9話(「ありがとう」って言えなかった) ※アニメは全10話です
第9話『ありがとう、って、言えなかった』
『彼女のいない世界で』
あの子が消えてから、勇者は、何度も故郷の村を訪ねた。
けれど、誰も彼女の家を知らなかった。どこに住んでいたのかさえ、誰一人――。誰に尋ねても、怪訝そうな表情で首をかしげられるだけ。
「……え? あの子? この村の子じゃないと思う、けどねえ……」
「なのにいつも一緒にいて、どこの子なんだろう、って言ってたんだよ」
いつも、1日中遊んで、夕方には、手を振って、別れていたあの子。あの子は、いったい、どこに帰っていたんだろう。……「一番近くにいたはずの自分が、何も知らなかった」。その事実に突きつけられるたび、胸がひりついた。――あんなに、隣にいたはずなのに。
だから、旅をもう一度繰り返すことにした。1人でも。
出会いの場所、笑い合った街、空を見上げた丘。
でも、どこにも、彼女の痕跡はなかった。
風の匂いにも、木々のざわめきにも、もう彼女の声は混じっていない。
それでも、旅の途中、ふとした瞬間に、背中に手を振るような気配を感じることがある。
振り返っても、誰もいない。
――それでも、彼は信じている。
あの子は、どこかにいる。
きっとまた、笑ってくれる。「えへへ〜、助けられてよかったな〜って思ってたよ〜」と。
その日が来るまで、彼は歩く。彼女に“ありがとう”を伝えるために。
『空』
剣士が空を見上げるようになったのは、彼女の魔法で一度だけ空が晴れた夜のこと。
星が、果てしなくきらめいていた。その空を見ながら、彼女が言った。
「剣士さん、空が好きなんですね〜」
ほんの些細な会話。でも、あの夜空は彼にとって、忘れられないものになった。
けれど今になって、知ってしまった。
あの魔法には、彼女の寿命が込められていたことを。
その瞬間から、空は「美しいもの」であると同時に、「犠牲の上に成り立っているもの」になってしまった。空を見るたび、胸が痛んだ。
それでも、彼は、空を見上げることをやめられなかった。寿命の話を知った今も、あの日の気持ちを消すことができなかった。あれが寿命を削って起こした魔法だったと知っても、彼は思ってしまう。
あの夜の星空は、本当に、綺麗だった。
その思いが、彼を縛る。
だから、彼は空を見ることをやめない。
忘れられないから。
けれど、それを誰にも言えないから。
「……俺は、結局、変われないままなんだな」
呟いた言葉は誰にも届かず、空へと吸い込まれていく。
今夜もまた、剣士は空を見上げる。
そして、小さな声で、誰にも聞こえないように呟いた。
「また……見せてくれるか?」
星が、ゆっくりとまたたいた。
『あの子と白百合の庭』
王女には、内緒の場所がある。
王都の中庭に、白百合が咲く場所。
あの子が一度だけ「この花、王女様みたい」と言ってくれた花。
この場所を見たとき、「あの子が咲いてる」って思った。
思ってしまったんだもの。
それくらい、優しくて、眩しくて――それなのに、何も気づけなかった自分が悔しい。
「無理はしないこと」なんて、王女は言った。
まるで理解しているような顔をして。
でも本当は、何も知らなかった。知ろうともしなかった。
たとえばあのとき、もっと強く言っていれば。
たとえばあのとき、ほんの少し手を伸ばしていれば。
想像の中で、何度も、何度も、彼女に手を伸ばす。
けれど、どの夢でも、彼女は背を向けて、遠ざかっていく。
「私、気づけたはずなのにね」
誰にも聞こえない場所で、王女はそう呟く。
政務の合間、白百合の咲く場所を訪れるのが習慣になった。
彼女の好きだった香りを持つ紅茶を、小さなカップに一杯だけ。誰も座らない椅子の向かいに置く。
それを黙って見つめていると、涙が出ることもある。でも、その涙が誰のためのものか、自分でも、もう、分からない。
ときどき、無意識に紙に文字を書く。「ありがとう」と、「またね」を。
そのたびに、ペンを置いて立ち上がる。書いたものは破る。燃やす。残さない。
だって――言えるわけがないのだ。
言う資格が、自分にあるはずがないのだから。
それでも、春が来れば、白百合は咲く。
あの子のように、明るく、まっすぐに。
「……どうか、誰にも咲き方を教えないで」
王女はそう願って、風に消えた白百合の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
* * * * * * * * * * * *
【逃げる魔法使い】第9話実況スレ【ありがとう、って、言えなかった】
1:風の名無しさん
開幕から、何この静けさ…… なんか、空気が違う
6:風の名無しさん
勇者が故郷に戻ったけど、誰も……誰も魔法使いちゃんのこと知らないって……
12:風の名無しさん
思ってた以上に、何も知らなかったんだなって気づかされるのきつすぎる
17:風の名無しさん
一番近くにいたって、思ってたんだよな
こっちも……
22:風の名無しさん
思ってただけでしたね……
28:風の名無しさん
やめろやめろ
34:風の名無しさん
え?
