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第十話(7)

 棒倒しの棒が折れるというハプニングはあったものの、体育祭は順調にプログラムを消化していた。

 応援合戦やら、ノータッチの種目は見物していたが、竹内や篠原千夏が頑張っていた。体育祭実行委員はいろんな催しに駆り出されて大変そうだ。

 そしてただ今の得点は、生徒会長一ノ瀬真白が率いる白組が一位。

 我らが赤組は……赤マッチョ先輩が張り切っていたけど、俺には関係ない。無事に終わればいい。ほんとうにそう思っているが、一応言っておくと二位だ。

「春詩くん、私の組が勝ったら、一つお願いを聞いてください」

 昼食を終えて、競技役員テントに戻る真白が、そんなことを言ってたっけ。

 俺が出る残り種目は、騎馬戦のみ。なにができるっていうんだか。

 騎馬戦、体育祭団体種目の山場。それが終われば最終の総合リレーを残すのみだ。

 俺は騎馬の馬役。背中には体格の近い同じ二年が乗っている。馬の編成は、体育の授業で練習できるよう、学年ごとに分かれている。

 本当なら、莉緒と一緒の方が、心配が減るのだけど。

 青陵学園大騎馬合戦。

 四方の陣(各組のテント前)から鬨の声を掛け合って出陣する。ご近所さんも、これだけ見に来るお年寄りがいるくらいだ。昔は、大将役が本物の兜をかぶってたって聞いたことがある。

「葉月、たのむぞ! おれの八艘跳びを見せてやるぜ!」

 馬上の主が、あほなことを抜かしている。

 法螺貝の音(SE)が鳴り響いて合戦開始だ。

 ———さあ、体育祭恒例! 青陵学園大騎馬合戦が開始だ! 各色の大将騎も今年はド派手だ! 筆頭はなんといっても白組! 生徒会長であり白組団長、一ノ瀬真白が女子ながら大将として特別参加!

 放送ブースが派手にぶち上げてる。真白が騎馬戦メンバーに入ってるなんて、初耳だった。

 だがそんなことはすぐに頭の片隅に追いやられる。なぜって……。

 ———おおっと! グラウンド中央で早くも大混戦だ!

 MCの言う通り、俺たちは混乱の渦に飲まれていたからだ。

「そういえば、もう藤原とかいねえよな?!」

 馬上(俺たちの上)でご主人様が叫んだ。

「一ノ瀬副会長がなんとかしたんだろ!」

 叫びながら、右に青組、左に白組、正面は黄組を相手に大活躍だ。奪い取ったハチマキがすでに四本。こいつやるな、ご主人様。体育の授業で何度か一緒に練習したが、いまだに名前が覚えられない。

(りおは、平気だよな?)

 視界を広くとって探してみる。俺の視点が低くて見つからない。

 負けてもいいから、怪我なく終わってほしい。

 莉緒は、体が小さいから騎馬の上の役だったはずだ。

 大混戦は一度痛み分け状態で各組の騎馬が散る。本隊から切り離された何組かが包囲されて殲滅されていた。

 赤マッチョ大将が、集結の合図を叫んだ。

 ———さあ、赤組大将の村井伸太、全軍を集結させているぞ?

(そういう名前だったのか。赤マッチョ先輩)

 あのガタイで騎馬の上役とは、馬役が気の毒、と思ったが、体育会系のガチメンがガッシリ支えて余裕そのもの。その様は巨馬を駆る武者だ。一対一で向かいたくない。

(いた!)

 莉緒は赤マッチョ大将の後方に付けて、うまく立ち回って生き延びていた。

 集合の合図をいいことに、馬の頭役の俺は、なるべく莉緒と近い位置に移動する。こういう時は、馬役でよかった。だって、好きな方向に移動できるもんな。

「ようし、固まって突撃! まずは昨年優勝の黄色を攻めろ!」

 何の恨みか知らないが、赤マッチョ大将、黄色を目標に定めて突っ込む。この騎馬戦は、大将がやられた時点で組全体が負けになる。

 我らが赤組は苛烈に突撃。

 赤組は黄組のどてっぱらに突っ込む意図だったが、赤組も横合いから青組の先方に突っ込まれて、赤マッチョ大将が討ち死に寸前だ。

 青組の猛者数騎が、赤マッチョと後ろの莉緒に襲い掛かる。莉緒は、自分のハチマキを懸命に守ったが……。

 勢いあまって馬役同士がぶつかり合った。

 その瞬間が、俺にはスローモーションのように見えていた。

 馬役同士が転ぶ。馬役の背に乗っていた莉緒は、地面に勢いよく落ちた。

「りお!」

 叫ぶと、すぐに莉緒は手を振って応えた。莉緒たちは場外へ。丸尾くんが馬役だったらしく、付き添ってくれている。

 そう安心したのもつかの間、場外に出た莉緒がバタンと倒れた。

 ちょっと倒れ方がおかしかった。

「葉月? おい葉月! 顔真っ赤じゃねえか! 熱中症だよ、こんなもん着てっから……」

 そんな声が聞こえる。

 俺は馬上の主人をほっぽって、走り出した。 「お、おい!?」 背中の声を無視して俺は走る。

 熱中症は油断ならない。運動部の丸尾ならそう教育されているはずだ。莉緒の上着のジッパーを容赦なく下げる。男同士なら、なにをためらうだろうか。上着を開いて、風を扇いでやろうとしているのがわかった。その瞳が、何らかの驚きを表しているのもよく見えた。

 全て、悪意がないことも、わかってる。なんで、もっと近くに、俺は……! わがままでも不正でもいいから、俺が莉緒の馬役をやっていれば……!

 丸尾が悪くないのはわかってる。それでも俺は、後輩の手首を思いきり掴んで莉緒から引き離す。

「いっ、て!」

 丸尾が驚きの表情で俺を見上げた。

 莉緒の上着のジッパーを閉じて、俺は抱き上げた。

 尻もちをついた丸尾を見下ろした俺が、どんな目をしていたかわからないが、丸尾は何も言えずに固まっていた。


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