81話 D級依頼・『王族式典の護衛』
――王都・ウィンストリア、冒険者ギルド。
「……ゴホン。まぁ、誤解が解けたところで次の話をしましょうかぁ!」
ギルドに併設されたバーのテーブル。休憩中のイズイを含めた三人でテーブルを囲み、俺はテーブルに頬杖を突いてイズイに白い目を向ける。
「どんな誤解が解けたのかハッキリ言ってもらおうか。さっきみたいにギルド全体に響き渡る様な大きい声でなぁ」
「あはは、細かい事はいいじゃないですかぁ。あ、私カルボナーラ頼んでいいですか?」
「ん?好きに頼んだらいいんじゃねぇの?自分の金なら」
「ひどいっ!聞きました!?シーラさん!今のはドケチと言って差し支えないのでは!?」
「イズイもカルボナーラ好き?ふふ、私も好き」
メニューを眺めて嬉しそうに微笑むシーラを見て、イズイは味方を得た心持ちで得意げに胸を張る。
「じゃあシーラさんも食べましょう!リューズさん、二人分、いいです?」
「……じゃあおじさんもペペロンチーノ頼もうかなぁ」
「にんにく入ってますけど」
「いいんだよ。おじさんはニンニクが好きなもんなんだ」
イズイにはいつもお世話になっているから飯を奢るくらいなんて事ないんだけど、黙って奢るのも芸がないし、恩着せがましいからワンクッション挟んでみる。
厨房を借りてシーラの分は俺が作らせてもらう。バンダナを巻いて、袖をまくり、バンドで留める。
料理をしていると考え事が捗る。
黒髪。魔力を持たない忌み子。魔石喰い。シーラの話の断片を聞いているだけで、シーラがどれだけ母を好きで、母に愛されていたのかは伝わってくる。
お母さんは、どんな気持ちで我が子に魔石を食べさせたのだろう?
セレスティアは、それは禁術の類だと言った。だとすると、何かしらの弊害があるのだろうか?
もしかして、シーラの味覚異常も弊害の一つなのだろうか?
考えても答えなど出るはずもない。アミナなら分かるだろうが、答えを教えてもらえる保証は無い。
と、考えているうちにカルボナーラとペペロンチーノが完成。ついでにデザートを一品、と思い凍らせたフルーツを削ってシャーベットにした。
トレーに料理を載せて厨房から出ると、それを見たシーラが犬の様に駆け寄ってくる。
「リューズ。それやりたい。貸して。座って」
ワクワクした表情で、キラキラと輝く瞳でそうせがまれて断れるやつがいるだろうか?
厨房のおじさん方もノリノリでシーラに給仕用のエプロンと帽子を貸してくれる。
席に着く俺とイズイ。イズイはとろけんばかりにニコニコと顔を崩してシーラの様子を見つめる。
「お待たせしました。カルボナーラと、ぺ?……ぺぺ……ろんちーの?です」
澄まし顔で、どこか得意げにシーラはテーブルに音も無く料理を置く。
「シーラ……」
あまりの感動に気を緩めると涙腺が緩む。
「お前敬語使えたんだなぁ」
「リューズさん……、今そんなのいいんで。今は『尊ぇ』以外使用禁止です」
三人分の料理をテーブルに置くと、シーラは席に着く。
「ね?いつでもできるよ」
――いつか馬車の中で何気なく言った、レストランを開くと言うかつての夢。『じゃあ、私は料理とか運んであげる』とシーラは言った。
それはその場限りの思いつきでは無く、シーラなりに本気で考えていた事のようだった。
11歳の頃からほとんどをダンジョンで魔物と過ごした、きっと年齢に比べて未成熟なシーラのその想いを、俺はどう受け止めるべきなんだろうか。
と、また『べき』で考えてしまって心の中で首を横に振る。
「……あっ、温かいうちに食おうぜ」
「ん」
「は〜い」
俺たちは手を合わせて声を合わせる。――いただきます、と。
今はまだ、単純にその気持ちをありがたく受け取るよ。
「卵っ。とろっとろ」
「おいっしいですねぇ~。見事に半熟な卵とチーズが濃厚に絡み合って、口の中が幸せで一杯ですねぇ」
「そりゃどうも」