魔法使いちゃん、どこの子だったの……?
いつも別れた後、どこに帰ってたの……?
40:風の名無しさん
“村人の誰も知らなかった”っていう演出の静けさ、えげつない
47:風の名無しさん
村人たちの「怪訝な顔」の演出、地味に効く
54:風の名無しさん
いや勇者!! それでも信じろ!!!
魔法使いちゃんは絶対いるって俺たちは知ってる!!!
61:風の名無しさん
勇者があのあと旅を繰り返してたっていうの、ほんとズルい演出
もう会えないってわかってるくせに、止まれないのが刺さる
67:風の名無しさん
勇者がまた歩き出したとこ、無言で涙出た
止まることすら許されないのズルいだろ
73:風の名無しさん
誰もいない町を歩いてる勇者の足音だけのシーン
もう心臓に悪いんだよ……
80:風の名無しさん
「風の匂いにも、木々のざわめきにも、彼女の声は混じっていない」ってナレーション
その言葉が一番“死”を感じた
86:風の名無しさん
それでも、背中に誰かが手を振ってる気配
幻覚でもいいから、見てる自分も振り返っちゃったよ……
93:風の名無しさん
「ありがとうって言えなかった」っていうのが、全視聴者の気持ちになってる
99:風の名無しさん
勇者が立ち止まって、でもまた歩き出すの、ほんと“儀式”に見えた
105:風の名無しさん
勇者、メンタルよく持ったな
俺なら5分で泣き崩れる
111:風の名無しさん
剣士のターン入った時点で即死した
117:風の名無しさん
「空を見上げるようになったのは、あの夜の魔法がきっかけ」
その一言が痛すぎる
122:風の名無しさん
あの時、魔法使いちゃんは何も言わずに雲を散らしたんだよね
剣士、あの子が魔法使ったの知らなかったのに……
ああそうか日記か
128:風の名無しさん
それを知ったあとも、空を見上げるのをやめないのが、ほんとに刺さる
133:風の名無しさん
空の綺麗さが、むしろ痛いんだよな
139:風の名無しさん
「美しいもの」と「犠牲の上に成り立つもの」が両立してる空
あの矛盾の中に立ってる剣士がかわいそうで……
146:風の名無しさん
「変われないままなんだな」って、あの冷静な剣士の独白
妙に人間くさくて泣けた
152:風の名無しさん
剣士さんさあ!! そんな言い方しかできないのお前!!
158:風の名無しさん
「また……見せてくれるか?」って
この願いが、言葉として一番やさしかった気がする
163:風の名無しさん
あの声、小さすぎて泣いた
168:風の名無しさん
星がまたたいたとき、こっちも一緒に祈ってた
174:風の名無しさん
「誰にも聞こえないように呟いた」って、剣士が一番“弱音”を見せた瞬間だった
180:風の名無しさん
王女様の「白百合の庭」エピ、開始0.5秒で死亡確認
186:風の名無しさん
王女様が“内緒の場所”を持ってたって、それだけで泣いた
192:風の名無しさん
あの子が「この花、王女様みたい」って言った白百合を、ずっと見てたって……
197:風の名無しさん
「あの子が咲いてる、って思った」
いや、もうそこが墓標なんだよ……
200:風の名無しさん
「思ってしまったんだもの」って声がなんか……むり……
202:風の名無しさん
紅茶を一杯だけ淹れて、誰も座らない席に置いてるの、心臓止まりそうになった
208:風の名無しさん
言葉にしない弔いの仕方が、王女様すぎて逆に苦しい
214:風の名無しさん
「自分に言う資格はない」って
そんなことないよ……
219:風の名無しさん
王女様!
