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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と、味覚ゼロの最強少女の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
味を知らない少女と死ねない男

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16話 初任務② 常識と解釈

 早い朝食を食べてすぐギルドに行き、そこから竜馬で90分。昼前にはブナエラ村に着いた。


「なんとかお昼ご飯には間に合いそう」


 シーラさんもやる気十分だ。ビッグボアさんには同情しかない。だけど、お昼はさすがに無理だろうよ。


 ギルドは主要都市にしかないので、到着の報告と依頼内容の確認は村長宅で行う。


「えっ!?……シルヴァリア様と、リューズ……様!?」


 村長はシーラと俺を見て冗談抜きで腰を抜かしてひっくり返ってしまう。


「えっ……、えぇ!?発注ミス……しましたか!?S級の方の報酬なんて、とてもじゃないけど払えませんよ!?」


 冒険者以外だと俺の悪名は知っていても、等級は意外と知られていない様子。

「あ、俺の事知ってるんすね。嬉しいなぁ。でも、ご安心を。俺今F級なんですよ、様とかいらねぇっす」

「F級……」

 それを聞いて村長は少し安心した様子を見せた。

「で、でもシルヴァリア様は……」

「リューズ、もういい?早く。逃げちゃうよ」


 シーラはそわそわと俺の袖を引き、屋敷の外を指し示す。


「まぁ、色々ありまして。新しくパーティ組んだんでF級なんです。『三食昼寝付き』」

 うっかり言い間違えると、シーラがむっとした様子で、腕を組んだまま俺の足を軽く蹴ってくる。

「おやつ。三食おやつ付き」

「おっと、失礼。『三食おやつ付き』っす。今後ともごひいきに」

 にこやかにパーティ名を紹介するも、村長は全く理解できずに困惑した表情を見せる。

「三食……?昼寝?おやつ?」


「ちなみに、イノシシ料理でなんかおすすめのレシピってありますかね?」

「リューズ」


 ウサギが威嚇するように足をタンタンと鳴らしてシーラは俺を催促する。

「はいはい、今行きますよ」

 ペコリと一礼をして屋敷を後にする。と、その前に一度振り返りニッと笑う。

「今日中には片づけちゃうんで。安心して待っててください」


 さて、まずは被害現場。


 村のはずれに広がる芋畑。見るも無残に掘り返された紅色の甘藷と巨大なイノシシの足跡。


「あらら、甘藷じゃん。もったいねぇ」

 食い荒らされた芋を手に取り眉を寄せると、隣でシーラも苦々しく眉を寄せている。

「それか~。茹でると粘土みたいになるやつだ」

「はは、粘土て」

 完全に味覚抜きの食感のみでのシーラの食レポ。笑いごとではないとは思いながら、つい笑ってしまう。

「じゃあ、今日のおやつはスイートポテトに決まりだな」

「甘い……芋!?芋なのに!?」

 珍しく言葉に力を感じる。俺は勿体ぶってニッと笑う。

「その通り」


 期待に目の奥を輝かせながらも、口の端に少し疑いが見える。

「……甘い粘土、じゃなくて?」

「おう。あえてハードルあげてやる。かなり、うまい」

「かなり、か」

 短く答えてシーラは満足げに口を結ぶ。


「それにしても勿体ねえな。結構な高級品だぞ、甘藷」

 畑にしゃがみこんで足跡を眺めつつ、切れた蔓や食い散らかされた芋を手に取る。いつの間にかシーラも隣にしゃがみ込んで同じように甘藷を手に取って眺めている。

「治せばいい、リューズが」


「え?」

 予想外の言葉に間の抜けた声を出してしまう。すると、シーラは傷ついた芋を俺の眼前に突き付けて復唱する。

「治せばいい。リューズが、芋を」


「はぁ!?植物だぞ!?そんな事……」

 と、言われて改めて考えてみる。治癒魔法は魔力を通して身体の治癒再生の促進を促す魔法。治せる対象はもちろん生きているもののみ。死体には効果はない。


 ――だけど、植物には使えないと誰が決めた?


 気づけば顎に手を当てて理論を当てはめ、可能性を模索していた。切れた蔓を手に取り、目を閉じて生命力の流れを感じ取る。目を閉じたまま、大きく息を吸い込み、長く吐く。はき終わると、思わず引きつり笑いが顔に浮かんでしまう。


「【治癒(ヒール)】」


 つい無詠唱で行った治癒魔法。癒しの光は放射状に蔓から蔓へと波及していく。切れた蔓は、破れた葉は、欠けた芋はみるみるあるべき姿を取り戻していく。まさに『繁栄』を絵にかいたようなその神話的光景。

「……天才かよ」


 年甲斐もなく、ぶるりと身体が、心が震えてしまう。

「自分で言う?」


 パチパチと小さく拍手をする素振りをしながらシーラが呟く。

「いや、お前が。何食ったら植物に治癒魔法使うなんて発想が生まれんだよ」

「ん?粘土じゃない?」

「ははは、じゃあ粘土に感謝しなきゃな」


 魔法で治癒された芋を手に取り、太陽の光に掲げてみる。

「これ、結構革命的なんじゃないか?」


 例えば、半分食べて治癒。二つに分けて治癒。割と真剣に食糧問題に一石を投じてしまいそうな予感がした。


「あ、いいこと思いついた」

 天才・シーラさんに再び天啓が舞い降りる。

「今度はなんだ?聞かせてくれよ、天才の発想を」


 褒められて気をよくしたシーラは、しゃがんだまま指を二本立てて得意げに口を開く。

「イノシシ、二つに分けて治せば二つになる」

「悪魔的発想!それは人として超えちゃいけないラインだろ!?」

 てっきり褒められると思ったのか、シーラは困惑した様子で眉を寄せる。

「え、ダメ?」

「ダメダメダメ!ダメ、絶対!」

「そっか」


 倫理的な問題に触れそうな気もするから、とりあえず植物治癒は別魔法とかで逃げ道を作っておいた方がいいかもな。人と魔力の流れが違うし、量も微弱だから誰にでも出来るとは思わないけど、教会からつつかれても嫌だし。


「とりあえず芋の件は終わり。夕食ボアにしたいから早めにケリつけようか」

「賛成」


 力強くシーラは頷く。


 ビッグボアは夜行性寄り。鼻が良く、遠く離れた作物の臭いもかぎ分け近づくことができると言う。

「ちょっと失礼」

 俺は両手に畑の土を取り、そのままシーラにつけようとする。

「汚な。触んな」

 シーラはすいっと最小限の動きで俺の手を避ける。

「あのな。嫌がらせとかじゃなくて、ボアは鼻がいいから人間の匂いとか鉄のにおいがすると姿を現さないかもしれないだろ。だから、身体に畑の土をつけて人間の匂いをだな」

 俺の説明の途中でシーラは納得したように頷く。

「あぁ、加齢臭ってやつか」

 その言葉のナイフは見事に俺の心を両断する。

「違う……、そうじゃない。そうじゃないんだけど……」


 違う、と自信をもって断言できない37歳男性の弱み。きっとお前にはわかるまいよ。


 



 


 

 

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