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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
味を知らない少女と死ねない男

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15話 初任務① 冒険の理由

 ――翌日。街の目抜き通りから少し離れた安宿。


「朝だよ、おはよ。ごはんだよ」

 

 朝からなぜかシーラに叩き起こされて、朝食の催促をされる。今日はこれからギルドに行く予定だ。


 隣の部屋の音が聞こえるくらい壁の薄い安普請。ベッドの下に埃がうっすらと積もる安宿はF級冒険者にとっては非常に居心地がいい。


「つーかさ、安宿とは言え鍵掛けてたんだけど」

 白い眼を向けて遺憾の意を示すが、シーラには遺憾砲は通じない様子。

「ん?普通に鍵貸してくれた。リューズの部屋行きたいっていったら」

「……セキュリティもくそもねぇな」

 で、厨房と食材を借りて朝食を作って食べた、との流れだ。ちなみに今日の献立は朝食らしくベーコンエッグと白いご飯。レタスも俺がちぎれば食べられるらしく、シーラの感想は『葉っぱじゃん』だった。


「卵、好き」

 道すがら、シーラが短く呟いた。

「さようでございますか」

「ふふ、あと三回も食べられる」

 シーラは指折り数えながら、あまり表情を変えずながらも嬉しそうに笑う。三食おやつ付き。

 

 『生まれつき』味がしないと言っていた。だから、きっとそれは【祝福】の影響とかではないのだろう。そして、なぜ俺が手を加えた料理だけ味がするのか。運命、だなんて安っぽい言葉を使うつもりはサラサラない。今考えてもわかるはずがない。


 そんなやり取りをしているとギルドに着く。

 

「さて、記念すべき初任務を選ぼうぜ。一応聞くけど、どれがいい?」

 ギルドを入ってすぐの壁が掲示板になっていて、等級ごとに色分けされて張り出されている。自分の等級の上下一つまでが任務を受けられる範囲なので、最下級であるF級パーティである我ら『三食おやつ付き』の受けられる任務はE級とF級という事になる。


「どれでも――」


 一応顔を上げて掲示板に目をやりながら、おそらく『どれでもいい』と口にしかけたシーラは急にハッと目を開いて掲示板に顔を近づける。

「これ。イノシシ。やりたい」


「ほぉ、じゃあそれにするか」

 依頼内容はダンガロから少し離れた田舎町。農作物が大型のイノシシに被害に遭って困っているそうだ。このイノシシは魔物ではなく、おそらくは只の動物。ダンジョンで生まれ、身体に魔石を持つものが魔物、それ以外は動物。それがこの世界の一般的な分類。


「成功報酬で5万ジェン。いいか?」

「なんでもいい」

 今までS級の任務をこなしてきたシーラからすれば、桁が二つは違うだろうに一切の躊躇いもなくシーラは頷いた。

「オッケー。じゃあこれ受託するか」

「早く行こ」


 俺の服を引いて任務を催促するシーラ。稀にみる積極性。

「……あ、わかった。駆除したイノシシ食べたいんだろ」

「牛と、鳥は食べたからね。ふふ、どんな味かな」

 シーラは未知の味に思いを馳せて少しだけ口元を緩める。

「お、シーラさん。こっちは盗賊だって」

 冗談で依頼書を指さすと、眉を寄せて一歩俺から距離を取る。

「え、人はちょっと」

「食わさねぇよ?」


 一応最低限の常識はお持ちのようで、なんだか嬉しくなる。


 依頼書を受け付けのビスカへと持っていき受諾手続きを行う。

「依頼場所はブナエラ。任務は畑を荒らすビッグボアの駆除。報酬は成功報酬で5万ジェン。交通費は自費です。それ以外の細かい条件は現地にて相互に確認してください。相違なければ依頼書にギルド証をかざしてください」

 先日とは違い、事務的に手続きを行う知的眼鏡美人のビスカ。言われるままに依頼書に左手首の腕輪をかざすと、依頼書と腕輪の両方がほのかに光を発する。それが受諾契約完了の合図だ。


「それでは、F級パーティ『三食おやつ付き』の初任務。どうか、無事にお戻りください」

 そう言ってビスカは丁寧な所作で俺とシーラに頭を下げて見送った。


 歳を取ると、たったそれだけでもう目頭が熱くなってしまう――。



 ブナエラ村までは乗り合い馬車で約半日。高速馬車だと5時間。一番速い竜馬(りゅうば)を使えばわずか90分で着く。但し、当然ながら値段が違う。乗り合い馬車は一人5000ジェンほどで乗れるが、竜馬は一頭5万ジェンはくだらない。


 竜馬は馬よりも高速でスタミナもあり、知能も戦闘力も高い。完全上位互換と言える。ダチョウの様に二足歩行で、鱗混じりの身体に羽毛が生えている。強い意志を感じるギョロリとした目とクチバシが特徴的。二本の脚と太い尾で身体を支えており、高速移動時には尾を立てて走る。


 で、シーラは迷わず竜馬の貸し出し場へと向かっている。

「……えーっと、シーラさん?5万ジェンの仕事に10万ジェンかけるやついる?」

「いる。私」


 今までの様子を振り返ってみればすぐにわかることだが、どうやらシーラは金の為に冒険者をやっている訳ではない様だった。


「お前は、なんで冒険者なんかやってるんだ?」


 断腸の思いで竜馬代を払い、ブナエラ村まで向かう道すがら。世間話がてらシーラに問い掛ける。――すると、予想外の反応が返ってきた。


「お墓がきれいになるんだ。活躍すると」


 そう言ってシーラは、本当に嬉しそうに、誇らしげに、柔らかな表情で笑った。


 その表情と、言葉と、内容がいまいちかみ合わず、愚鈍な俺は首を傾げて聞き返すことしかできなかった。


「お墓?」


「うん、お母さんの」


 一切の悲壮感なく、シーラは言葉を続ける。


「私が活躍すると、きれいなお花が添えられたりするんだよ」


 シーラの実家は公爵・ドラッケンフェルド家。特別なご褒美の様に、本当に嬉しそうに語ったシーラを見て、俺は腹の底からふつふつと怒りが湧いて出てくる。――墓なんてそれが当たり前だろ?しかも公爵家で、奥さんの墓だろうが!?喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、俺はにこやかな笑顔で頷く。


「へぇ。いつか俺もご挨拶に行きたいもんだね」

「いいよ、おいで」


 6年前にお母さんは病で亡くなり、それからシーラは冒険者になったらしい。公爵家の娘が?11歳で?


 繋がっているようで、まるで繋がっていない昔話を、シーラはなんてことはない風に話してくれた。言いたいことも、聞きたいこともたくさんあったが、今は飲み込んでおこう。


「……絶対許さねぇ」


 気づけばギリっと歯ぎしりをしていた。


「ん?私を?」


 その言葉でつい口から言葉が漏れていた事に気が付く。


「あ、いや。独り言。おっさんになると独り言増えちゃって困るよな、ははは」

「へぇ」


 シーラが若干哀れみの目を俺に向けてきたのが心外だったが気にしない。そうこうしているうちに竜馬は目的地に到着する。さぁ、初任務の始まりだ。


 

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