39話 4人で一つ
墓参りを終え、俺たちは墓地を後にする。
「神戟記念館ってのもあるけど行くか?」
今でもあるかわからないが、12年前はあったから多分今もまだあると思う。
「神戟饅頭ある?」
「前も言ってたな、それ。あったかなぁ」
次の目的地は神戟記念館。と、思ってもし売ってなかったら自分で作ればいいのかと思い至る。材料は……小麦粉、ふくらし粉、あと小豆くらいでどうにかなりそうだな。作った事はないけど、餡を作って、生地を作って、形成して蒸せば作れたはず。
指折り数えながら歩いていると、シーラが不思議そうな顔で俺をのぞき込んできて指で3を作る。
「私は3個」
「誰も饅頭は数えてないんだよ」
町を歩いていると、当たり前だけど視線を感じるし、ヒソヒソ声も聞こえてくる。いい話かもしれないし、当然のように悪い話かもしれない。12年の間に麻痺してしまったその感覚とは違う意味で、俺はもうその声を気にする事はなくなっていた。いい歳して自分勝手な、と思われるかもしれないけれど、俺が気にする声は片手で足りる。シーラと、家族と、仲間の家族。ただそれだけ。
「記念館行ったら他の三人の家行ってもいいか?」
ついてくるなって言っても来るんだろうからこっちから聞いてみる。
「ん。好きにすれば」
「ありがとうございまーっす」
そして訪れた神戟記念館。俺たちの子供の頃の日記とか成績表とか、あとは旅の記録関係が色々展示されている。俺にとっては赤面必至の場所である。
入場料は大人一人800ジェン。子供は無料。
「リューズ!売ってる!本当に!」
興奮した様子で声を上げ、シーラが俺の服を引っ張る。そして指さす方に目をやると、なんとまさかの神戟饅頭。
「すげぇ、予知能力かよ」
「リューズ。私みっつ」
ふんふんと鼻息荒く、シーラは俺に饅頭を催促する。
「味しないのに食に貪欲ってなんなの?」
俺の苦言も聞かずにシーラは一人売店のおばさんのところへと歩いていき自ら注文をしている。
「神戟饅頭。四つ」
「は~い。出来立てだよ。四つで1200ジェンです」
「リューズ。1200ジェン」
それを聞いて売店のおばさんは目を丸くして俺を見る。
「えっ……、リュー……リューズくん!?」
「あ、ご無沙汰してます。リューズっす」
ヘラヘラと愛想笑いをして財布を取り出す。
「いくらっすか?」
「いやいやいやいや!ここであんたからお金取れる訳ないでしょう!?いやぁ~、12年経つのにあんた全然変わんないねぇ」
「おばさんもお若いっすよ」
「リューズ。1200ジェン。早く」
シーラが俺の服を引いて催促をしてくる。
「へいへい。じゃあ1200ジェンちょうどで」
まだ代金を受け取るのをためらうおばさんに俺は申し訳なさそうに笑う。
「もらってくださいよ。こいつずっとこれ食べるの楽しみにしてたんで」
「……じゃ、じゃあ」
そういっておばさんは使い捨てのお皿に小ぶりな饅頭を四つ載せて手渡してくれる。真っ白な饅頭に『神戟』と焼き印の入ったお饅頭。
「あ、そうだ。もしよかったらなんですけど、作り方とかって教えてもらえたりします?」
「そりゃあもちろん。ちょっと待っててね。今書いてもらうから」
そう言っておばさんは裏に入っていった。
タイミングよく、シーラは饅頭を一つ、んあっと口を開けて一口で頬張る。
モグモグと食べると、味がしないにも関わらず楽しそうに笑う。
「ふはっ、粘土を紙粘土で包んだみたい」
「それなにか楽しい?」
相変わらずの悪夢の食レポ。粘土があんこで紙粘土は皮か。
「リューズも食べな。温かいのがおいしい」
「あー、そうね。それじゃ俺も一つ」
出来立てらしくまだ温かい神戟饅頭。俺もシーラに倣って一口でパクリ。しっとりとしたこしあんと、それを包む微かな弾力のある皮。
「うん、うまい。つぶあん派の俺も納得」
