第六話(5)
ふう、俺はやり切った。
となりを莉緒が歩いてる。せっかくだからと提案して、さっき買った服をそのまま着て帰ることにしてくれた。
デニムパンツに、少し丸い裁断の襟付きのシャツ。ウェストを絞って、腰の高いところでベルトで留めて、足の長いスタイルの良さがありありとわかる。女の子っぽい体形は、少し隠してあげないと、莉緒は男子としてそこは恥ずかしいかもしれないので、薄手の生地の上着を羽織らせた。まあ、多分にスーパーモデルのマネキン様を参考にさせていただいたのだけど。
もし彼女がいて、買ってあげた服を着てくれたら、こんな気分だろうか? いや、莉緒にはぜったい言わないようにしよう。微妙な表現になっちまう。
雑貨スペースに戻って、きょろきょろとりこを探すと、ジャージ姿の男子たちに、りこが囲まれていた。
(!……)
俺は早歩きでりこの方に向かう……が……ん? あのジャージは、りこの学校のデザインだ。
雑貨の商品棚の影から、りおの背後に回って、客のふりをして様子を窺う。
「葉月、男バレ、明日練習試合なんだ」
あ。俺はすぐに分かった。彼が、あの勇吾くんだ。短髪のさわやかスポーツ少年。りこの練習試合で、一生懸命声援を送ってくれたやつ。見覚えがあった。とみちゃんとりこの会話で感じた勇吾くんのイメージがなじむ容姿だ。
「う、うん。全国大会でベスト4の学校がくるんだよね。知ってるよ」
「応援に来てくれよ……あ! でも、葉月がまだ休養中なのはわかってるから、無理はしなくていいんだけど……観てくれたら、頑張れるから……」
勇吾くんは、言ってから自分の言葉を思い返して、言い直した。
「いや、だれが見てなくても、俺は頑張る。ただ、葉月が応援してくれたら、応援してくれるだけで、俺はうれしいから。もっと頑張れるって思うのも、うそじゃないよ」
(ああ、こいつは、いいやつ……っぽい)
勇吾くん、身長は中三にして、俺よりすでに高い。そこだけは気に食わなかったが、たぶん、彼はりこのことが好きなんだろう。でも彼の言動はとても正直で、嫌悪は無かった。
俺は、莉緒に手招きして、離れた所で話が終わるのを待つことにした。莉緒がうなずく。
二人で休憩スペースの長椅子に座って、無言の時間を過ごした。
身振り手振り、勇吾君が一生懸命話している様子が見える。周りの男子もフォローしていて、会話は盛り上がってるみたいだ。十分くらいは話していただろうか。
りこが手を振って男子たちと別れるとこちらに歩いてきた。
「あ、はる兄、りお兄! 待たせちゃってた? ごめんね」
「ううん、いいよ。休憩してたから」
莉緒が返す。
「りお兄、その服、素敵だね!」
「うん、兄さんが選んでくれて……そう言ってもらえてうれしい」
そこで、りこが何か重大なことに気づいた、という風に顎に手をやった。
「あれ? おかしいな、兄さんって……ひょっとしてセンスいいの……かな」
うーん、兄のイメージが狂う、とかなんとか、りこが呟くので、三時のおやつは抜きな、と宣言しておいた。
「うぇぇぇ、ずるいよ! 母さんのお金でしょ~」
やっぱり、りこがいると賑やかだな。
喫茶店で、りこがパフェをモリモリ食べるのを莉緒と眺めてから、俺たちは家路についた。
ちなみに余禄だが、家に帰った莉緒の服装をみた母さんの反応は以下のとおり。
「良いじゃない、その服。ハルもたまにはいい仕事するわね」
「たまじゃないだろ」
母に突っ込みを入れておいた。




