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欲張りな私

キョウコのタイムトリップ

 わたしは、夢を見ていた。

 須藤クンが、わたしの息子だった夢を。

 ただ、わたしは、佐和子さん、須藤クンのお母さんの中に一緒にいるだけで、直接関与していた訳ではない。傍観者みたいな存在だった。


 おぎやー、うっうっ、ほぎやほぎや

 おめでとうございます。男の子ですよ

 助産師さんがそう告げる。

 その子は旬と名付けた。

 その子を見て、抱きしめて、

「わたしが、愛した男だ」

 とわたしは佐和子さんの中で確信した。

 そうか、わたしは、今、須藤クンのお母さんの中にいるだ。わたしが佐和子さんになったのでなく、佐和子さんの一部がわたしという感じ。

 そして、わたしが、産むことのかなわなかった愛しい人。何の気がねなしに慈しむことのできる存在として、彼は今、わたしたちの腕の中にいる。

 はぐはくとおっぱいを飲む姿。寝ている時、夢を見ているの口がむにゃむにゃと動く。可愛い。

 子を可愛くと思う、こんな感情が、わたしにあったのかと驚く。

 もしかして、人の中には、自分の子としての出会いは、初めてでなく、以前、どこかで、そう前世とかで、出会っていたんじゃないのかな?