君も探しに行こう!
225:風の名無しさん
政務があるんだよ……
それすら捨てられない立場なんだよ……
231:風の名無しさん
無意識に「ありがとう」と「またね」を書いて、破ってるの
泣くしかなくない??
237:風の名無しさん
言葉じゃ届かないから、手紙にもできない
破って、燃やして、なかったことにして、それでも消えないんだよ……
242:風の名無しさん
言わなかった「ありがとう」が、一番強い“愛情”だったんだと思う
247:風の名無しさん
王女が「誰にも咲き方を教えないで」って願ったの
あれ、“あの子みたいな子がもう出てこないでほしい”って祈りに聞こえた
255:風の名無しさん
誰も前に進めてないのに、それでも歩こうとしてるのがほんと無理……
260:風の名無しさん
3人とも別々の場所にいるのに、ずっと同じもの見てるのが苦しい
265:風の名無しさん
再会しようとする話じゃないんだな
“それでも想ってる”だけの話なんだ
270:風の名無しさん
忘れられないって、こういうことなんだろうな……
275:風の名無しさん
探してるんじゃなくて、“見つからないまま”でいようとしてるようにも見えた
280:風の名無しさん
どこかで、彼女の不在が“日常”になってるのが怖かった
285:風の名無しさん
これ、もう全員が“喪失したあとをどう生きるか”の話じゃん……
290:風の名無しさん
魔法使いちゃんが戻ってきても、前と同じには戻らないって
誰より彼らが分かってる感じがした
295:風の名無しさん
これが続きじゃなくて“続けてるだけ”っていうのが一番きつい
300:風の名無しさん
誰も「忘れないでいよう」とは言わなかったのに、誰も忘れてなかったのがすごかった
305:風の名無しさん
それぞれの過ごし方が、彼女のことだけちゃんと残してるのが泣けるんだよ
310:風の名無しさん
“その後の物語”をこんなに静かに見せられるとは思わなかった
315:風の名無しさん
全10話だろ?
最終話の前にこれ見せてくるの、ほんとずるい
構えてないところに刺さってくる
320:風の名無しさん
再会フラグも救済もないのに、希望だけはずっと消えてない感じがしてつらい
325:風の名無しさん
あの子の手がもう届かないって、全員分かってる演出だった
でも、振り返ってしまうんだよな……
330:風の名無しさん
最終話「また、どこかで」って……絶対再会しないじゃん
え? 魔法使いちゃんもうパンもちもちしてくれないの?
335:風の名無しさん
目を覚ませ、ちゃんと今週もいただろ
勇者と2人で旅して、剣士と一緒に空見て、王女と庭でお茶してただろ
340:風の名無しさん
お前が目を覚ませ
345:風の名無しさん
いたじゃん
ちゃんと、いたじゃん!!!!!!!!
350:風の名無しさん
画面にも、音にも、何にも映ってないのに
ずっと、あの子がいたじゃん!!!!!!
355:風の名無しさん
次回、最終話『また、どこかで』
358:風の名無しさん
最終話? え? この流れで?
360:風の名無しさん
絶対幸せにならないやつですやん……
365:風の名無しさん
もう諦めよう
みんなの幸せな旅はあの宴の日に終わったんだよ
366:風の名無しさん
無理無理無理無理無理
まだいける! ここからでもハッピーエンドいけるって!
ほら頑張ってみよう! 諦めんなよ!
370:風の名無しさん
ここで言うな
いちおうアニメは10話設定ですが、アニメ終了後にも少しだけいくつかのスレの話とエピローグがあります