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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と、味覚ゼロの最強少女の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
元英雄の凱旋と、死を願う黒姫

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61話 ちゃんと死ねるもんね

 ――王都のはずれの高台に土地を買った。

 といっても、現状95パーセントはシーラが出しているのだが。樹を植えて、土地の境界にぐるっと柵を作る。なかなかに忙しい。


「全然大きくなってない」

 昨日植えた苗木を見て、シーラは不服そうに呟く。昨日はビールジョッキ位の大きさ。今はその三倍はある。

 

「いや、なってるだろ。よく見ろよ。木って普通そんなすぐ大きくなるもんじゃねぇから」

「私は普通の話はしてない。リューズの治癒魔法の話をしてる」

 口をとがらせて反論するシーラさん。

「これでも一年分くらいは大きくなってると思うんだよなぁ。俺の出力じゃこれ以上は難しいぞ」

 と、考えて思いつく。

「お前やってみるか?治癒魔法とか――」

「無理。リューズがやって」

 食い気味に拒否られる。

「まぁ、水やり感覚で毎日治癒魔法かけに来ようぜ」

 治癒というよりももはや成長促進魔法だよな。


「ん」

 短く答えてシーラは頷く。街へと戻る途中、シーラは手近な木をぺしぺしと叩いて上を見上げる。特別大きいわけでも高いわけでもない、何の変哲もない広葉樹。

「じゃあ、この木は何十年も経ってるって事?」

「だろうな。俺も詳しいことはわかんねぇけど。世界で一番長生きの樹は樹齢3000年とからしいぞ」

 それを聞いたシーラは珍しく驚いた顔をした。

「へぇ。それはすごい。じゃああの木もそのくらい生きるかな」

 

 楽しそうに道の石ころを軽く蹴って、重大な事に気が付いたとばかりに困り顔で俺を見上げる。

「その時私いなくない?」

「わはは、だろうなぁ」


 軽く笑う俺を見て、シーラは立ち止まると服を引いて俺を止める。

「リューズはいるの?一人で?」

「かもな」

 リアルに想像なんてできない。老いることも朽ちることもないのなら、もしかすると本当に3000年後も俺は生きているのかもしれない。おやじも、母さんも、レオンも、バルドも、マリステラも、ミアリアも、……シーラもいない世界で。

「じゃあ私も生きる」

 明らかに悲しそうな顔で、シーラは俺の服を強く引いた。

「そりゃさすがのシルヴァリアさんでも無理だろ。人間なんだから」

「全然無理じゃない。頑張る」


 改めて聞くまでもないけれど、俺を一人にしない為なんだろう。出会った頃からは想像もできないシーラの成長に胸が熱くなる。

「……お前は人間になったなぁ」

 俺の言葉がお気に召さなかった様子で、シーラはムッと眉を寄せて俺の服を無造作に引っ張る。

「は?私は最初から人間。リューズはおじさん」

「おじさんも人間だよ!?」


 そんなやり取りを終えて街へと向かう。街の端まで歩いて20分くらい。高台から吹き降ろす風の冷たさが熱い胸に心地よい。

「あ、そうか」

 再び何かを思いついた様子のシーラは俺を見て呟く。

 

「消せばいいのか。祝福、いらなくない?」

 あまりに荒唐無稽な問いかけに思わずぶはっと噴き出してしまう。

「っふはは。そうだな、いらないな」

「だよね。じゃあ消そう」

 前を向いたシーラは嬉しそうに、自分に言い聞かせるように強く一度頷いた。

「そうすれば、ちゃんと死ねるもんね」


 古来権力者の多くが当たり前の様に望んだ『不老不死』。シーラからすれば、それは異物以外の何物でもないようだ。『ちゃんと死ねる』、一切の悲壮感の無いその言葉は、まるで祝福の様に俺の胸に響いた。


