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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
王族記念式典

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88話 祝福・【死者蘇生】

 ――二年前、聖都・ブラドライトからほど近いミルシンキの街。

 ザカリウス教皇とS級パーティ『アークライト』の四人が訪れたのは、ミルシンキにある教会。その前の広場。

 荘厳な棺に収まり、胸の前で手を合わせて瞼を閉じる若い女性。未来ある彼女の突然の死に、空は青空であるにも関わらず広場は悲しみに包まれ、すすり泣く声がいたるところで聞こえてくる。


「【死者蘇生(リザレクション)】」

 

 ノアが手をかざしてそう唱えると、少女の遺体は一瞬まばゆく光を放つ。


 次の瞬間、広場中は息を呑んだ。不思議そうな顔で、まるで寝起きのように、少女は瞼を開け、上体を起こした。

「……あれ?ここは?私は――」

 困惑する少女の傍らにひざまずき、ノアはニコリとほほ笑む。

「お、おはよう。もう大丈夫」

 その目からは、口からは血が流れ、その奇跡の代償を窺わせた。


【死者蘇生】、それは最も目に見える奇跡の形だ――。

 


 ――式典当日、時刻は午前十一時過ぎ。


 まもなく始まる式典を前に、城内は大わらわだ。

 そんな中、ブラドライト正教のトップであるザカリウス教皇も困り顔で城の中を足早に歩いている。

「まったく……、どこに行った!?もうすぐ式典が始まるんだぞ!」

 右に左にキョロキョロとしながら、教皇自らが誰かを探している様子。教皇の後ろを真っ白な装備に身を包んだ三人の冒険者がついて歩く。

 

「ビーツ!ノアはどこだ!?」

 ビーツと呼ばれたのは大柄な戦士。

「知らねぇっす。トイレじゃないっすか?」

「メリッサ!お前なら知ってるだろう!?」

 神聖術士のメリッサは苦笑いで言葉を濁す。

「知らない~、ですねぇ。トイレでは?」

「トイレはもう見ただろう!時間がないんだ、もう式典が始まるんだよ!」

「ノア~」

 申し訳程度に小声でトイレに声をかけるのは魔導士のルーク。

「だからトイレにはおらんわ!」


 足早に進むザカリウスの前をたくさんのタオルを抱えたメイドの女性が通る。

「君!ノアを見なかったか!?私の勘では光の当たらない静かな場所に隠れているはずなんだ!どこかそういう場所はないか!?」

 すごい剣幕で詰め寄られ、メイドは苦笑いを浮かべながら一瞬視線を泳がせる。その視線の先はリネン室。

「……そこか!」


 勢いよく扉を開けると、積み重なるシーツの山に埋もれる金髪の青年と目が合う。

「あ、教皇様。どうも」

 苦笑いを浮かべる彼こそがノア・アークライト。『勇者』と呼ばれるS級冒険者だ。


 ザカリウス教皇は頭を押さえて大きくため息をつく。

「ここで何を?」

「いやぁ、暗いとこって落ち着くじゃないですか。僕人の多いところ苦手なんですよね」

「……気持ちはわかるがいい加減慣れろ。ビーツ、あとは任せた。私は忙しいんだ」

「了ー解っす」

 ビッと敬礼をしてビーツはザカリウス教皇を見送る。

 

 「ほら、ノア。行くよ」

 パーティの紅一点、メリッサに促されてノアはリネン室から外に出る。雲一つない青空から差し込む光にノアは眉を寄せる。


 四人は渡り廊下を進む。眼下には城下が見下ろせる眺望。貴族街も、市民街も見下ろせる。ノアは、遠く視線の先、市民街を眺める。街のはずれ、古ぼけた廃教会を視界に捉え、クスリを笑う。

「神に感謝を。今日も善き日でありますように」


 胸元に手を当て、ノアはそう呟いて微かに笑みを浮かべる。それは、祈りだろうか?呪いだろうか?

 


◇◇◇


「リューズさ~ん、シーラさ~ん!」


 俺とシーラの所属するレイド率いる第七班は王城から南に真っすぐ伸びる大通りの中頃に配置され、通りに背を向けて群衆の方を向いての警護に当たる。仕事中の俺とシーラをどこからともなく微かに聞こえる聞きなれた声。人の声のあふれる雑踏の中、辺りを見渡すも声の主は見つからず。俺が探すのをあきらめると、シーラが視線を上げて呟く。

