第2期 4話「永遠の隣を歩く」
――あれを「木」と呼ぶのは、いささか無理があると思う。
目の前にそびえる世界樹は、山脈よりも高く、枝葉は雲を突き抜け、空のどこまで続いているのか見当もつかない。見上げても見上げても、その先が霞んでしまい、まるで空の天井に突き刺さっているみたいだ。
根元には街が広がっていた。
幹から張り出した巨大な根は城壁のようにそびえ、家々はその間に組み込まれるように並んでいる。屋根よりも大きな根の下を人々が行き来していて、その光景は不思議と安心感に満ちていた。まるで世界樹に守られて暮らしているかのように。
「おおっ! すげぇ!」
勇者が真っ先に声を上げる。首が痛くなるまで空を仰ぎながら、子どものように目を輝かせている。
「伝承でしか知らなかったけれど……これほどとはね」
王女様は胸に手を当て、足を止めて見入っていた。
剣士は無言のまま。けれど、その瞳に浮かんでいたのは、鋭さではなく、静かな畏れ。
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【逃げる魔法使い2期】第4話「永遠の隣を歩く」実況&感想スレ
1:風の名無しさん
今日は世界樹に行くらしい
寿命が可視化されるとか魂が巡るとか、意味わからんこと言ってる
5:風の名無しさん
世界樹ねえ
ゲームのフィールドしか思い浮かばん
12:風の名無しさん
え? あれが世界樹?
でかすぎワロタ
17:風の名無しさん
屋久杉くらいかと思ったら雲突き抜けてますやん……
21:風の名無しさん
ふもとに街があるのね
木がでかすぎて街がミニチュアに見える
28:風の名無しさん
「ようこそ世界樹の町へ! ……寿命を見たい? 広場にどうぞ」
あっさりだなwww
33:風の名無しさん
王女様、魔法使いちゃんのことすげー顔で見てるんだが
37:風の名無しさん
「安心してください! 私、実は残り寿命がすごく長いんです! いい加減ここでそれを証明しようと思って」
笑顔の魔法使いちゃん、逆に怖い
42:風の名無しさん
いやこれ、長命種ニキの言ってた「寿命ある」ってアピなんじゃない?
45:風の名無しさん
あ、案内人みたいなの出てきた
「世界樹は、世界に現存する遺物の中で最古のもので……およそ4500年前にできたと言われています」
47:風の名無しさん
化石かな?
50:風の名無しさん
現実だと縄文時代くらいらしい
古すぎて草
52:風の名無しさん
「こちらがこの街の名所でもある、寿命を見る宝珠です! 覗けば寿命に応じて光りますよ! よかったらどうぞ!」
58:風の名無しさん
そんなもん入ってすぐの広場に置くなよ
怖すぎるわ
63:風の名無しさん
人通りあるのに誰も近寄らなくて草
名所とは
67:風の名無しさん
寄らんの当たり前やろ
71:風の名無しさん
魔法使いちゃんが迷わず行ったー!
広場ざわめき始めたぞ
75:風の名無しさん
これで分かるな
長命種ニキの説が本当かどうか
78:風の名無しさん
「見ててくださーい!」って台詞がフラグにしか聞こえん
80:風の名無しさん
宝珠をのぞく魔法使いちゃん
⇒「バキッ!」って粉々に砕け散る宝珠
⇒広がる静寂
84:風の名無しさん
あっ(察し)
88:風の名無しさん
少なすぎるとこうなるんだ……
93:風の名無しさん
さ、さすがにそれはなくない……?
95:風の名無しさん
だって明らかに不吉だし……
99:風の名無しさん
覗いた後から、王女様の顔が映されないのがまた不穏
103:風の名無しさん
やべぇよ……やべぇよ……
108:風の名無しさん
えっ⁉
こんな状態からでも入れる保険ってあるんですか⁉
111:風の名無しさん
「い、いきなり壊れちゃいましたね」
いやタイミング的に君が壊したんよ
117:風の名無しさん
パソコン初心者がよく言うやつで草
122:風の名無しさん
……長命種ニキ?
説明してくれる?