 そんな馬鹿な事を思うが、納得する自分もいる。

 わたしたちの関係みたいにね。

 その親に産まれきたいと思った子、その子を抱きたいと思った親。

 それは、前世で叶えられなかった、思いなんだろう。いろんな因果が子の誕生に含まれているのかも知れない。切ない。

 そして、記憶のあるわたしの人生を思い出す。

 須藤クンは、年の離れたわたしの恋人。

 男と女の関係以上に、一緒に、側にいたいと思った人。

 だから、二人してわたしは、須藤クンの母親に、須藤クンはわたしの子に、なりたいと思っていた。

 これはそんな夢が、叶ったんだ。そう、あり得ない夢。


 産院を退院して、家で二人になる。もう、ずっと須藤クンの顔をみていたい。でも、家事が待っている。

 わたしの中には、身についた家事スキルはそのままだった。なので、年若い佐和子さんに、色々とアドバイスするし、わたしが、メインで動くこともできた。

 作り置きの料理、わからないように手抜き、それらを佐和子さんと一緒にやる。

 なので、子供がいても、家事は、ささっと終える事ができた。

 再び須藤クンの顔を眺める。頬っぺをつついたり、オムツを替える時、ふと、そこに目が行く。

 無防備な赤ちゃんの須藤クンは、わたしが、何を思っているか知ったらどう思うのだろう。

 月日は瞬く間に過ぎる。

 幼稚園のに入園式、運動会、お遊戯会。

 バザーでわたしが、作った熊のぬいぐるみを一目散に買いにきた須藤クンの自慢そうな顔。

 ああ、わたしが、ずっと見たかったシーン。それが映画のように流れていく。

 幼稚園を卒園し、小学生になる。

 保護者参観で、クラスの友達と楽しくおしゃべりをする姿。

 少し大きくなり、何でも自分でやると聞かない頑固さ。これは、今でもだね。

 何をしたのかわからないが、あちらこちら擦りむいたり、切り傷だけで、夕方、帰ってきた。

 慌てて、救急病院に連れててく。骨折もなくほっとする。

 そんな事を一つひとつ、ハラハラドキドキしながら、佐和子さんの中のわたしは、須藤クンの成長を見守っていた。

 塾に通うようになって、夜遅く帰る須藤クン。塾のクラス順位が上がらすイラついて、親に悪態をついたり、クラス順位が上がり、喜ぶ姿。

 日曜日のテストに付き添い、ヨッシーのお母様にご挨拶てきた。

 ヨッシーのお母様は、ハツラツとしたキャリアウーマンだった。納得。

 中学受験で、希望校に落ちてがっかりしている須藤クン。慰めても

「わかっているよ!」 

 と声をあげる。

 そして地元の公立校に進学を決めた。それでも、最初は荒んで(すさんで)いた。でも、すぐに落ち着き、塾に行くと言い、再び勉強をしだした。

 すると、突然、あどけなさが抜け、少し今の須藤クンの面影が出てくる。身長も伸びはじめてきた。

 私立の進学校へ行くと思っていたら、公立校へ行くと、自信満々に答える姿。

 高校での生徒会での活躍。もう背はわたしたちを越えている。

 そして、大学受験。小学生の頃から憧れていた、目標の大学に入り自信満々な姿。

 不思議とその頃には、小遣いを欲しがらなくなっていた。

 尋ねると、

「オヤジに知られると不味いんだよなあ。すぐ金せびるから。まあ、お袋なら」

 と言い、お年玉で、FXをやったら、ちょっともうかったんだと。

 儲かったという金額は聞かなかった。それを元手に投資信託や株もやっているらしい。その辺を聞いても分からないふりをして、「そう」と答え話を打ち切った。

 それよりわたしの興味は、里依さんだ。大学に入って、すぐの頃、変わった共通の友達がいて、知り合ったとか言っていた。

「良いとこのお嬢なのに、自分は普通だと思っててさあ、でもって、お昼とか学食に行かず、外のレストランに行くんだ。同じ学校の子なんだろう。雰囲気が似ているから、でもさあ、アイツら、一食に平気で2千円とか出してさあ、大体移動はタクシーだし。なのに、自分は皆と同じだと思っているだ。おかしいだろう」

 とか言って笑っていたけど、それをしゃべる須藤クンの顔が、ちょっと面白かった。

 気になって気になって仕方ないという感じかな?

 そんな傲慢な人なら、ついて行ったりしないのにね。ふふふ。

 それに、彼女の入ったインカレサークルにも入ってる。理由を聞けば、

「あんなヤリチンばかりのサークルにはいるか? 喰ってくださいって言ってるのと同じだよなあ」

 そんな、心配をしている。たまにデートをしているらしく、

「今日は、新しくてきたビルのショッピングモールに行った」

 とか、

「アイツ、紅茶好きらしく、この間、お袋と行った紅茶屋に連れて行ったら、喜んでいた」

 なんて報告も聞く。そうか、この間、買ってきた紅茶、ないなあって思ったら、そうか、ふふん。

 須藤クンの部屋はパソコンと周辺機器でいっぱい。モニターも、三枚あるし、タワーに、ノーパソも。欲しい、買ってとか言ってこないのにだ。

 これを見ればいくら稼いでのかわかる。

 そんなある日だった。

 須藤クンのお父さんが、いつもより早く、慌て帰ってきた。

「おい、知っていたか? 旬が、億、儲けたらしい」

 そう言い、ぽんと一冊の雑誌を投げたした。

 そこには、「今時の錬金術。濡れ手で粟。FXで億の金を手にした人々」とキャッチが踊っていた。

 ああ、きてしまった。

 わたしは、そう思った。

 それは、須藤クンが、家族を捨ててしまう、きっかけだ。

 興奮している須藤クンのお父さんを、一生懸命に佐和子さんが宥めているが、何を言ってもおさまらなかった。

「旬に確認してからでないと」

 そう説得に疲れた、佐和子さんの代わりに中のわたしが、言えば、

「なに言ってんだ。アイツが本当の事を言うわけないだろ。偶然、儲けたのなら、驚いて、親に相談するはずだ。しないというのは、本人にはたいした事ではないんだろう。それに、報告がないのは、親に知られなかったら隠すつもりなんだろう」

 今まで、子供に何の興味を持っていなかった、須藤クンのお父さん。その豹変振りに、わたしと佐和子さんは唖然としだした。

 こんなにも人って変わるものなのか?

