元娼婦のセカンドキャリア
元娼婦のアーデンのその後です
R15です
お仕えしていた方が亡くなった。
一緒に暮らした期間は約2年。
暮らしはじめた時から、彼は麻薬中毒で廃人同然だった。あまり会話は成り立たなかったが、いないと寂しい。とても寂しい。
愛人兼世話人としての仕事は終了した。
私は20代半ばだ。余生を送るのには長い。
この別荘も頂いて、口止め料込みの手当ては潤沢。平民として生きるには十分すぎる財産だ。
彼が亡くなってしばらく呆けていたが、すこしずつ現実に戻ってきた。
つまり、退屈だ。することがない。
平民だったり娼婦だったり世話人だったり、ずっと忙しくしていた。
今さら娼婦に戻るのも年齢的に厳しいし、他の仕事はほとんどしたことがない。
商売を始めるほどの資金はない。
恋愛や結婚は無理だろうしなあ。
「ご結婚ですか。おめでとうございます。」
お嬢様が別荘にお越しになって、お話をしていた。お父様の葬儀以来、3ヶ月ぶりにお会いした。
側にぴたりと付き添っているルーカスさんの顔を見る。表情は変わらないけれど、彼はそれでいいんだろうか。
恋人同士の空気が漂っているのだが。
「お姉様、ブランデル伯爵とご縁があって。来年結婚する予定なの」
ブランデル伯爵子息のお相手はしたことがある。マナーの悪い男だったとだけ言っておく。あんなのか。
「お姉様だなんて。お嬢様、あの、ブランデル伯爵はかなり年上だった記憶があるのですが。」
40歳代くらいだった気がする。
「お祖父様くらいのお歳ね」
まさかの父親の方だった。
お嬢様のことだから、何かの理由があるはず。お嬢様とルーカスさんを見比べる。
うーん。聞いていいものだろうか。
「それでね、お姉様。ご不快なら断って頂いてかまいません。わたくしに閨教育をお願いしたいのです。母がいなくて、受ける機会がございませんでした」
お嬢様は頬を赤らめて言った。可愛い。
「もちろん、私で良ければお引き受けします。もうひとり、した方がいいですか?」
ルーカスさんと目が合った。
彼の肩がびくっとはねた。
「した方がよさそうですね」
「それで、どの程度しましょうか。座学はご一緒に?実技もご一緒に?」
私は全開の笑顔で聞き、ふたりとも真っ赤になった。からかい甲斐がある。
「大事なのは相手への気遣いです。デリケートな部分を触るので、絶対に痛くしないこと。事前の歯磨き、入浴をできるだけすること。体の洗い方はまた後で言います。相手の体を変な角度に曲げない。相手の嫌がることをしない。」
真面目にノート取ってる。真面目だ。
「特に男性ですが、手足の爪は切り、やすりをかけて下さい。髭は痛くないように整えること。」
とりあえず、自分が相手に要求する最低限のマナーなどを教えることにした。
思っていたより楽しい。私は、子どもの頃に家が没落したので基礎的な教育しか受けていない。私はもっと勉強したかったのか。
実技はどうしようか。
「この体位ですが、視覚的効果が高いので喜ぶ男性が多いです」
「こういったことは一般的ではありませんが、する方もいます。絶対に歯をあてないように」
男娼を呼び、下着姿で講義することにした。最初は目を逸らしていた2人が、段々真剣になっていく。気づいたらわりと上級者な内容になってきた。いいのだろうか。
男娼が続きをしたいと訴えているが知らない。
「お姉様、ありがとうございました」
「お役に立てたら嬉しいです」
その後、お嬢様を通して数名の方に閨指導をした。匿名の方が多く、女性だけ、男性だけのこともあった。男性だけの時は護衛を入れた。お嬢様の評判が落ちるので、依頼者との実践はしなかった。
「アーデン先生、わたくしね、女は寝て身を任せろ、って教えに疑問があったのです。」
とある貴族の奥方から言われた。
「何も教えられず結婚して、夫からつまらない、下手などと言われました。」
「夫人。教えられなかったものは仕方ありません。純潔で結婚しておいて閨の上手さを求めるのは間違っています。私の個人的意見ですが、夫人はセンスがあると思います。」
「センス?」
「ええ。閨事にも才能というものはあります。相手の反応をみて、それに応じることなのですから。夫人はもっと伸びるお方です」
「まあ。うふふ」
閨指導は好評だった。
『アーデン先生』宛に感謝の手紙が届く。
その後は口コミで仕事が舞い込んだ。
一部の貴族から、裕福な平民、新人の男娼、娼婦の指導など仕事の対象は広がっていった。現在は指導の合間に、教育内容を執筆している。
私の寂しさは少しまぎれた。
そして、あの人を廃人にした罪悪感も。
海を見下ろす丘の上に、小さな墓碑があった。前伯爵のお墓とは思えないほどひっそりとしている。私はお花を供えて語りかける。
語りかける内容は秘密だ。
R15大丈夫ですよね
一応削りました
アーデンさんは数十年後に「女性解放の母」みたいな石像が立つと思います。没にしたifルートでは、鹿を投石で仕留める女傑になってました。