127:長命種ニキ
あ、あれ? そ、そんなはず……
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「いいか、お前の寿命の問題は、何とかしてみせる。お前の問題は俺の問題だからな」
「俺? 『俺ら』の間違いじゃないかしら?」
勇者と王女が睨み合っていると、その間で、魔法使いの少女は困ったように笑った。
「私の問題なのかなぁ……」
市場は樹の根を削って作られた石畳に、露店がぎっしりと並んでいた。乾いた果実や鮮やかな染布の匂いが風に流れ、香ばしい穀物の香りが漂う。
人々のざわめきのなかで、魔法使いの少女はひときわ楽しそうだった。
杖も持たず、ただ両手を後ろで組んで、にこにこと笑いながらあちらこちらを覗き込む。
広場では、白髭の長老が囲まれていた。
彼の語るのは――死してもなお、再びこの世に姿を現す術。
「肉体は朽ちても、心を澄ませ続けた者は影となって留まる。その影は人を導き、戦場を駆けるとも言われる」
魔法使いの少女は「ふむ」と顎に指を当て、小さく頷いた。
小声で呟くその調子は、珍しい玩具を見つけた子どものようだった。
そして、次に彼女が足を止めたのは、錬金術師が語る奇怪な話。
「魂を器に宿すこともできる。ただし器は選ばねばならん。生涯を懸けて磨き抜いたもの。だが、前提として、果てしないこの世への執着が必要となる」
「うーん……ちょっと難しそうかな……?」
魔法使いの少女は困ったように笑い、手に取った小さな装飾品を軽く振ってみせた。
仲間たちは、その横顔をじっと見守っていた。
勇者は眉を寄せ、言葉を飲み込む。
剣士は目を伏せ、拳を握りしめた。
王女は無理に微笑を作ろうとして、唇を震わせた。
――彼らには、見えてしまうのだ。
楽しげに市を巡るその少女が、実は己の残りわずかな時を測っているのではないかと。
死の後も在り続ける手段を、笑顔のまま探しているのではないかと。
胸の奥を冷たい手で締めつけられるような思いに、三人は互いに目を合わせることもできなかった。
けれど、当の魔法使いの少女は市場の喧騒に紛れて、ただ軽やかに歩き続ける。
楽しげな笑みの裏に、どんな本心を隠しているのかは、誰にもわからなかった。
市場を抜け、石段をのぼった先に、古びた学堂があった。円天井の広間に、色あせた壁画と古文書が並ぶ。
その中央に腰掛けたのは、背筋をぴんと伸ばした学者風の老人。鋭い鷹の目で周囲を見回し、聞き手たちに威圧感を与えていた。
「――生まれ変わりとは、魂が輪を描くように巡ることです」
老人は高らかに言う。
「人は死ねば魂を手放し、その魂は次の器へと流れ込む。こうして世界は絶えず循環を保っておるのです」
魔法使いの少女は最前列にちょこんと腰を下ろし、目をきらきらさせていた。まるで楽しい見世物でも眺めているかのように、にこにこと微笑んでいる。
「でも」
小さな声が広間に響いた。
魔法使いの少女が、まるで当たり前の疑問を口にするように首を傾げる。
「みんながみんな誰かの生まれ変わりなら……今、世界の人の数って確か増えてますよね? 魂が足りなくなってしまわないんですか?」
広間が一瞬、しんと静まった。
老人は鼻を鳴らし、ゆったりと顎鬚を撫でた。
「おお、鋭い子だ。そう、その矛盾に気づく者は少ない」
得意げに立ち上がると、老人は、胸を反らして続けた。
「魂はこの世界だけに閉じておらん。空の向こうにあるという他の世界から流れ込み、また他の世界へと溢れ出す。魂の輪は、ひとつの世界を越えて幾重にも重なっておるのだ。」
「へえ……」
魔法使いの少女は楽しげに頷き、まるで新しいお菓子の味を知った子どものように目を輝かせた。
「じゃあ、どこか別の世界にいた人が、こっちに生まれてくることもあるんですね」
老人は満足げに微笑んだ。
「その通りだ。ゆえに生まれ変わりとは、世界を渡る旅でもある。生まれ変わってなお自分を保っている者は珍しいがな。何百年に1度と言われておる」
「そういえば、これまで何人か見たことあるかもです」
「……えっ……?」
「そういえば、お前の言ってた寿命が見える仕組みって、広場のアレのことだったの?」
「違うよ! えーっと、こっちにあるはず……」
魔法使いの少女は先頭に立ち、道をゆっくりと歩いていく。段々と家や店が少なくなり、木の代わりに道の両側に曲がりくねった樹の根が生えている。
「――ここ!」
少女が案内した広場は、何もなかった。
白い石畳が果てまで敷き詰められ、音を吸い込むように静まり返っている。
