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(書籍発売中!)逃げる魔法使い 〜寿命を削って魔法を使っていただけなのに、なんだか周囲の様子が変です〜  作者: うちうち
本編

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(特別編③)気が合うきっかけの多くは、好きなものが同じだということらしい

 こうして、私の入学試験は無事に終了した。

 疑惑の判定ではあったが、ともかく、合格は合格である。


 教師の手元にある私の成績表がちらっと見えたけど、なんだか大きな×がついていた気がする。目の錯覚かな。


 いちおう、私も何を隠そうずっと昔の卒業生なのだが……。留年しかけたけど。毎回、試験勉強に付き合ってくれた友人がいなかったらたぶん卒業できなかったけど。そう考えると、試験成績は妥当な気もする。






 ともかく、私たちは上級生に案内され、女子寮へ連れていかれた。


 女子寮は、学校本体の端に、寄り添うように建っていた。


 寄り添う、といっても小さいわけではない。白い石でできた四階建ての立派な建物で、壁には蔦が絡み、窓辺には小さな鉢植えが並んでいる。玄関脇の掲示板には紙が何枚も重ねて貼られていて、校舎とは違う、人がちゃんと暮らしている建物の匂いがした。洗いたての布と、石鹸の匂い。






 そして、廊下の窓から見える学校本体は、もっとずっと大きかった。


 山肌に沿っていくつもの校舎が折り重なるように並び、そのあいだを白い回廊が空中でつないでいる。丸い訓練場、細い塔、ガラス張りの温室、何階あるのか分からない図書棟。さらに上へ行くほど建物の形は古くなり、雲に近いところには、今はもう使われていないらしい上層区画まで見えた。上層区画は昔のままだけど、他の場所は相当拡張されている。まあ、私が通ってたのも500年以上前だし、当たり前か。





 隣で歩いているテレサは、ほとんど祈るみたいな顔でそれを見上げていた。


「本当に学校なんですね……。机があって、寮があって、授業があって、みんなでごはんを食べて、朝になったらまた校舎に行くんですよね……!」

「うん」

「すごいです!」


 案内してくれた上級生が、少しだけ笑う。


「二人は同室だよ。空いている部屋がそこしかなくて」


 テレサが顔を輝かせて、ぱっと私を見る。


「同じ部屋ですって、フィリナさん!」

「ふむ」


 私は歩きながら、重々しく頷いた。正直、私は途中で抜けるつもりなので、すぐにテレサは1人部屋になるだろう。目標としてはとりあえず、うーん……テレサに3人友達ができるまで、にしておくか。


 正直、さっきの広場の空気からして、ちょっと周りの目は厳しい気がする。しかもなんかテレサもセットで見られていた気が。テレサとフィリナ、疑惑の2人組。正直、半分くらい責任を感じる。もう半分の責任を背負うのは、当然白巫女さんである。






 寮の中は、思っていたよりずっと静かだった。


 長い廊下の両側に扉が並び、ところどころに大きな窓がある。窓の外には中庭が見えて、洗濯物が風にひらひら揺れていた。階段の手すりはよく磨かれていて、角の丸くなった木の感触が手に馴染む。


 昔の寮はもっと窮屈だった気がするけど、今のここは妙に風通しがいい。廊下も天井も高くて、窓を開けると山の上の冷たい空気がそのまま入り込んでくる。









 案内された部屋は、向かい合わせにベッドが二つ、間に小さな机が一つ。窓際に本棚、壁際に衣装箱。すっきりしているけれど、日当たりが良くて、思っていたよりずっと居心地は悪くなさそう。ふむ……。私がいなくなったら、テレサはその日の気分によって寝るベッドを変えられるな……。悪くない。