シーラはスパゲッティを絡めたフォークをピタリと止めると、神妙な顔でイズイに問う。
「もう一回。なんて言った?」
「え?なんか変なこと言いました?」
「今なんかよさそうな事言ってた。もう一回」
食べるのも止めて、シーラは真剣にイズイを問いただす。
「えぇ……?おいしい、って言っただけですけど」
「それは分かる。私ももっとイズイみたいにちゃんとおいしいって伝えたい」
向かいで聞いていて思わずにやけてしまうような事を相変わらず真顔でシーラは言う。
「大丈夫、伝わってるよ。別にそんなの急がなくていい」
シーラは少し考えたかと思うと、自分を言い聞かせるように一度頷いて再びフォークでスパゲッティを回す。
「ならいいか。おいしい。とにかくおいしい。やばいくらいおいしい。私はこれが好き」
満足げに、楽しそうに、シーラはフォークを口に運ぶ。
食後のコーヒータイム。
「さぁて、そろそろ仕事の話いいですかぁ?」
「お。なんかいいのある?」
俺の言葉にイズイは得意げに胸元から一枚の依頼書を取り出す。
「食事のお礼に私がこっそり確保していた依頼を渡しちゃいましょうっ」
「え?それいいの?」
「しっ!声が大きい!いいんです!えこひいきは受付嬢の特権です!」
「わはは、いっそ清々しいな。内容は?」
イズイはニッと口元を上げ、芝居がかったように言葉を溜める。
「D級依頼、式典の護衛でぇす」
「D級?」
俺たちのパーティ『三食おやつ付き』の現在の等級はC級。上下一つ差の依頼が受けられるので、俺たちは上はB級、下はD級の依頼が受けられる。
早く等級を上げたいのなら一つ上を狙うのがセオリーだろう。それなのに、依頼はD級。その心は?
「この依頼はA~D級までの各等級に出ているんですよねぇ。知ってます?現ウィンストリア国王の即位50周年記念式典」
「あぁ、さっき街で聞いたやつか」
テーブルにノートを広げ、親切にイズイは図解してくれる。
「当たり前なんですけど、等級の高い冒険者ほど王族の近くに配置されます」
単純に考えて等級が高いほど戦闘力も高い傾向があるんだから、それはそうだろう。
「それならなおさらB級で受けた方がよくないか?」
至極まっとうな俺の問いに、イズイは挑戦的な不敵な笑みを見せる。
「以前の私ならそう提案したでしょうねぇ」
その前振りでもうすでに年甲斐もなくワクワクさせられる。
「でも、最前線はD級なんですよぉ!B級の配置は、王族からも前線からもちょうど真ん中!程よく目立たない中途半端な位置なんですねぇ!」
「なるほど……。何か作戦が?」
イズイは満面の笑顔で答える。
「ありませんねぇ!」
「んん?」
あまりにはっきりと宣言されたので、思わず聞き直してしまう。イズイは何が面白かったのか、ケラケラと笑いながら俺の肩をぱしぱしと叩く。
「あはは!ないでぇす。言っておきますけど、投げやりじゃないですよ?これは信頼です」
今度はイズイがワクワクした表情で俺とシーラを見て微笑む。
「どうせあなた方は普通にやろうとしても目立ちますから。どんな事件を起こすか楽しみにしてますねぇ」
逮捕されない程度にお願いしますね、と笑えない言葉をイズイは添える。
「お。何か悪だくみ?僕も混ぜてもらっていいですか?」
イズイの背後から爽やかな声が聞こえ、顔を上げると気配なくそこに立っていたのは紺色の長髪で涼しげな笑みを浮かべた青年――、セイランだ。
「うわぁっ!?」
あまりに気配なく後ろに立たれてイズイはビクッと大きく身じろぎ声を上げる。
「……もしかして、これもお前の仕組み?」
以前のゴブリン調査はセイラン自身が依頼主だと彼は言った。白い眼を向けつつ一応確認をすると、セイランは人懐っこそうな笑顔で笑い、手を横に振る。
「あはは、王族の式典でしょ?ないない。立ち話もなんだから、空いてる席座っていいです?」
返事も待たずにセイランはイズイの隣に座る。
「やば。リューズ、こいつ返事してないのに勝手に座った」




