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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と、味覚ゼロの最強少女の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
元英雄の凱旋と、死を願う黒姫

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51話 夢の設計図

 ――ギルドを出た俺たち三人は、王都を歩く。


「厨房が付いている、お風呂が付いている、そして、共同ではダメ、と」

「そう。部屋の鍵はいらない。意味ない」

「意味のあるなしを決めるのは俺なんだよなぁ」


 立ち止まり、イズイはパラパラとファイルをめくる。

「ふむふむ。家で安らげないと仕事に身も入りませんもんね。住環境は大事ですよねぇ。と、なると逆にもう一軒家の方がアリなのでは?例えば無難なところでこの辺りとか」


 イズイが示したのは、バルハードの実家のようなオーソドックスな二階建て住宅。それを見たシーラはピンとひらめく。

「あ、そうだ。お風呂は露天風呂。これは譲れない」

「そこ譲らないと王都には住めねぇぞ?」

 シーラの要望を聞いたイズイは難しそうな顔をして毛先をいじる。

「露天風呂ですか」

「あとは畑も欲しい。甘い芋をいっぱい植える。リューズが増やす」

「畑、ですかぁ……」

 難しい顔をしたイズイの指は髪の毛をくるくると巻き、首を捻る。

 

「部屋は少なくていい。鍵は要らない。大きな冷凍庫」

 興の乗ってきたシーラさんは次から次へと無茶なオーダーをイズイに告げる。一声ごとにイズイの眉間のしわが濃くなる。

 畑があって、露天風呂で、部屋が少ない王都の物件。そんな無茶な、と思ってシーラを見るとキラキラと目を輝かせながらまた次の無茶を考えている様子。


「……さすがにそんな物件探すのは無理だよなぁ」

 俺の呟きにイズイは仲間を得たとばかりに若干ほっとしたような表情を見せる。――が、それは俺の狙い通り。


「探すのが無理なら作っちまうか」

 いい歳して子供のような発想。イズイは一瞬あっけに取られたような顔をしたが、すぐにその表情は挑戦的な不敵な笑みに変わる。

「い、いいですねぇ。その無茶ぶり。きっとレオン様もこうやって振り回されたんですねぇ」

「わはは、それは四人ともお互い様だったよ」


 思えば12年間、できない理由とやらない理由ばかり探してばかりだった気がするな。

「じゃあ普通の家じゃ無くておっきな樹の家。高い。かなり高いやつ」

 俺の言葉をこれ幸いとばかりに大きさをイメージして両手を広げつつオーダーを重ねるシルヴァリアさん。

 できない理由より、どうすればできるかを考える。12年前ならきっと当たり前の様に行なっていたそんな事を、思い出させてくれたこいつの願いはできる限り叶えてやりたいと思ってしまう。


「そんな無茶は〜?」

 シーラのオーダーを受けたイズイが楽しそうに俺に振り、俺はニヤリと笑う。

「できるな。俺の治癒魔法で成長を促進させればイケる。一番でかくて丈夫な樹ってなんだ?」

「あはは、ノってきましたね〜。丈夫で巨大、と言えば『神樹・ガルガンテ』一択ですよぉ」


 ――神樹ガルガンテ。神話時代は天界を支えていると信じられていた巨大な樹木。魔力を含み、燃やしても燃えず、斧すら通らない頑健なその性質は、高級材料として珍重されている。

「あ~、聞いたことあるな。植えて平気か?景観条例とか日当たりとかの問題もあるよな?」

「そこは街外れの高台を抑えればクリアできそうですね。土地価格見ときましょうか」

「おう、頼む。市街からは遠くて構わないから、畑の分も一緒にな。どうせ芋以外も植える事になるだろうし」

「かしこまりです~」

 イズイは流麗なスケッチで完成予想図を描き出し、それを見たシーラは子供の様に目を輝かせる。

「これが私の家か」

 無意識に微笑んでいたシーラは、次の瞬間ハッと表情を変えて俺を振り返る。

「違った。私とリューズの家だった。リューズ。リューズも希望ある?」


 真剣な顔でシーラがそう言ったので、俺もつい笑みが漏れる。

「そうだなぁ……。部屋に鍵はつけて欲しいかな」

 ――途端にシーラは眉を寄せて苦々し気な顔をする。

「は?それは無理」

「鍵くらいつけてくれよぉ」

 俺の懇願を受けたシーラは腕を組み、やれやれとばかりに大きくため息をつく。

「じゃあ外につける。それならいい?」

「それは牢屋では!?」


「イズイ。紙貸して。私も描く」

「どうぞ~」


 ファイルごと紙を受け取ったシーラは、ファイルを下敷き替わりに、壁に寄りかかってしゃがみ、真剣な面持ちで設計図を描く。


「聞いていた印象と大分違いますねぇ」


 少し離れた場所でシーラの夢の設計図の完成を待つ間、イズイそう言って言葉を続ける。


「もっと他人にも自分にも興味の無い機械みたいな方と噂で聞いていたので」

「最初会った時はそんな感じだったな。成長してんだよ、あいつも。聞いたか?さっきなんて俺の希望を聞いてくれたんだぞ?」

 どんな表情で俺がシーラを語ったのかはわからない。イズイはそんな俺の表情をチラリと見てクスクスと笑う。


「結局聞いてくれませんでしたけどねぇ」

「……ま、まぁね」


「でも、あんな美少女に、こんなに懐かれて~……リューズさんもその気になったりしちゃうんじゃありません?」

 挑発的な視線と、試すような言葉。俺は小さくため息をつく。

「ないね。絶対」

「ぜ、絶対……ですか?」

 シーラに聞こえないように、小さな声で呟く。もしかすると、狼狽する俺が見たかったのかもしれないイズイは、わずかな動揺を見せながら俺の言葉を復唱する。


「そりゃそうだろ。いくつ離れてると思ってんだよ。……それにな、そういうのじゃないんだ」


 壁に寄り掛かってしゃがみ込み、両手で口元を隠して離れたシーラに視線をやる。シーラはまだ真剣に絵を描いている。

「12年。俺はずっと暗闇にいた。仲間を失い、逃げて、死ねなくて、もう何もかもがどうでもよかった」

 細かな話まではするつもりはない。けれども、イズイは黙って俺の独白を聞いてくれた。

「あいつはそんな俺に光を当てて、救い出してくれた恩人なんだ。あいつは見ての通り見た目はいいし、ちょっと性格に癖はあるが根は素直ないい子だ。……俺みたいなおっさんじゃなくて、もっとずっとふさわしい相手が絶対にいるんだよ」


 つい真面目に話過ぎたので、へらへらと軽く笑い言葉を続ける。

「まぁ、最低でも王族クラス。冒険者ならS級以外は認めないけどね。で、ちゃんとあいつを理解して、大事にしてくれる相手。そこは絶対に譲れない」

 自分で言っていて、まるで父親のような物言いをしてしまい恥ずかしくなってくる。


「それはそれで解釈一致なんですけど……」


 イズイはニヤリと含みのある表情を見せる。

「それでも押し切られるリューズさんもアリですねぇ」

「いや、絶対ねぇから。絶対」


 


 

 

 

 

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