 テレサは、部屋に入った瞬間、「わあ……!」と声を上げて窓辺に駆け寄った。


「見てください、フィリナさん。ここから訓練場が見えます!」

「ほんとだ」

「あと、あっちが校舎で、あの高い塔が図書棟でしょうか。すごいですね。朝起きたら、あそこへ行くんですよね?」

「そうだろうね」

「登校って本当にあるんですね……」

「そこから?」


 私は思わず聞き返した。

 テレサは、窓枠に両手を置いたまま真剣な顔で頷く。そして、あっけらかんと言った。


「はい。だってわたし、学校に行くの初めてなんです」


 そして、気にした様子もなく、そのまま続ける。


「朝起きて! 制服を着て! 同じ教室へ行って! わたしたち、授業を受けるんですよね! ねっ?」







 テレサは荷物を置きながら、ずっと楽しそうにしていた。鼻歌を歌いながら鞄を開け、服を畳み、本を並べ、机をそっと拭く。


「本棚、使っていいんですよね」

「もちろん」

「机も、毎日ここに戻ってきて使っていいんですよね」

「当然。自分の机だしね」

「なんだか夢みたいです……! フィリナさんが同室ですし!」

「……うん、たぶんね」

「ふふ、なんで急に自信なくなっちゃうんですか」


 テレサは机の天板を指先でそっとなでた。まるで高価な宝石か何かみたいに。


 私はそんな彼女を横目に、窓辺へ寄って外を眺める。


 高い回廊の向こうを、生徒たちが小さく行き来している。下の中庭では上級生らしい人たちが荷物を運び、ずっと向こうの塔の頂上では、結界の紋が夕方の光を受けて淡く光っていた。








 荷ほどきが一段落したころには、日も少し傾いていた。


「少しだけ、見て回りませんか?」


 そう言い出したのは、やっぱりテレサだった。さっきからそわそわしてたから、たぶん言うタイミングを見計らってたとみた。


「食堂の場所も覚えたいですし、せっかくですから」

「じゃあ、食堂の場所ついでに探検に行こうか」






 廊下へ出ると、寮の中はさっきより少し賑やかになっていた。入寮を終えたばかりの新入生らしい子たちが部屋の前で立ち話をしていたり、先輩らしい人が洗濯籠を抱えて急ぎ足で通り過ぎたりする。誰もが制服を着ているのに、立ち姿や歩き方だけで、なんとなく先輩と新入生の違いが分かるのが不思議だった。






 寮を出て、白い石のアーチをくぐる。そこから先は、もう本当に小さな街だった。石畳の道がゆるやかに登り坂になって続き、その両脇を、寮棟や講義棟やよく分からない小さな建物が囲んでいる。ちょっと油断すると、さっきまでいた女子寮がどちら側だったか怪しくなった。




 テレサがきょろきょろしながら言う。その片手はいつの間にか、がっしりと私の手を握り締めていた。


「本当に、学校の中だけで世界ができてます。道もいっぱい、建物も多いですし……あ、あれは温室でしょうか」


 彼女の指さす先には、夕日の色を反射する大きなガラス張りの建物があった。中には背の高い植物の影が見える。その手前には、円形の訓練場らしき広場。さらに上には、雲に届きそうなほど高い位置に、古い塔がいくつも連なっていた。


「食堂に行くだけでも楽しいですね」

「そこまで?」

「楽しそうです。だって、渡り廊下を渡るんですよ?」

「そこ、そんなに刺さるんだ」

「刺さります!」







 石造りの長い階段を上がり、講義棟らしき建物の脇を抜け、食堂へ続く渡り廊下の前まで来たところで、私はふと足を止めた。



 廊下の掲示板には、ぺたぺたと紙が重なって貼られていた。

 食堂の新メニューのお知らせ。浴場清掃の予定。消灯後の私語注意。無断で薬品庫に入るな。

 その中に混ざって、少し古びた紙が一枚だけある。



「空中庭園、立入禁止。守護機兵、稼働中。接近者の安全は保証されない」



 テレサは木札と私の顔を見比べ、それから小さく首を傾げた。


「守護機兵……って?」





 その時、階段の上から話し声が降ってきた。


 振り向くと、女子寮の方へ戻る途中らしい上級生が二人、こちらへ歩いてくるところだった。私とテレサは、さっと隠れ、顔を見合わせた。


「なんで隠れたの」

「つい」


 私たちは、石の柱の陰から揃ってそっと顔を出した。たぶんお互い、上級生とどう話していいかがよく分からなかったのだ。









 そのあと私たちは、食堂の場所を確認して、浴場へ行く廊下も見て、二度ほど違う階段を下りてしまい、それでもどうにか女子寮へ戻った。途中で見覚えのない中庭に出てしまって、通りがかった上級生に不思議そうな顔をされたりもした。





 部屋に戻るころには、外はすっかり群青色になっていた。


 窓の外には、学校本体の灯りがぽつぽつとともっている。高い回廊の先を、小さな光の粒みたいな生徒たちがまだ歩いていた。上の塔の方では、結界の紋が夜の中で薄く光っている。昼に見た時よりも、学校全体がひとつの巨大な生き物みたいに見えた。