その奥、中央にそびえる世界樹は、幹だけで城壁ほどの高さ。
枝は頭上のはるか彼方、空の彼方へと伸び、その影すら地上には届かない。
「奥の世界樹まで歩いていく間に、その人の寿命の数だけ、葉っぱが落ちてくるって言われてるの」
魔法使いの少女は、一歩ずつその根元へ向かっていく。
足音は石に吸い込まれ、代わりに衣の裾がさらりと擦れる音だけが響く。
仲間たちは少し離れた場所から、息を呑んで見守っていた。
「1年で、1枚。数えててね。前は失敗しちゃったから」
ふいに、視界の上のほうから、何かが舞い降りてくる。
一枚、また一枚。
金色に透けた葉が、ひらりひらり、と。ゆったりと空を泳ぎながら落ちてきた。
その速度は驚くほど遅く、葉脈の一筋一筋まで目で追える。落ちる間に、光を受けて表と裏が何度もきらりと反射する。
3枚目が地面に触れたとき、魔法使いの少女の足はまだ、幹までの道の半分にも届いていなかった。
仲間の胸に、不安が広がる。
「……少なすぎる」
互いに視線を交わし、唇を噛む。
しかし次の瞬間、4枚目が降り、そのあとすぐに5枚目、6枚目と続く。ひらひらと舞うたびに空気が揺れ、魔法使いの少女の頬や髪に触れては離れていく。
さらに歩を進めるごとに、落ちる葉は瞬く間に数を増していく。一面の石畳に金色の葉が積もり始め、そこから若芽が顔を出す。芽はたちまち幹を伸ばし、枝を広げ、影を作る。広場は、みるみるうちに深い森へと姿を変えていった。
それでも葉は落ち続ける。新しく生えた森からも降り注ぐ、金色の無数の葉の渦。石畳は既に金色で覆い隠され、何重にも重なった葉が軽い音を立てている。
見上げれば、金色の粒がゆっくりと降り注ぎ、空の青を隠していく。雪のようであり、滝のようでもあり、しかしその動きは限りなく穏やかで、永遠を思わせた。
仲間たちは言葉を失う。
ただ、葉の降る音なき音に包まれ、立ち尽くすしかなかった。
魔法使いの少女の歩みだけが、その中心で静かに続いていた。
「……ねえ、何枚だった?」
「お前さ、何歳?」
「あれって残り寿命だから今の私が何歳とか関係ないよね?」
「おう。で、何歳?」
「さすがに世界樹より若い……よ?」
「おい嘘をつくな」
「私が前に『どっちかと言えば年上が好きかな~』って言ったの根に持ってるの?」
「いきなり俺の心の柔らかい部分を攻撃してくるのやめてくれる?」
しかし、勇者はそこで安堵のため息をついた。少なくとも、彼女が数年で死ぬということがない、それが分かったのだ。むしろ、寿命が多いということは喜ばしいことではないか。それこそ、多ければ多いほどいい。
だから、本気で分からなかった。勇者は、黙ったまま立ちつくしている仲間の方を、何気なく振り返った。
「――え? なんでそんな暗い顔してんの?」
* * * * * * * * * * * *
204:風の名無しさん
長命種ニキを1度も疑わなかった者だけが石を投げなさい
210:風の名無しさん
いや私は最初から信じてましたよ!
222:風の名無しさん
だってなんか自信なさげだったし……
238:風の名無しさん
ともかくこれでハッピーエンドだよね!
もう寿命とか気にする必要0なんだから!
249:風の名無しさん
いやーよかったよかった
260:風の名無しさん
魔法使いちゃん年上好きらしいぞ
お兄ちゃんとか呼んでくれるのかな?
271:風の名無しさん
どけ!!! 俺はお兄様だぞ!!!
272:風の名無しさん
どけ!!! 俺はお兄ちゃんだぞ!!!
275:風の名無しさん
>>271
>>272
2人はどういう……?
280:風の名無しさん
長命種ニキはなんで喜んでないの?
もっと喜びなよ当たってたんだから
291:長命種ニキ
だってこの後って
いえ何でもないです
300:風の名無しさん
いいから言ってみなよ
いえ教えろください
306:風の名無しさん
……そういえば
309:長命種ニキ
1000年後も生きてるのって魔法使いちゃんだけですよね?
仲間はみんな死んでますよね? ラストシーン的に
317:風の名無しさん
え?
326:風の名無しさん
まあそりゃ……うん
341:長命種ニキ
じゃあまた1人になっちゃうなって
350:風の名無しさん
あんなに「ずっと一緒にいる」とか言っといて?
366:風の名無しさん
勇者と魔法使いちゃんが結婚すれば良くない?
それで子供と一緒に暮らせば……?
ほら魔法使いちゃんの子ならたぶん長生きでしょ?
374:風の名無しさん
抱けえっ!!
抱けーっ!!
383:風の名無しさん
え、いや、どうすんの?




