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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
祝福の大聖女と丸いパンケーキ

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67話 答え合わせ

 翌朝、朝食を終えて少し街をブラついた俺とシーラは再び大聖堂を囲む広場を訪れる。今日も広場には簡易鑑定所が設けられていて、簡単な真贋の見極めを行っている。

 ここで聖遺物の可能性ありと判断された人だけが、あの大聖堂の地下に案内される事になる。


 鑑定する修道士さんは昨日と違い眼鏡を掛けた役人ぽい雰囲気の男の人。

「お願いしまーっす」

 にこにこと笑顔で俺が鍋ちゃんを差し出すと、怪訝に眉を寄せながらも文句を言わずに鑑定してくれる。

「これは……」

 一旦言葉を為、眼鏡の修道士さんは言葉を続ける。

「使い込んだいい鍋ですね。きっとおいしい料理をお作りになるんでしょう」

 

 ニコリと優しく彼は微笑み、シーラは得意げに彼の目の前にゴトリと短刀を置く。黒く、刃と柄が一つの金属で生成された、禍々しく、人を殺す以外の用途には到底使わなさそうな短刀だ。

「そう。リューズの作るご飯は世界一おいしい」

「物騒なもの置きながら言うセリフじゃないんだよ」


 昨日は気が付かなかったが、その短刀を見た修道士さんが手で小さく合図をすると、広場の警戒を行っている別部隊がやってくる。

 警護の修道士さんは俺とシーラを見て、少しだけ目を見張る。

「おや、またあなた方ですか」

「すいませんね、収納魔石の中にまだ入ってたんで。せっかくだから」

 警護の修道士さんは優しく微笑むと三人一組で俺とシーラを聖堂へと案内する。

「それはそれは。きっとブラドライトのお導きでしょうな」

「ですかねぇ」

 

 にこにこと適当な相槌を打ちながら、俺たちは大聖堂の地下へと案内される。窓も、分かれ道も何もない。完全に一本道の地下へ至る階段。別にもめ事を起こすわけではないけれど、安全管理上思考を巡らせる。仮に戦闘になった場合逃げ場はなく、ただひたすらに物量で押される可能性が高くなるので非常にやりづらいことになりそうだ。なにより、生き埋めになるリスクもある。


 と、考えていると昨日と同じ重厚な鉄扉の前にたどり着く。

「それでは、私どもはここまでですので」


 コン、コン、コンと修道士さんが間を置きつつ三度ノックをすると、扉は内側から開く。

 扉を開いたのは金色の髪をオールバックにした大柄な修道騎士――ゲオルグだ。

「お入りください」

 まるで初対面かのように、一切の愛想もなく俺とシーラを室内に招き入れる。


 室内の奥、座り心地のよさそうな高級椅子に座っていたアミナは、目隠しをしているにも関わらず俺とシーラが入室すると勢いよく立ち上がる。

「あぁっ!?もしかして……、また来てくれたんですか!?やったぁ!」

 嬉しそうにパチパチと手を叩くと、目隠しをしながら器用に足早に俺たちの元へと近づいてくる。

「シーラさん、リューズさん。また会えましたね」

「な、なんでわかったんすか?」


 俺が問いかけると、目隠しをしたアミナは得意げに自分の小さな鼻を指さす。

「ずっと目隠しして生活してるせいか、私人より鼻がいいんですよ。だから匂いでわかっちゃいました」

「え。俺臭いっすか!?」

「リューズはおじさんの匂い」

「言わないで!?」


 俺とシーラのやり取りを聞いてアミナはクスクスと楽しそうに笑う。

「あっ!シーラさん。これ、あとでギルドに届けようと思ってたんですけど、せっかくいらっしゃったから直接お渡ししますね」

 なにやら額縁に入れられた賞状のような書類。

 ――鑑定証。シルヴァリア・ノル・ドラッケンフェルド、右は外見容姿に於いて一般的な水準よりも高いことを認める。ブラドライト正教会第七騎士団長ゲオルグ・ハートレード。