 テレサはベッドに腰掛ける前に、自分の机をもう一度見た。


「やっぱり、すごいです」

「まだ言ってる」

「だって、ここにわたしの場所があるんですよ。嬉しくて嬉しくて」

「あんまり同じこと言ってると喜んでるように見えないなぁ」


 するとテレサは急に両手を挙げ、「わぁーーいっ!」と恥ずかしそうに言いながら、ばたんとベッドに向かって前のめりに倒れ込む。挙動があやしい。


 そんなあやしいテレサは、しばらく布団に顔を埋めていたかと思うと、くるりと顔だけをこちらに向けた。


「明日は授業で、そのあとまたここに戻ってきて、夜になったら寝るんですよね。すごいです」

「そんなに感動する?」

「します。とても。……ねえフィリナさん、せっかくだから今日は一緒に寝ませんか」

「ベッドが2つあるから寝ない」

「ふふ。はーい」












 翌朝、鐘の音で目が覚めた。


 寮の朝は思っていたより早かった。廊下の向こうからもうばたばたと足音が聞こえるし、洗面台の方からは水の音もする。私は毛布の中でしばらく現実逃避をしたかったのだけど、そうもいかなかった。


「フィリナさん! 朝ですよ!」


 テレサが、もう完全に支度を終えた姿で立っていたからである。制服もきっちり着ているし、髪も綺麗に整っている。目まできらきらしている。朝から完成度が高い。


「おはよう。早いね」

「だって初日です!」


 元気だなぁ。私は制服を身に着け、鏡の前でくるりと回ってみた。白い上着に、濃紺のスカート。胸元には銀糸で校章。かわいい。





 そしてリボンの位置を直していると、ふと、テレサと違っていつも朝は寝過ごしていた誰かのことを思い出した。元気にしているだろうか。今は寝過ごしてないといいけど。


 「心外ですよ」という声が、空の向こうから聞こえた気がした。








 朝食を食堂でとってから、私たちは本館の教室棟へ向かった。

 テレサは歩きながら、ずっと楽しそうだった。


「本当に登校してます……! 昨日見た校舎に、本当に今から入るんですよね!」

「うん」

「すごいです」

「何回目?」

「今のは登校のすごいです」

「種類があるんだねぇ」








 教室は思っていたより広かった。前方に大きな黒板、その手前に教卓。机は何列かに分かれて並んでいて、窓際の列には朝の光が斜めに差し込んでいる。真ん中の最前列には、昨日の金髪ツインテールの子が当然みたいな顔で座っていた。後ろはまだ少し空いているのに、わざわざそこを選ぶあたり、いかにも成績が良さそうだ。



 でもあの子はなんだか昨日は怒ってたから、なんでも忘れるくらい記憶力が悪いといいなぁ。そう思っていたら、私たちを見た瞬間に彼女の目が冷えた。残念ながら、記憶力もいいらしい。






 ほどなくして教師が入ってきた。年配の女性で、声がよく通る。出席簿を開き、ひとりずつ名前を呼んでいく。


「ルシェル」

「はい」


 金髪ツインテ―ルの子の名前が判明した。名前も頭が良さそう。


「あなたの入学試験は、非常に良い成績でした。このクラスは、あなたが纏めなさい」


 ああ言われるのは入学試験トップの首席だけだから、彼女が一番頭がいいのだろう。私が間違いなく一番悪いので、このクラスにはトップと最下位が両方存在するということになる。幅が広い。











 午前最初の授業は、魔法史だった。


 教師は教卓に立ち、黒板へ古い年号を書いてから、教室を見渡した。


「今日はこの学び舎の始まりの時代を扱います。非常に歴史ある本校ですが、その中でも特筆すべき出来事が多く起こったのが、600年ほど前の草創期です」


 前の方の空気がぴんと張る。


 見ると、ルシェルだけ明らかに姿勢が変わっていた。さっきまで十分にまっすぐだった背筋が、さらに一段まっすぐになっている。まるで、糸で天井から吊られてるみたいだった。教本を開く手つきも妙に速い。





 教師が話し始める。都市成立期の混乱、結界、防壁、学舎の成立。そういう説明が続いたあとで、少しだけ声の調子が変わった。


「草創期を語るうえで欠かせないのが、『黎明の魔法使い』です」


 教室の空気が静かになる。


 私は始まったばかりなのに、もうすごく嫌な予感がしていた。

 だって『黎明の魔法使い』って、昔の私のあだ名だから。仲良かった友達がつけてくれたやつ。でも、あれは明らかに私をいじってた。いったい何が黎明なんだ。


 ちなみにその友達とは、白巫女さんの師匠のことである。許すまじ。白巫女さんは「お茶目でしたけど清廉潔白でいつも女性に対する心遣いも忘れない方」とか言ってたけど、心遣いって単語の意味を絶対間違ってると思う。