「どうやったら消せるかな?」

「知らね。イズイにでも聞いてみれば?」


 ――冒険者ギルド。


「イズイ。どうすれば祝福消せる?要らないんだけど」

「はぇ?」


 シーラの言葉にイズイは気の抜けた声を発し、ギルド中が一瞬で静まり返る。すべての冒険者垂涎の異能である【祝福】。ダンジョンをクリアしたものだけが得る特権中の特権だ。それをシーラはまるで迷惑なゴミの様に扱ったのだから、その反応も当然である。


「え……、えーっと。ちょっと調べてみないとわからないですが……、そもそも消したりできるん……ですかねぇ」

「うん、調べて。要らない。邪魔」

「無茶言いますなぁ」

 イズイはペンの反対側で頭をコリコリと掻いて難しい顔をする。

「宿題にさせてくださぁい」

「早くね」


「あー、そうだ。聞こうと思ってたんだけど」

「んん?なんです?」

「セイラン、ってやつ知ってる?F級の腕輪つけてたんだけど、どんな奴?」

「せ・い・ら・ん……。あぁ、あの長髪の!女の子みたいにきれいな顔した子ですよねぇ?姐さんの推しの!」


 その言葉を聞いて、一番右の受付にいる長髪のお姉さんが身を乗り出して抗議の声を上げる。

「ちょっ……、イズイ!?余計な事言わないでよね!」

「余計な事ではないですねぇ。大事な日々の彩りですもんねぇ。でも、彼もいつも姐さんのとこにしか行かないから、もしかしたら脈あるんじゃないです?」

「ないから!そういうのじゃないから!」


 二人のやり取りに挟まれた真ん中の若い受付嬢は、苦笑いを浮かべて場をやり過ごす。

「まぁ、冗談はその辺にしてぇ」

「冗談!?」

 再び右のお姉さんが声を上げるが、イズイは気にせず話を続ける。


「3年前くらいからたまに来ていますね。そんなに熱心に依頼こなしているわけじゃないですし、基本ずっとソロですねぇ」

「あぁ、在籍はしてるのか」

「お?面識ある感じです?」

「最悪なやつ」

 シーラは苦々しい顔でそう告げる。

「あはは、そうですかぁ。まぁ以前もお話した通り、F級って数が少ないので、そこに長くいる方は変わった方が多いのは事実ですねぇ。ちなみに最長記録はリューズさんの12年です」

「変わり者の話した後に俺の名前を出すのやめてくんない?」

「あら、自覚なしですか」


 話は戻って、依頼の話。

「ところで、ちょうどいい依頼が来ているんですけど、お二人何か『聖遺物』の類ってお持ちじゃないです?」

「何それ」


「えぇ、時折ダンジョンの内部で見つかる古代のものと思われる装飾品とか武器ですね。教会がそれの調査をしているらしいので、もしお持ちでしたらどうかな、と思いまして」

 イズイの説明を聞いてシーラはピンとひらめく。

「あぁ、トールハンマーとか?あるよ。見る?」

「出すな出すな。また謹慎になる」


 どこかのダンジョンの最奥で見つけたと言う、雷神の槌を思わせる純白の大槌『トールハンマー』。もしかしたらシーラの持つ大剣も、黒い双剣も聖遺物だったりするのかもな。

 

 机に地図を広げて位置確認。

「ウィンストリアの北東、ブラドライト正教会のお膝元・聖都ブラドライト。基本的には聖遺物の鑑定のみで、献上や買取等もなしだそうです」

「なんだそりゃ。報酬は?」

「鑑定結果による、との事。一応下限は決まっていて、聖遺物である場合は最低40万ジェン」

「上限は?」

「ないみたいです」

「……露骨に怪しいなぁ」


 とは言え、怪しいものを避けていてもしょうがない。C級の俺たちが数いるA級を押しのけてS級昇格の審査を受ける上ではリスクは避けては通れない。

「シーラ。次は聖都な。いいか?」

「ん。もちろん」


 次の目的地はブラドライト正教会の本拠地・聖都ブラドライトに決まる。

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