「ほら、お約束した……鑑定証です!」

「へぇ」

 シーラは両手で額縁を受け取り、どこか誇らしげな顔。俺は鑑定証の署名を見てからゲオルグさんを見る。

「ゲオルグさん。これ、本当にいいんすか?」

「……アミナ様の望みですので」


 大変だなぁ、と思うけど口には出さない。


 昨日と同様、ひとしきり楽しく話をした後で、アミナは思い出したように口を開く。

「ふふふ、今日もすっごく楽しかったです。そろそろお仕事にしますけど、名乗り……要ります?」

「あ、じゃあ一応」

 軽く答えると、アミナは照れくさそうにひきつった笑いを浮かべる。

「えぇ……。そ、それじゃあ」

 アミナは黒い目隠しをとる。その下にはまだ眼帯で隠された右目と、金色の左目。

「わ、……私は、祝福の大聖女アミナ。【解析】の祝福を持つ私の眼には、映る全てが視えるのです。……ってなんで二度言わせるんですか?恥ずかしっ」


「わはは。じゃあ聞かなきゃいいのに」

「あ~……、ですね」


 ――ここからが本題。


 教会の、ゲオルグの機嫌を損ねず、できる限りの情報を引き出す。解析をするのはそっちだけではない。


 何が聞けて、どこまで答えてくれるのか。ゲオルグの剣はどこまで抜かれないのか。


「それじゃ、シーラ。お願い」

「ん」


 俺の要請でシーラは短刀を取り出す。見れば見るほど禍々しい。魔王の所有物と言われても納得の黒さ。

「ははぁ。これもまた良いものですね~」

 じっと短刀を眺めながらアミナは満足げに頷く。昨日も思ったのだが、鑑定の結果をメモったりする素振りは無い。気が付けば、この部屋には筆記具の類も紙も無いことに気が付く。


 試しに、と筆記具を取り出す。

「記録の類はご遠慮ください」

 案の定ゲオルグに止められる。想定内。


「おっと、失礼。いやぁ、それにしてもずいぶんトゲトゲしたナイフっすよね。俺なんでも飲み込む一発芸が得意なんですけど、どうやったらこのナイフ吞み込めますかね?」

 顔に出ないように、ゲオルグの反応を横目に見つつヘラヘラと軽い口調で質問をする。


 アミナはクスリと笑い、口を開く。

「それは無理ですね」


 その微笑は、きっと俺の意図を汲んでの物だ。俺の質問の意図を視て、なお俺の求める答えをくれた。

 明確にできないことにはアミナは『無理』と答えた。そして、シーラの質問に対しては『お答えできかねます』。それは無理では無い。


 つまり、俺の【祝福】を解除する方法は『ある』。だが、『お答えできかねる』と言うことになる。この12年、一度も考えた事のなかった答えに思わず身体中が総毛だつ。


「情報の報酬はギルド経由でお渡しいたします」


「アミナさんに何か質問したらマズいっすか?」

 俺の問いにゲオルグの眉が微かに寄る。

「【解析】の祝福は、神がアミナ様を通して我ら教会に授けられたものです。故にアミナ様の一存でお答えする訳にはいかず、希望の質問があれば相応の寄付をいただいた上で後日文書にて教会より回答する事になっています」


「なるほど」

 教会や体制にとって不利益にな秘密を勝手に話されても困るわけだから、その仕組みはまぁ権力側からしたら妥当と言えるか。勝手に筆談させないためにも筆記具が無い。


「ちなみに寄付っておいくらほど?」

「質問の内容によって上下はありますが、最低で一口200万ジェンです」

「……な、なるほど」

「もちろん回答を控えさせていただく事もあります。その場合も寄付金はお戻しできません。あくまでも、それは寄付でございますので」


 鑑定の代金じゃなくて、あくまでも善意の寄付のおまけって建前なのね。うまいよなぁ。まるで詐欺師のそれだよ。

 

 窓も一切ない、出入り口も一つしかない大聖堂の地下室。見方を変えれば、そこはもう牢屋にしか見えない。本当に、自分勝手な俺の自己満足の大きなお世話なんだけれど――。」


 アミナの座る位置、ゲオルグの立ち位置、俺とシーラの座る場所。それらはすべて昨日と同じだ。

「シーラ、お金ってある?」

 ヘラヘラとシーラに話を振ると、シーラは収納魔石を開く。

「別にあるけど。イズイは貸しちゃダメって言ってたから普通にあげる」

「そういう問題!?」


 話をしながら右腕の袖を少し捲る。その内側には真っ赤な線で刻まれた四文字、――『助けいる?』。ゲオルグからは見えず、アミナからしか見えない位置と角度。

 普通に文字を書くと証拠が残る。だが、俺は治癒士だ。


 【祝福】により不老不死ではあるが、俺自身が治癒をかけない場合傷が即座に治るわけではない。なので、この傷は『俺が治そうとしない限り』すぐには消えないし、この程度の傷は治そうと思った瞬間にたちまちに消える。


 つまり証拠は残らない。


 俺のメッセージに気が付くと、アミナは嬉しそうにほほ笑んだ――。


 

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