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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
王族記念式典

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93話 骨せんべい

 ――敵は王都中に散らばる魔物の骨が集まって出来た巨大な魔物・ボーンドラゴン。


「リューズ。どうすればいい?」

 燃費の悪いトールハンマーをしまい、おなじみの双剣でボーンドラゴンを刻みながら、シーラは俺に問いかける。


「斬っても直る、潰しても直る……。再生しないように全部を超火力でちりも残さない、とかか……」

「へぇ。じゃあそうすればリューズも死ねる?」

「もっと穏やかに死なせて!?」

 

「その子さっきもう燃料切れしてたから、超火力ってのは厳しいかもよ」

 王族が着る礼服に身を包んだセイランは微笑みを絶やさずに大鎌を振るう。

「……つーかさ、お前その服」

「変な服。全然余裕」

「あはは、無理だね。絶対また動けなくなるよ」

「は?うっさ」


 ボーンドラゴンが人のいる方向に移動しないようにセイランとシーラは意外な連携でドラゴンの足を中心に切刻む。これだけの巨体だ、足が崩れればバランスを崩してすぐに倒れる。なるほど、あのゴブリンの森で一晩中脳内でセイランの動きを模写していたシーラにとっては彼と連携をとる事は容易な事なのかもしれない。


 ダンジョンではないので、【超速即時治癒魔法(クロノリジェネレイト)】は使えない。通常の治癒魔法で立ち回るしかない。ジッと状況を観察してなんとか攻略の糸口を見出さなくては。


 ボーンドラゴンの周囲には四角い半透明の謎物体が多数浮いている。

「なにこれ。じゃまくさっ」

 文句を言いながら物体を蹴って方向転換するシーラ。それを見た『アークライト』の魔導士・ルークが声を上げる。

「黒姫!それ、足場に使って!僕の術式!あ、でも色が違うのは触らないようにね。爆発するから」

「へぇ」


 短く答えて早速色違いの物体に飛んでいくシーラ。

「ちょっ――」

 俺も、ルークも、神聖術士のメリッサも思わず声が出る。赤い半透明の物体は、シーラの足の裏が触れた瞬間に爆発。シーラはグンと加速して、その勢いのままボーンドラゴンを斬り付ける。

「あはは、はやっ」

 ふぅ、と胸をなでおろす『アークライト』の二人。反応を見るになかなかの常識人だろう。


 と、思いきや何かを考えたと思ったらルーク氏は両手をパンと叩き、ボーンドラゴンの周囲には赤い物体が増える。

「いいね。好きに使って」


 危険でなければシーラの省エネにもなるだろうし、まぁアリか。本当、発想が自由なやつだよ。発想の転換、なんて視点すらないんだろうなぁ。


 と、頭の中で反芻する。『発想の転換』。おそらく、今まさに必要なもの。


 『アークライト』により貴賓たちはほぼ安全圏に避難が完了し、戦闘可能エリアはだいぶ拡大。


 シーラとセイランが戦う最中、俺は後方から戦況を見つめる。命を最前列に置いていない後衛からしか見えないものもある。あるのなら、それに気が付かなければならない。


 思考を広げて可能性の分岐を探る。まず、最初に――この再生は無限であるか有限か?無限であるはずがない。無数の骨と魔石で象られた異形の魔物。おそらくは魔石の魔力が動力源。再生系の魔物のセオリーとしては身体のどこかに核になる魔石がある訳だが、こいつがそれに当てはまるのかは不明。