 特に佐和子さんの驚きようは大きかった。

 わたしたちでは、この人を変えることは無理だろう、そう悟った。

 過去の歴史は大きく変えられない。

 少しずつ変えていく。せめてもと。

 まず、須藤クンを家から出るのは、佐和子さんからのアドバイスとする。

 須藤クンの荷物を須藤クンのお父さんにわからないように、貸倉庫か小さめのアパートに移そう。そう決め、佐和子さんを動かす。

 幸い近所にワンルームのアパートが見つかる。そうそう契約を済ませ、須藤クンのお父さんが仕事の、平日の昼間に引っ越しした。

 もちろん、先に須藤クンには、お父さんから逃げるように言ってのある。

 須藤クンのお父さんが、早期退職願いを出す前に、須藤クンを逃がしたんだ。

 そして、全てが完了した時点で、何食わぬ顔をした佐和子さんが、須藤クンのお父さんに告げる。

「あなた、旬が、引っ越ししてしまったみたいなの。わたしが、買い物に行っていた時に」

 須藤クンのお父さんは、驚き、旬の部屋を見る。空っぽのその部屋その前で、

「育てた恩を仇にしやがって」

 と悪態をつく。それをとりなす佐和子さん。

「子を育てやったと恩着せがましく、子にカネをせびるのはどうかと思うけど」

 そう佐和子さんのわたしは言えば、

「億のカネを独り占めすることはないだろ?」

 と反論した須藤クンのお父さん。

「それは旬が手にしたお金であって、わたしたちのお金ではないわ」

 すると佐和子さんが、強めに言い返した。

「チキショー、億だぞ、億」 

 そう溢す、須藤クンのお父さんを見て悲しくなる。

 わたしは須藤クンが儲けたという、金額を知っていた。雑誌のヘッダーには億となっていたけと、そんな金額ではなかったはずだ。そして、所得税や国保加入を迫られて、手元に残ったのは5~6千万円くらいだったはず。

 普通のサラリーマンなら、儲けたら儲けた分だけ入ると思っているかも知れないが、そんなことはない、キャピタルゲイン課税でも20%はなくなる。

 それに、扶養からはずれたから、毎年国保の年金の支払い義務もある。

 だから、儲けた金は納税用に当座預金にして、取っておくようにさせた。これ以上税金を払う必要ないからね。金利も微々たるものなのに、利子から課税されるなんてと思っていたからね。

 アパートの家賃はこっちて見るっていったけど、須藤クンは、自分で払うって言ってきた。

 学校の方は対応を学生課に、わたしが全面に出て、お願いした。

 授業料を払っているのに、マスコミが押し掛け学生の勉学の邪魔をすることへの対応。あと、女の子たちがつけ回すというのが個人の自由というのなら、他者の権利を妨害している、その責任を大学生なのだから、本人にとらせますとね。

 この辺はマネロン事件の対応が役にたった。

 すると、担当者が真っ青な顔をして「速やかに対処します」だって。おかしい。

 で、中のしつこい女の子たちは、数人ストーカーとして個別に警察に行き訴えた。また、授業を妨害したと、授業料と迷惑料を加算して、低額訴訟を民事で訴えた。

 それに驚いて、皆、退散していた。ウンウン、大体ストーカー行為って、そもそも、男性より女性の方が多い犯罪なんだよね。それなのにマスコミのせいでちょっと変わって知られてしまっている。

 それでも、須藤クンは、先生のところへ行き、宇津木弁護士と出会わないといけないから、その辺も調整してと。里依さんも佐々木さんとお友達にならないといけないしと、わたしたちは大忙しだった。 

 あと、老舗グループもあるね。その辺は放っておいても大丈夫だろう。

 須藤クンは、大学を卒業した。

 就職はやっぱりできなかった。なんか、しなかったみたいだった。

 須藤クンの親に対する態度は少し変わったと思う。

 そうして、須藤クンは、株式投資とか、FXで、稼いで、スタートアップやベンチャー企業などに資金提供をしたり、ベンチャーの創業メンバーとして会社を起こし大きくしバイアウトで儲けて名を売って行った。そして、ある程度の資金を貯めて、投資会社を作った。

 連続起業家、須藤旬の誕生だ。

 会社も順調に大きくなり、須藤クンは、個人事務所を作った。里依さんもやってきた。

 そうして、あと、一年経つと、わたしたちは出会うんだね。

 佐和子さんは、いつもの須藤クンのことを心配して、雑誌とか新聞とかに載るとスクラップしている。

 実は、佐和子さんには、わたしが、アドバイスして、上がりそうな株を買ってもらっている。その点でも、少し経済的に余裕もあるし、社会を見ている。須藤クンが言っていた、専業主婦の世間知らずな母親ではなかった。

