夏休みの一幕
夏休みに入った。当然、小夏と過ごす日々は極端に減った。でも、すみちゃんとの日々だけは然程変わらない。
学校で話すのは最低限だから、学校の有無は私達にはあまり関係ない。
日曜日。すみちゃんが我が家のチャイムを鳴らせば、それだけでいつも通りの日々になる。夏休みでも、日曜日は空けるようにしているから。
すみちゃんと過ごすおかげで、珍しく夏休みの宿題が早めに終わった。でも、そうなるとまた話す選択肢が消えていく。勉強教えてとは言ったものの、正直そこまで私は勉強が好きではないから、少々苦痛な時間になってしまう。それをすみちゃんも分かっているのか、テストも終わり、夏休みの宿題も終わった私に勉強を教えようとはしない。
以前のようにすみちゃんと距離を取ってラノベを読んでいると、スマホの通知が鳴った。小夏からだ。遊ぶ予定をたくさん送ってきている。夏休みの宿題の存在、ちゃんと覚えているのか心配になる。一日……いや、一週間くらい、小夏の宿題に付きっきりになる日が必要かな。
「小森さん?」
ペンを持ったまま頬杖をしたすみちゃんが私の方を見てそう聞いてきた。
「うん、そうだよ。よく分かったね。って、私に連絡くれるの小夏くらいだったね」
「違う。なんだか、嬉しそうだったから」
「そう?」
「いぶは結構、顔に出るよ」
「そう言われるとなんだか恥ずかしいな」
兄によく、ヘラヘラしてるとか、周りからもニコニコしてて楽しそうだねとか言われるけど、顔に出ると言われたのは初めてかもしれない。
「小森さんと出かけるの?」
「うん。楽しみだけど、結構予定埋まって大変そうだなーって感じはある」
「二人?」
「そうだね。共通の友人がいないから二人になるよ」
「…………」
すみちゃんは黙って、ペンをクルクルと回し始めた。
「その、旅行行きたいって言ったの、覚えてる?」
「覚えてるよ。だから小夏には、もしかしたら予定入るかもしれないから、確実に遊べるかは分からないとは言ってあるから安心して」
すみちゃんはスマホを手に取り、画面を見せてきた。
「電車一本で行ける花火大会。その、ここ、行かない?」
すみちゃんが見せてきたのは、八月初旬に行われる花火大会のサイトだった。
「いいね。綺麗だろうね、花火。でも、旅行じゃなくて良かったの?」
「その、お父さんとお母さん、この花火大会がある日も含めて三日間、夫婦水入らずの旅行でいないの。だから、もし良ければ、うちにお泊まりして、花火大会も一緒に行かない?」
すみちゃんはスマホで顔を半分隠しながら、目を逸らしてそう提案してきた。
「すっごい楽しそう。家の人に配慮しなくていいから気楽に過ごせそうだし。それに、夜更かしとか、二人でちょっとした悪い事できそうだね」
「いぶは、私と二人きり、嫌じゃない?」
「どうして? すみちゃんと一日二人きりで過ごす日々なんて滅多にないし、すごく楽しみだよ。すみちゃんは?」
すみちゃんは深く深呼吸をして、私の肩に額を乗せた。
「私も楽しみ。……いぶ」
「はい」
「好き」
「私もすみちゃんの事好きだよ」
「小森さんに言われても、同じように返すの?」
「そうだね」
すみちゃんは私の上体を強く押して、床に寝そべらせた後、鼓動を聞くかのように耳をつけて、胸に乗っかってきた。
「すみちゃん?」
「落ち着いてるね」
「うん? うん」
「いぶ、好きだよ」
「え? あ、うん。ありがとう」
すみちゃんは退かずに、そのまま私に身体を預けて目を瞑った。
私が息をするたびに、同時にすみちゃんの頭も動く。その様子を見ていると、大きく息をする事が憚られ、小さな呼吸を何度も繰り返す。
目を瞑っているすみちゃんに話しかけるのもあれなので、私もすみちゃんと同様に目を閉じる。
涼しくて、暖かくて、蝉の声が聞こえる。なんとも昼寝に適した環境だろうか。
私は、目を閉じたままいつの間にか眠っていた。
次に目を覚ました時は、空が茜色に染まっていた。
頬に柔らかい感触を感じたことで目が覚め、そっちの方向を向くと、空のように頬を染めたすみちゃんがいて、慌てて私から離れていった。
「ごめんね、寝ちゃってた。そろそろ解散しないとね。送って──痛った⁉︎」
枕もなく、床の上で長時間寝そべっていたからか、身体が固まって自由が効かなくなっていた。
「い、いぶ、大丈夫……?」
「ごめんすみちゃん、起こして」
すみちゃんに両手を引っ張ってもらい、いたたたと口から零しながら起き上がった。
「ごめんすみちゃん、今日送っていけないかも……」
「大丈夫だよ。私のせいでごめんね」
「すみちゃんのせいじゃないよ」
すみちゃんはお詫びにと、特段酷かった首のマッサージをして、解してから帰っていった。
全身がバキバキ鳴らなくなるのに、約一日かかった。