 再生できなくなるまで超火力で攻め立てる?――先にこっちの魔力が尽きたら?王都は崩壊するぞ。そんなリスクはとても取れない。


 相手の魔力を押さえて再生を抑え、その隙に超火力を叩き込む。そんな都合のいい作戦が――。


 その刹那、閃光の閃きとともに脳裏に浮かんだのは、ここウィンストリア街はずれの高台。俺とシーラが育てる神樹の家。

「あるわ。都合のいい作戦」

 天啓のようにつながる思考につい笑みが漏れる。


 王族の避難を終えたノアとビーツも戦線に加わる。

「シーラ!セイラン!ちょっと来てくれ!」

 高揚した気持ちを抑えずに声を上げると、『アークライト』の二人と交代してシーラとセイランが戻ってくる。そして、作戦タイム――。


 シーラは豆菓子を食べるかのように魔石を食べて魔力を補給しつつ話を聞き、セイランは興味深げに俺の話に頷く。

「へぇ、それが伝説の『神戟』の……」

「わはは、王族にお世辞言われるとおじさん照れちまうよ」

「まぁ第三王子なんで気楽にどうぞ。あはは」

 そこで『あぁ、第三王子ね』となるやついる?十分すぎるほどすげぇわ。


 シーラとセイランと入れ違いに、今度は『アークライト』を呼び戻す。

「C級風情がS級に向かって恐縮なんだが献策があるんすよ」

 俺の言葉にノアはあきれ顔でため息をつく。

「リューズさん、謙遜は過ぎると嫌味になりますよ」


「……はは、まぁじゃあかいつまんで説明するな?協力してくれると助かる」


 そして、四人にもシーラたちにした説明を繰り返す。


 あのボーンドラゴンの再生を封じて倒す為の作戦だ。


 ノアは話を聞きながら、納得したように頷く。

「それで行きましょう。ビーツ、配置につこう」

 相棒にそう告げるとペコリと小さく頭を下げ、ノアはニコリとほほ笑む。

「王都を、救いましょう」

「おう」



 俺は頬を膨らませてふーっと長く息を吐き、その場にあぐらをかいて座る。


 視線の先、前線にはシーラ達四人の姿。S級二人と実質S級二人の攻撃を食らい続けながら、なおも再生を続けるボーンドラゴン。


 パン、と両手を合わせてから、右手を地面につけ、その右手を左手で抑え詠唱を始める。


 ――【超速即時治癒魔法(クロノリジェネレイト)】だ。


 王都のはずれで使ったときは辺りの木々の生命を吸ってしまい枯らしかけた。どうやら、魔力に満ちたダンジョン以外では扱えない術らしい。だが、今ここは多くの魔石が散乱し、それを糧にヤツは再生する。それならば――。

 

「リューズ・ウッドレッドの名に於いて門を叩く。我が声は扉を開く鍵と成る。開き、揺らせ、理の水面。潰えぬ器をここに示せ……、【超速即時治癒魔法(クロノリジェネレイト)】!」


 右手を中心に魔力が渦を巻いて集まり、時計の針のような紋章を地面に刻む。それは、まるで命を吸い込むかのように廻る。


「いいぞ!……行けっ!」


 疲労感を感じながらも声を張り上げる。まず動いたのは戦士・ビーツ。


 まるでミノタウロスが持つかのような巨大な戦斧を振り回し、ボーンドラゴンの両足を一度にぶった切る。ドラゴンは、悲鳴のような唸り声をあげ、ズズンと地響きを上げて地に伏せる。


 再生は――、していない!


 予想は的中。今、ここが魔力に満ちた空間であるとするのなら、ダンジョン類似の空間になっているとするのなら、俺の【超速即時治癒魔法(クロノリジェネレイト)】でそれを吸収できるのではないか?と思ったんだ。


 魔石の魔力が使えなければ、ボーンドラゴンは再生できない。


 体勢を崩した標的に向かい、二人が跳んでいる。


 薄緑色の魔力の刃を煌めかせる大鎌を振りかぶるセイラン。

 と、同時に真っ白な聖剣も輝き、高音を響かせる。――ノアだ。


 地震のような地響きと轟音が轟く。後衛二人には街への被害が出ないように、最大限の出力で防御結界をお願いしている。


 めり込んだ地面には原型を留めぬ骨の残骸と化したボーンドラゴン。というより、もはや魔石と骨の集合体にしか見えない。その真っ赤な瞳だけはまだ健在で、その瞳の先には空に浮かぶシーラの姿。


 比喩でなく、本当に浮いている。青い空に黒い髪をなびかせ、シーラは宙に浮かんでいるのだ。


「【全属性同時解放展開(オーリオン)】、【(スィクサ)】」

 

 頭上にはいつもの光輪。いつもと違うのは、背後の光輪は三対の光る翼のように形を変えている。


「……まじか。もしかして」


 そのまさか。シーラにバランスとか配分を求めるのは無理な話。


 左手には純白の大槌――、トールハンマー。


 ギュン、とシーラは地表に向けて加速する。

 

「防御結界!頼むぞ!」

『はい!』


 俺たちは襲い来る衝撃に備える。無言で、一直線にボーンドラゴンを襲う驚異。


 それは、音を置き去りにして、大気を揺らし、王都を揺らし、後で聞いた話だと真昼に輝くその稲妻は離れたヴィザからも観測ができたそうだ――。


 「さ、再生は……?」


 俺が問うと、セイランはあきれ顔で爆心地を見て笑う。

「無理でしょ」


 ノアがパチ、パチと拍手をすると、それは瞬く間に大通りから市街中に広がり、今度は大歓声が王都を揺らした。


「リューズ」


 疲労と魔力切れでフラフラのシーラが俺に歩み寄ってくる。


「私、子供助けた。そしたらクッキーもらった」


 シーラはそう言って嬉しそうに笑う。その表情を見たらボーンドラゴンとの闘いなんて申し訳ないけれど、どうでもよくなってしまう。

「わはは、そうか。偉すぎる。おいしかったか?」


 いつものように全力で頭を撫でまわすと、シーラは迷惑そうに眉を寄せながらも口元は緩んでいる。

「おいしくはない――、あ!」


 急にシーラは大きな声を出して後ろを振り返る。まさか、再生!?と戦慄が走る。


「……骨せんべい」


 ボーンドラゴンの骨はもう跡形もない。シーラは心底残念そうに肩を落とす。


「……別の骨で作るから安心しろ」

「へへ、やった」

 シーラはケロリと表情を変える。



 各救護所の被害報告によれば、怪我人542名・死者0名。シーラに言わせれば『全員治したんだから怪我人も0でしょ』との事だけど、そんな単純な話ではないだろう。ケガは治っても痛みや恐怖まで消えるわけじゃないんだから。

 

 こうして、未曾有の王都動乱事件はひとまず幕を閉じた――。

 

 

 

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