「彼女の名は伝わっていません。この学び舎の源流にあたる旧学舎に在籍し、都市防衛の要として、また学び舎そのものの象徴として、後世に語り継がれた先達です。この紋章は、彼女が愛用したもの、何か重要な意味をもたらす印と伝えられています」


 教師は黒板の端に、ぐるぐると円を何度も重ねたような図を描いた。それは、私が前に在学していた時にノートによくしていたいたずら書きと、よく似ていた。「それは紋章じゃなくて、その日のお昼に私が食べたいなと思ったパンですよ」とはちょっと言いにくい雰囲気だった。






「彼女が特異だったのは、力だけではありません。後代の記録では、黎明の魔法使いは“旧学舎が理想そのものであった時代を体現した人”として扱われています。武功と学識、規律と慈愛、そのどれか一つではなく、すべてを備えた人だった、と」


 しん、と教室が静かになる。

 私も身を縮めたまま、そっと内心で首をかしげた。


 いや待てよ……これ、ひょっとして、私じゃない? 他の人?

 だって武功と学識ってまあ、武功はみんなであれこれやったにしても、学識って。留年しかけて友人ノートでギリギリ進級したのに?

 規律もそうだ。記憶が確かなら、私は学年で一番、教員室に呼び出されていた。慈愛もたぶんあんまりない。全てを備えた人っていうか、全部ないじゃない。え? それともいじり? 「何もない」があるんだよ、みたいな。むむ。







「そして、彼女の相棒とされるのが守護機兵です。古代兵器でもある『彼』は、現在も上層庭園に残されていますが……完全な制御下にはありません。過去には校長を含む教師陣が再封印、再管理を試みましたが、いずれも成功していません。そのため、空中庭園は今も封鎖区画です。危険なので立ち入らないように」


 教室の後ろで、何人かが小さくざわめいた。


 あ、まだいるんだ。元気にしてるかな? あとで顔を見に行ってみよう。







「また、最初期の写本には、黎明の魔法使いが赤色の極大魔法を行使したとする記述もあります。ただし、その部分は後代の編纂で異説扱いとなり――」


「異説じゃありません。削られただけです」


 前の席から、ぴしりと声が飛んだ。


 ルシェルだった。まっすぐ前を向いたまま、きっぱりと言い切る。怖い。あの子、先生に対してもあんな感じなんだ……。


「第三写本と鐘楼保管の断簡で一致しています。大本の記録では、赤があの方の象徴、あの方を示す色だった。それが後からなぜか薄められただけです」


 しん、と教室が静まる。


 そのあとで、後ろの席の誰かが小さく言った。


「……あれ? 赤って」

「え?」


 ひそひそ声につられて、何人かの視線が前の席に集まる。


 髪飾り。栞の糸。インク瓶に結ばれた紐。ペンに巻かれた飾り糸まで。全部、同じ系統の赤だ。教本のカバーには、今黒板に書かれたものとそっくりの刺繡が入っている。しかも既製品ではなく、自分で縫ったり編んだりしたらしい跡まで見える。






 誰も何も言わなかった。しーん、という重い沈黙が教室を支配する。


 だがたぶん、全員が理解したのだろう。確かに下手に何か言うとまずそう……!








 教師が小さく咳払いをした。


「……ともかく、黎明の魔法使いは、この学び舎の理想として扱われてきました。皆さんも見本とするように」


 でもやっぱり盛りすぎでは……?

 私が口の中でもにょもにょと呟くと、その瞬間、ルシェルがものすごい勢いで振り向いた。この距離で聞こえたらしい。しかもなんだか目がめちゃくちゃ釣り上がっている。怖い。


「あなたがあの方の何を知ってるの? 話にならない」


 低い声だった。教室の空気が一気に冷える。


 ――私が私の何を知ってるか。

 難しい質問だった。白巫女さんの師匠なら目を輝かせて話し始めるんだろうけど、私にはちょっと手に余る。


「いや、理想とか象徴とか、だいぶ話が大きいなって。もう少し普通の生徒だったと思うよ」


 ごめん、ちょっと見栄張った。本当は、限りなく落第生に近い側の普通。






 すると、ルシェルは、ばっと立ち上がり、ツカツカと足音を立ててこちらに歩み寄ってきた。授業中なのに。


 先生に視線で助けを求めると、なんと先生は教科書をペラペラとめくりながら「さて、今日はどこまで進みましょうか……?」と悩み始めた。規律と慈愛とやらが現在の学舎に一片も伝わっていないのは明らかであった。




