顔をしていた。
「美味しいな!」
「チーズ効いてて美味しいよね」
小夏からもアイスを少し分けてもらって食べる。体が涼しくなってより一層美味しく感じる。
他にも皆で色々行って食べて撮って、調子に乗ってパン屋で買ったパンが全部食べきれなかったので、バッグにしまって展望台に向かう。
「おぉ〜! 見ろ! めっちゃ見えるぞ!」
小夏は真っ先に展望台の手すりから身を乗り出して、遠くを見た後に視線を下に向けた。
「めっちゃ高いなー!」
「なんか透けるやつあるよね。真下見える床」
「あるある〜。並ぶけどね」
「また並ばないといけないの……」
「日南は休んでればいいでしょ。あたしらは行ってくる」
沙雪さんはエレベーターに詰め込まれて、暑さと気圧変動で気分を悪くしたらしい。
それで私によりかかっている。
「沙雪さん水飲みな」
「あと藍川さんから離れなよ。涼しくした方がいいよ」
私は沙雪さんにペットボトルを渡し、すみちゃんはファンを当てている。
「こうしていた方が楽なのよ。それに、依吹になら最悪吐いても問題ないわ」
「私はめちゃくちゃ問題あるんだけど」
「他の人にかけるくらいならあなたの方がマシということよ」
「これほど嬉しくない特別扱いは初めてだよ」
沙雪さんを引きずりながら移動して、ようやく見つけた空いた椅子に座らせる。
「藍川と純蓮、ずっと沙雪の面倒見てたし二人で景色見てきたら? 沙雪はうちが代わりに見るから」
「ほんと? ありがとう」
「じゃあよろしくね友美奈」
小夏達は透ける床に行っているので、本当に二人きりで景色を見る。まさかこの人数で出かけてすみちゃんと二人になれるとは思っていなかったから、嬉しい誤算。
「綺麗だね」
「ね。ほら、富士山見えるよ」
すみちゃんが指す方に目を向けると、連なる山より一際存在感を放つ、雲のかからない綺麗な富士山があった。
「なんか、こうして改めて富士山見ると感動するね」
「うん」
すみちゃんの小指がそっと触れる。私も少し小指を動かす。
どちらからかは分からない。自然と小指が絡み合って、景色を見るようにお互いの視線を窓を隔てて交わせる。
景色なんて大して見ていない。車の流れすら静止画のよう。
今、時間が止まって二人の世界に入ったような気分になる。
こちらを見ている白葉ちゃんを見るまでは。
すみちゃんと同時に振り向くと、白葉ちゃんは気まずそうに背中を向ける。
「あ、いや、あたしら上行こうと思ってて、それ言いにきたんだけど。その、ね、二人はごゆっくりしてもらってから、ね。来てもらえればいいから」
急激に顔の温度が上昇する。たぶんすみちゃんも同じ。
私達はスタスタと顔を合わせないように歩いていく白葉ちゃんの背中を追いかける。
弁明……ではないけど、とにかく己が負った恥じらいをどうにか誤魔化す為に。
◇◆◇◆◇
「ちょー良かったな!」
「床は若干残念だったけどね。なんか傷だらけで思ったより綺麗じゃなかったし。依吹ちゃん見てこれ」
あゆちゃんは小夏と白葉ちゃんと三人で撮った写真を見せる。その流れで他にも今日撮った写真をたくさん。
「あゆちゃんは写真撮るの本当に上手だよね」
「ほんと〜⁉︎ よく撮ってるからね。夏休みはお泊まりいこうね依吹ちゃん。その時も写真いっぱい撮ろ!」
「あら、あなたは補習になるかもしれないわよ。そしたらあゆ抜きで行かせてもらうわね」
「ひどい! 置いてかないでよ! って、そもそもわたし赤点とったことないから平気だもん!」
沙雪さんは二階に行く時にはもうすっかり復活していて、弱っていたとは思えないほど展望デッキでも今のような調子だった。多分沙雪さんがメンタル崩壊を起こすことはないんだろうな。だから全く可哀想と思えない。まあ、沙雪さん自身それを望んでいるしね。
「うちらはもしかしたら夏休み呼び出されるかもだけどね。宇河のせいで」
「うっわ、最後の最後で嫌なことぶっ込まないでよ大澤」
「夏休み泊まるんだったら今から予約とかしないとでしょ。嫌でも話し合っとかないと」
「私も去年それで旅行断念したんだよね。直近だと観光地空いてなくて」
ああ、だからすみちゃん、去年旅行じゃなくて家にお泊まりになったのか。
「沙雪さん別荘とか持ってないの?」
「ないわよ。家族旅行するような家族に見えたかしら?」
「はいごめんなさい」
誰か別荘とか持ってたら予約とかいらないのにな。
「あたし多分別荘あるぞ。売ってなかったらだけどな。そこは聞かないと分からん。でも多分そのままだ」
「え〜小夏マジ有能〜! じゃあ小夏にまかせた〜!」
「まかせろ!」
「そうなるとこなっちゃんが一番赤点取っちゃダメだからね」
「うっ、が、頑張るぞ……」
その後、皆で小夏の勉強を見ることが決定して、私達は解散した。