俺の食べる間に、シーラは早くも二つめの饅頭を口に入れる。粘土入りの紙粘土と評したものをもう一つ口に入れる神経がいまいち理解できない。
「シーラ。一つ俺食べようか?」
「ん?ダメだけど。私の」
眉を寄せて俺を威嚇しつつ、隠すように皿を遠ざける。で、まだ口に入っているにも関わらずもう一つも食べる。無表情にもぐもぐと食べながらも、少し頬が膨らんでいてリスのようだ。
「三つもよく食うなぁ」
お茶を差し出してそう問うと、シーラは当たり前とばかりに即答する。
「だって四人で『神戟』でしょ?」
――言われるまで気が付かなかった自分が恥ずかしい。
だからシーラは最初から3個にこだわっていたのか。俺が1個で、シーラが3個。神戟は4人なんだから、饅頭も4個。とんでもない理屈だけど、妙に納得してしまう。
少ししておばさんがレシピを持ってきてくれた。
「ありがとうございます。神戟饅頭、すげぇおいしかったですけど一つだけ提案。小さくていいので四個ワンセットにしてもらえたりしませんか?」
それを聞くと、おばさんは嬉しそうに笑って頷いてくれた。
「あいよっ。あんたが次来るまでにはそうしておくよ」
それから俺たちは記念館を回る。シーラが意外にも熱心に展示物を眺めるので、気が付いたらお昼を過ぎていた。おばさんに4個セットの件をもう一度お願いするとともに、4個入りの饅頭を一つだけ捨てるとか、そんな新しいタイプの嫌がらせが生まれたら嫌だなぁと一人内心苦笑いをしつつ記念館を後にした。
日が落ちて、夕暮れ過ぎを待って俺はまずレオンの家へと赴く。子供の頃、数えきれないくらい歩いた道のりは、大人になった今歩くと思いのほか近かった。
俺が町に帰ってきている事を聞いていた様子で、レオンの両親は俺の顔を見ても驚いた様子はなかった。
「12年間、逃げ続けてすいませんでした。俺一人、……生き残って申し訳ありませんでした!」
そう言って頭を下げた瞬間、バシッと衝撃が頭に響く。
「馬鹿な事言うんじゃない!なんで君が生きてて謝る必要があるんだ!頭を上げなさい!」
俺が泣く訳にはいかないから、涙は必死に堪えた。泣きたいのは、この人たちの方なんだから。
続いて、バルドの家。
「悪いなぁ、リュー君。……妻は会いたくないそうだ」
バルドと同じ金色の髪をした親父さんは、申し訳なさそうにそう言った。
「いえ、当然です。申し訳ありませんでした」
頭を下げると、親父さんの声がする。
「……英雄なんかじゃなくても、よかったんだよ。ただ、幸せに生きてくれれば」
15の時、パーティを組んで町を出るとき、最後まで反対したのはバルドの両親だった。
最後はマリステラの家。ここには、俺たちと15歳離れた彼女の妹・ミアリアがいる。俺たちは15歳で町を出て、ミアリアはその年に生まれた。それになんの意図があるのか、ないのかは、彼女たちの両親にしかわからない。代わりだろうか?それとも、帰ってきてほしいからだろうか?
だから、と言う訳ではないけれど、俺たちは毎年一回・ミアリアの誕生日だけは絶対に町に帰るようにしていた。年に一度、一週間の間だけだけど。1歳から10歳まで、一年に一度、まるで自分の兄弟のようにその成長を喜んだ。
ドアをノックすると、ミアリアが出た。マリステラと違い、茶色の髪をしたミアリアは表情を変えずに小さくため息をつく。
「パパとママには会わせたくない。消えて」
その場から動かない俺に冷たい視線を送りながら、ミアリアは言葉を続ける。
「あんたを許してるパパとママなんて見たくないから消えてって言ってんのがわかんない?私からまだ何か奪おうとしてんの!?ねぇ!?」
「俺は、……お前と話しに来たんだ。場所を変えて少し話せないか?」
話すことなんてない、と言われると困るところだったが、ミアリアは腕を組んだままコクリと頷く。
「いいよ。私だってあんたに言いたいことが山ほどあるから」