 目の前まで来たルシェルは、腰に手を当てて、こちらを見下ろしてきた。


「ふざけないで。あの人を侮辱しないで」

「別に侮辱はしてない……」

「話にならない。納得いってなさそうな顔ね。なら、あの方の凄さを教えてあげる」






「――あの方はね。廊下を歩けば花が咲いたと言われてる」


 そんな馬鹿な。確かに種袋に穴が開いてることに気付かず持って歩いてたら、私がよく歩くルートに芽がいくつも生えてきたことはあった。あれもめちゃくちゃいじられたっけ。でも花は咲いてない。






「あの方のノートの表紙を見ただけで、他の生徒は授業の全てが理解できたとも伝えられてる!」


 たぶん中を見ても落書きばっかりだからだ。他の生徒が理解してたのは授業の内容じゃなくて私の授業の理解度だったと思う。







 ルシェルはだんだんテンションが上がってきたのか、目をキラキラさせながら、胸の前で両手を組んで天井を見上げた。


「しかも、しかも、図書棟では本の方から寄ってきたそうよ……! なんて素敵なんだろう……」


 「本が寄って来る」。初めて聞く表現だ。本って生き物だった? ばっさばっさとページを羽ばたかせながらやってくる本の大群が、私の頭に浮かんだ。シュール。


「……その図書棟、ちょっと怖くない?」

「知の側から応えたって記録よ。混ぜっ返さないで」


 







「そして、会った全員の名前を覚えてた。生徒だけじゃない」

「いや、全員は盛ってるでしょ」

「盛ってない。教師も職員も用務員も食堂の人も司書補も。誰一人、背景として扱わなかった。あんなに偉大な方が」


 そもそも自分の名前すら覚えてないのに……。でも、確かに、あの当時の私の周りは、いい人ばっかりだった。例外もいたはいたが……。ちなみに白巫女さんの師匠は悪いやつ寄りである。








「そして、たとえ他の誰かの失敗でも、自分から叱られに行った。だから、誰よりも多く教師の所に行ったという逸話が……」

「その話だけは本当にやめてほしい」








 そして、ルシェルは私とついでに隣のテレサを睨みつけ、低い声で言い切った。


「この学校は、同情で入れる場所じゃない。敬意のない人達が軽々しく立っていい場所でもない。あなたみたいな小さな子でも。それができないなら、さっさと出ていって。話にならないから」

「ごめん、気をつけるから」


 すると、ルシェルは鼻を鳴らし、さっと踵を返した。





 隣でおろおろしながら見ていたテレサが、「大丈夫ですか……? すごく怖い人でしたね」「わたし、ああいう人苦手です……」とそっと囁いてきた。私はそれを聞いて、心の中のテレサの友達候補リストに、大きく×をつけた。






『テレサに友達が3人できたら、私は学校を出ていく』というのが、目標。


 入学試験と、初日のルシェルとのやり取りで、そのハードルが上がったのは間違いなさそうだった。少なくとも、ルシェルとテレサは仲良くなれなさそう。




 ……それこそ、好きなものが一緒とかなら話も合うんだろうけど……。







 4月10日(金)に「逃げる魔法使い」の書籍がついに発売したので、本屋さんに行ってきました! 「本当に並んでる……!」って感じのテンションになってしまいました。挿絵がいい感じに探しやすかったです。


 もし本屋の棚の前で「やだ私の年収低すぎ……?」みたいなポーズを取っていた人がいたとしたら、それは私です。思わず2冊買ったら、なんとポストカードがついてました。こんなのあるんだ。いえ、メロンブックスさんとゲーマーズさんで特典SSがあるのは書いたから知ってるのですが、ポストカードは知らなかったから……。とりあえず飾ってみました。これはどう使うのが正解なんだ……?



 WEB版から加筆もたくさんあるので、もしよろしければどうかよろしくお願いします! 私は今日も行ってきます。もし、棚の前で「やだ私の年収低すぎ……?」みたいなポーズを取っていた人がいたとすれば、それは私です。もしお会いしたら、対戦よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
中々にむず痒い思いをしてるだろうなw
書籍買いました、描写が結構増えてて嬉しかったです。 でも長命種ニキは変わらず初手でボコボコにされててこれだよこれってなっちゃいました。
守護機兵との関わり楽しみ
感想一覧
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