 そんな頃、須藤クンのお父さんは、会社を辞めた。

 定年の少し前、1年くらいだったかな? 身体の具合が悪なくなり、もう、働けなくなってしまったからだ。

 その後、入退院を繰り返し、あっけなく亡くなってしまった。

 ああ、だから、須藤クンが有名になっても、全然音沙汰なかったんだ。あんなに、執拗に須藤クンに、集っていたのに、その後、会社にきたという話は聞かなかったから。

 なので、その前に、わたしは動いた。いくらあんな親でも、もう一度、会った方がいい、そう思ったからだ。

 佐和子さんであるわたしは、里依さんに会いに行った。

 里依さんは、少し驚いたが、事情を聞いて、納得してくれた。

 そして、須藤クンをお父さんに会わせる手助けをしてくれた。

 お父さんは、須藤クンに悪態をついたが、須藤クンは、最後に親とちゃんと決別できたと思う。

 そして、佐和子さんに会い、お礼を言っていた。教えて、連絡くれてありがとうってね。

 ああ、それだけでもよかった。

 お父さんの葬式にも須藤クンは出席した。

 その後、佐和子さんの生活を心配した須藤クンが、援助を申し出たら、

「ありがとう。心配しないで。お父さんの遺族年金ともあるし、ちょっとした小遣いもあるからね」

 佐和子さんが言っていた。

 そして、株主優待のある株と配当の多い株を持っている。少しFXもやっていると須藤クンに告げている。

 須藤クンは驚き。

「なんで、どうして」

 とかぶつぶついっている。

 そして、目をそばめ、

「もしかして、キョウコさん?」

 そんなことを口にした。アレ? ばれた。

「ありがとう、キョウコさん。僕も一緒にいられて良かった」

 そう言う声を聞き目覚めた。 

 見ると病院なのか、白い壁に囲まれた知らない部屋のベッドの上にいた。

 隣に、須藤クンが、椅子に腰掛けていて、ぽろぽろと泣いていた。

「あー、よかったキョウコさん。気がついて。ごめんなさい。僕のせいだよね。今、看護師を呼ぶね」

 わたしは、頭をキョロキョロさせて回りを見た。

「キョウコさん、覚えてないんてすか? 会社で倒れたんですよ」

 ナースコールをしながら、須藤クンが説明してくれる。

 そうだった。キュロットの裾に足を引っかけたんだ。あれ? その後の記憶ガナイ。 

「今、山本さんが、マンションに着替えとか、入院に必要なものを取りにいってます。ここにきた時の検査で、少し栄養失調だと言われてます。なので、最低でも三日間入院してください」

 わたしは、夢の余韻から

「旬、こっちにきて、ここに」

 そう告げ、わたしは、須藤クンの頭を撫でようとする。右手は点滴の管がついてる。左手で、可愛くベッドをポンポンとした。

 わたしが、いつもの呼び方でないことに、須藤クンか目を見開いたけど、言う通りに

「ここに座れば良いのですか?」

「ううん、頭をここにつけて」

 ベッドに頭をつけた須藤クンの頭をわたしは、ぐりぐりとなで回した。現実はこんなに甘いけど、切ない。

 ホントに、須藤クンを自分の息子にしたい。

 それには林田さんと一緒になるのが手っ取り早い。そんなことを思いつき、まあ悪くない選択だわと思っていると。

「キョウコさん。なんですか? 顔がとても悪くなっています」

「うーん、もう須藤クンをわたしの息子にしたい。それなら林田さんの申し出を受けるのも悪くないじゃない?」

「だめです、絶対にダメ。そんなことしたら、林田さんは、キョウコさんのやりたいこと全部やって、日本を混乱に落とし込みます。そうなると、僕の全財産が、泡と化します。ここまで苦労して作り上げたモノが全てパーです。そんなことを僕が許しません。」

 そうかそうなんだね。わかる。

 須藤クン財産が失くなれば、わたしも大変になる。わかる。

 なら、これはいい夢を見たねってことにする。


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