「あ。イズイ」


 つられて視線を上げると、少し離れた建物の三階テラス席で全身を使って大きく手を振るイズイの姿を見つける。

「あっ!やっと気づきましたぁ!?あははは!人が仕事しているのを眺めて飲むお酒は美味しいですねぇ!」

 赤ら顔でそんな事をのたまってケラケラと笑い、ワイングラスをぐいっとあおる。イズイと同じテーブルにはネイさんともう一人、受付真ん中カウンターの女性も座っていて、二人とも困り顔でイズイをたしなめている。


「ふふ、イズイも楽しいか」

 シーラは遠くの三人の様子を眺めながら楽しそうにクスクスと笑う。

「割と(たち)の悪い楽しみ方だけどな」

 失笑しながら、その言葉でまたベラドンナを思い出す。雑踏警護を行う為、俺とシーラは群衆の方を向いて『通りに背を向けている』。ベラドンナが何かをしてくる可能性が高い以上これはリスクが高すぎやしないか。


「なぁ、シーラ。一応聞くけど、うしろって見れたりする?」

 俺が問うと、シーラが普通に後ろを振り向いてから俺を見る。

「見たけど」

「や、じゃなくて。前を向いたまま後ろを見られるかって質問なんだけど」

 小声で俺が問いかける。シーラは腕を組み眉を寄せる。

「んんん?何かの暗喩?なんか前も鍋がどここう言ってたけど、そんな感じ?正解は?」


「わはは、すまん。はっきり言わなきゃダメだよな。二人とも前向いてると、後ろから狙われた時危ねぇからどうしたもんかな、って相談」

 それを聞いてやっとシーラは納得したように頷く。

「あぁ、そんなこと。簡単」

 シーラはするりと俺の後ろに回り、ぴたりと背を付ける。

「これでいい?」


 あまりにシンプルな対策につい笑ってしまう。

「……ふっははは!天才かよ」

「ん?そうだけど」


 そう言いながらシーラは俺の背中に体重をかけてくる。

「おい、寄りかかるな。重たいんだよ」

「私は重くない」


「あっ!いちゃついてるぅ!?皆さ~ん、そこ!公衆の面前でいちゃ付いてますよぉ!」

 遠くでイズイが俺たちを指さして声を上げる。いつも仕事ばかりだろうから、本当に楽しそうで何よりだよ。と、思うと同時にネイともう一人の子はお休みなのにお疲れ様です、と心の中でねぎらっておく。


 気が付くと、手のひらはじんわりと汗ばんでいたのでぐーぱーと何度か開いては閉じる。


 記念式典は王城の広場で行われたあと、幌なしの馬車に乗った国王たちがゆっくりと大通りを南に進み、折り返して城へと戻ると言う流れ。


 王様の乗った馬車の四方はS級パーティ『アークライト』が固めて歩くらしい。セイランの話によると、教会が【勇者】と認定した孤児院出身の四人組らしい。


 遠く、王城で祝砲がドン、ドン、と何度か鳴り響いて空気を揺らす。揺れた空気を癒すように、楽隊が緩やかな音楽を奏でる。時計台を見上げると時刻はちょうど正午キッカリ。


 遠くのほうから、ゆっくりと、だけど確実に、歓声と拍手と地響きが近づいてくる。


 群衆は国王の姿を、『アークライト』の姿を一目見ようと身を乗り出す。

「押さないでー。押さないでくださーい。おーい、コラァ。押すんじゃねぇぞ、馬鹿どもがぁ」

 魔導拡声器を使い、班長のレイドが群衆に制止を呼びかける。シーラが声を掛けられないのは服装がいつもと違うからだろうか?


 ――そんな思考をした瞬間。


 コロコロ、と足元を転がってくる無数の何かに気が付く。


 国王の馬車は俺たちの配置場所に近づいてくる。俺たちの配置場所は大通りの中頃、――つまり、城からも城外へも一番遠い場所。


 それに気づくと同時に足元を転がる物が目に入る。小石?ガラス玉?そんなものではない。これは――、魔石だ。



 『死者蘇生(リザレクション)


 ――『彼』は、言葉には出さずに口だけを動かしてそう告げる。



 その時、大通りに無数に撒かれた魔石は一度鈍い光を放って反応を示し、そこから現れたのはおびただしい数のアンデッドモンスターだった。骸骨兵や骨だけの魔物。その数は百や二百ではない。千か、……或いはもっと上か。


 人々は、一部の冒険者は、現実味のないその光景をまだ余興か何かだと思っていた。


 悲鳴よりも、咆哮よりも早く声を上げたのは各所に配置されているA級冒険者だった。


「敵襲!敵襲!敵の数……300、400、いや、まだ増えるッ!?」


 言葉通り、死霊の兵たちは次々に魔石から還り、その姿を現す。


 青空の下、そこは一瞬にして阿鼻叫喚の場と化した。

 

 

 

 

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